side-A・港町ファトスの異変
――港町ファトス――
この港町に来たならばまずはその大きな灯台を見てみるのがいいだろう。
というか、それ以外にまず見るものがない!
確かに、ファトスに住まう漁師たちによって水上げされる海の幸を使った料理は、味にうるさいグルメな魔界貴族たちも絶賛する一級品ではある! が、他にこれが最大最高の魅力だといった物が、ない……
海流の関係からか不凍港であるため利便性は確かにある――
近くのザン山脈の麓には、北の四天王・デドスが統治する都――北都――があり、近隣地域における経済の中心はその北都に集約している―――――
ファトスはその北都を中心とした経済圏の一角として、それなりの賑わいを見せていた―――――
そんな港町ファトスで、今――大変な問題が起こっている――――――
その港町を象徴する灯台が、まったく別の、むちゃくちゃな姿に変貌してしまったのだ!!!!!
「これは……いったいどうしたことだ!?」
真っ先に異変に気づいたのは灯台の灯りを管理する灯台守だった。
無理もない――ファトスに住む者たちは漁業を生業としている漁師か、港に入港する船舶を管理をする港関係者なのだから――そのどちらか職に就いている者たちにとって、灯台は必要不可欠な存在だった―――
その灯台が、まったくもって理解しがたい姿に変わっていたのだから―――――
「祟りじゃ~~~~~!! 祟りじゃ~~~~~!! 大魔王レオンガルデ様の祟りじゃ~~~~~!!」
「はいはいはいはい、ちょっと黙っててねおばあちゃん」
町の住人ほぼ皆が変化した灯台を遠巻きに見ている――
その中で、町一番の物知りばあさんが騒いでいる。
「すぐに!! す~~ぐ~~に~~!! 大魔王レオンガルデ様の後継者、レイナガルデ様にご申告するのじゃ~~~~~!!」
「そういうのはいいから、レイナガルデ様だってこんな事でこ来てくれないから!!」
灯台守が騒ぎ出した物知り婆さんを引っ張っていく――
「兄者、これはどうすればいいと思う?」
「そうだなおと者――ここは我らグロービス兄弟がサクサクっと解決するべきだろう」
町の住人たちが恐る恐るという感じで、遠巻きに眺めている中、変化した灯台に近づく命知らずな者も、少なからず存在する――
「そうですな兄者、この事件を解決することによって、これここにグロービス兄弟ここにありと! 世間に知らしめるべきでしょう!」
「そうだな……かつては今は亡き大魔王レオンガルデ様にも認められた名家でありながら落ちぶれてしまった我らグロービス家――ここでこの事件を解決し、捲土重来、王権復古をねらうべきであろう!!」
町の住人たちに言い聞かせるように変化した灯台に近づくのはグロービス兄弟――元々は魔王軍出身だという触れ込みの、屈強な男たちである――兄弟共に立派なカイゼル髭がチャームポイント。普段は二人で漁師をしている―――――
「その通り! 我らグロービス家が権力争いに敗れ、北の町で漁師をやるようになって早数年――」
「大魔王レオンガルデ様は勇者の軍と相打、両者共に滅びるという形で歴史から消えてしまい、後を継いだ娘様のレイナガルデ様からのお声が我ら兄弟にかかることもなく――」
「でも、今! 我らグロービス兄弟がこの港町ファトスにいたからこそ解決できる事件が起こった、ということですな!!」
「そう思っているなら、ペチャクチャしゃべってないでさっさと行け!! お前ら兄弟の向こう見ずな勇気だけは認めているんだからな!!」
「うん? おお、フルカスか?!」
「はみ出し者のお前も、この件には、無関心ではいられないというわけだな」
「そうだ!」
グロービス兄弟は、住人の集団から抜け出てきた男――フルカスに声をかける。
フルカス――グロービス兄弟と同じようにどこからか流れてきた男で、町に染まり漁師をはじめた兄弟とは違って、町外れに住み、時折現れる魔獣討伐をしながら日々を過ごしている変わり者だ。
漁に出るために普段は薄着である兄弟と違い、無骨な鎧を着こみいつもでかい武器を装備している。そして、そんないかつい見た目でも、あの物知りばあさんには気に入られているらしく、時折食事の差し入れをもらっている。
「うむ。はみ出し者とはいえ、良い心がけだぞ。この事件が解決したらフルカス、お前によく似合うヒゲを見繕ってやろう!」
「勘弁してくれ……」
フルカスはグロービス兄弟の言葉に渋い顔をしながら共に変形した灯台に向かって歩いていく。
近づくと、灯台の変容した姿がよくわかってくる。
灯台は常に潮風にさらされることから、元から頑丈に作られており、そして何度も補修をしていたために、飾り気とか細工そういったものはまったくなかったはずだ。
中はほとんど空洞で、一階部分にこそ簡易的な居住空間はあったものの、あとは最上部まで続く螺旋階段と光を灯すための燃料を運ぶため用の滑車が備わっているぐらいだった。
灯台守は、一階部分で滑車の荷物台に燃料を置き、螺旋階段を上り最上部で滑車を動かして燃料を上まで運び、灯りをともす――
一晩中その灯りが消えないようにするのが灯台守の役割だ。
もしその灯台守に何かあったら、別の者がその役割を代行できるように灯台の構造は町の住人全員に公開されていたし、グロービス兄弟やフルカスも補修の手伝いによく駆り出されていたから間違いようがない。
だからこそ、わかる――
柱で吹き抜け状態になっている灯台の一階に、四角い舞台なんてなかった!!
