side-J・日本文明の一端に触れて……
♪~~♪~~♪~~♪~~♪~~
ジャ~~~~~……………
「す、すごいすごいすごいすごい!! こんなの、はじめてよ!!」
「本当に……素晴らしい……こんなの初めて……」
うん、なんでこんな事になったんだろう?
オレは、アメシストの女性用トイレを使用後、恍惚とした表情を浮かべているレイナとアニスを、どういったらいいのかわからない感情を持って眺めている……………
あの後、異世界の少女2人と主に七瀬さんを中心とした質問タイムが続いた――そして、その間も2人はデザートやらドリンクやらを結構食べていたためにトイレに行きたくなるのは当然といえば当然――
「まあ、それはわかるんだけど……なんでオレが付き合うことになっているんだ?」
男性である真一や七瀬さんが除外されたとしても、紫鶴さんや表でヤッタルデーにべったりな麻理沙さんでもよかった気がする……
でも、なぜか知らないがオレが満場一致で付き添いに選ばれ、生まれて初めて入るトイレは女子トイレになってしまった……………
「すごいわ……ここのトイレって……あんな音楽が流れたり、大事な所を洗ってくれたりするなんて……」
「しかも終わった後に水がドバ~~!! って流れて汚いものを流してくれる!!」
「ゴメン!! ディープな話はしないでくれる?!」
「ああいうのって、浮遊魔城に再現できないかな? ダンジョンコアでああいう風に動くダンジョンギミックを作るとか!!」
「ええっと、レイナ? それだと、自分の心をトイレに入れるってことになるんじゃない? 私は嫌よ?」
「……え!? あ、そっか――ダンジョンコアを使ったギミックにはレイナちゃんの心を込める必要があるんだよね――トイレに自分の心、か……ちょっとやだな~~」
「それに、ここのトイレは水をふんだんに使っていた――わかっていると思うけど、水っていうのは貴重な資源よ」
「――え? そうなの!?」
「ファロちゃんがそう言うってことは……この世界って、水が豊富なの?」
「この世界ってわけじゃなくて、この日本って国は、かな? 別の国じゃ水不足は珍しくないって聞くし……………」
「なるほど……水が豊富なら、ここのトイレみたいな使い方もできるわけだ……レイナ、ダンジョンギミックでここのトイレを再現したとしても、大量の水が用意できなきゃ使えないわ」
「……そうね――いちお~~デドスさんの所から大量の雪を定期的にもらっているけど、トイレの度に多くの水を使うとなると考えものね……やっぱり浮遊魔城のトイレはスライムが一番か……」
「スライム? スライムって、あの青くて丸くてポヨンポヨンした魔物? あんなのをどうやってトイレに使うんだ?」
オレはゲームの雑魚敵としてよくエンカウントするスライムを、想像しながら言う――
「青くて丸くてポヨンポヨン? スライムって基本ドロッとした濃い緑色のが多いとイメージだけど? あ、ファロちゃんの世界じゃそういうものなの?」
「スライムはね、汚いものを吸収してくれるんだよ。だから大体の場所でのトイレには、スライムを使っているの――ま、魔法で制御管理するのが絶対だけど、レイナちゃんみたいな魔法の達人なら、よゆ~~♪ よゆ~~♪」
バサァ!!
無意味に背中の翼を出現させ、満面の笑みでそういうレイナ――
「って、言うか……別の存在をスライムって呼んでいるだけじゃないの? “きれいにして”」
アニスが手のひらを上に向けほんのり温かい光の玉を出現させる――
「レイナも使う? 洗浄球」
「ありがとう、アニスちゃん」
レイナは背中の翼を消すと、アニスが出した光の玉に手を入れる――
「えっと……なにそれ?」
「洗浄球――トイレとかの後、体をきれいのする魔法」
そう言ってレイナとアニスは光の玉を小さく分けて下半身に持っていく………
「「ああん……」」
「そういう魔法かぁ!! せめてオレがいないところでやってくれ!!」
「いやいや、この場所には女の子しかいないでしょ?」
「……一応、オレの……心は男っ!! 確かに体は女の子型のヒューマノイドであるガイノイドだけども!!」
「それはファロちゃんの心の源泉、シンイチくんの話しでしょ? ファロちゃんは見た目も中身もきちんとした女の子だよ♪」
「そうよ、ダンジョンモンスターだとしてもきちんとした心を持っているなら差別はしないわ」
そう言って光の玉を消した2人はトイレを出て行こうとする――
「あ、ちょっと! 一応なんか気になるから、手を洗って!」
「「――?」」
そして俺は、センサーに手を近づけることで蛇口から自動で水が出ることと、同じように自動で出る洗剤、温風で洗った手を乾かすジェットドライヤー等の説明を一から少女たちにするのであった。
「食事が僕たちの生活に絶対必要であるように、トイレもまた、僕たちの生活に絶対必要なんだ」
「何を言ってるんですか?」
日本文明の一端に触れた異世界人少女2人が色々騒いだせいでえらく時間がかかっていたが、ようやくトイレから脱出できたオレ……………何かを話し込んでいたらしい真一と七瀬さん夫妻3人がこちらを向き直る――
「どうだった? この世界の文明の利器は?」
「すっごく便利♪ 持って帰りたいくらい!!」
「―――――実物を持って帰られるのは困るが、知識や理論を教えることは構わない――」
「え? じゃあ、さっき食べたパフェのレシピとかも教えてもらえるんですか!?」
「他にも教えてもらいたいものがいくつかあるわね――」
「特に~~ファロちゃんみたいな。