その舞台からのびるまっすぐな階段もなかった!!
そのまっすぐな階段の上には装飾過多な扉などなかった!!
そして、舞台の周り置かれている何のためにはあるのかわからない、そして、何を模しているのかもわからない、何体もの石像も、またなかった!!
恐る恐るグロービス兄弟とフルカスは、石像をよけて舞台のそばまで近く。
「勇者の塔へようこそ――試練を受けに来たのですね」
「「「―――――!!?」」」
舞台に近づいた三人に突如、高く美しい声が聞こえてきた。
「……勇者……?」
「それでは第一の試練を開始します。準備が整っているならば舞台に上がりなさい」
「なんだなんだ? 勇者とか試練というのは!?」
「兄者! 勇者というのは大魔王レオンガルデ様に敵対していた勇者の軍の事では!?」
「とりあえず、舞台に上がれっていうなら上がってやる!!」
不可思議な声に戸惑いながらもグロービス兄弟とフルカスは舞台に飛び上がる。
「それでは試練を始めます」
ギギ……………
「な!?」
「おいおい!!」
「嘘だろ?!」
ガシャンガシャン!! ギギ~~!! ガガガ!!
突如舞台の周りにあったよくわからない石像が動き出し、舞台に上がって三人に襲いかかってきた!!
「その物たちを倒せたならば第一の試練は突破とし、第二の試練への扉を開放しましょう」
声は階段の上の扉の所から聞こえるようだ。
「な、何者だ!?」
「ワタシはこの勇者の塔の管理者――いずれ現れるでろう世界を救う勇者のサポートのために、この塔にいます」
「わけのわからないことを!!」
フルカスは動き出した石像たちを無視し、階段を駆け上がる!!
「――――――!!」
ガッ!! バタン!!
「フルカッス!!」
が、重装備がたたり石像の一体に足をつかまれ舞台に引きずり戻される!!
「うおうお!! このダンディーなヒゲをねらっているのか!?」
「兄者!! 我のヒゲが!!」
丸腰できてしまったグロービス兄弟は、どうにか石像の以外にも速い動きからどうにか逃れようとする!!
しかし、石像の痛烈な一撃が弟の方の顔面をかすめてしまいカイゼルヒゲの左半分が削られる!!
「ぬう!! よくもおと者のヒゲを!! いくら高貴な生まれとはいえ、この港町で漁師をやって鍛えている我の力を思い知るがいい!!」
ガッ!!
弟の前に出た兄の方が一体の石像と組み合う!! そしてそれを――
「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
力いっぱい持ち上げる!!
「くらいやがれ!!」
ブオン!!!!!
そしてそのまま別の石像に向かって投げつけ―――――!!
ガシッ!!
「なっ!?」
しかし石像が兄の方の手から離れる瞬間、それを掴んでしまい……………
ドンガラガッシャ~~~ン!!!!!
ど派手な音共に転倒するグロービス兄と石像!!
「兄者!!」
弟が悲痛な叫びを上げる!!
だがそこに、別の石像が襲い掛かってくる!!
「くっ!!」
階段から引きずり落されたフルカスが立ち上がり、自身を捕えようとしていた石像を蹴り飛ばす!!
どうにか立ち上がろうとするが――
グロービス兄に、石像の攻撃が、叩き込まれ―――――
「あっぶな~~い!!」
ガキン!!
そこへ割って入った人間が石像の一撃を止める!!
「はっ!!」
そしてそのまま石像を吹き飛ばした!!
「「な!?」」
「…………なんだよ、ヒゲ面のおっさんかよ………こんな場合はかわいいヒロインを助けるってのがセオリーってヤツじゃねえのかよ?」
割って入ったのはまだ若い――というか幼い感じの男の子だった。
どっから来たのかもわからないが、やけにキラキラした鎧と、同じくキラキラしたモロそうな剣を装備している。
そんな剣で石像の一撃を止めたと――信じられない―――――
「だ、誰だお前は!?」
一応助けられた形であるが……目の前の現実に頭が追い付かないグロービス兄が、男の子に聞く――
「僕はノヴァ!! この塔を攻略して勇者になるために来た!!」




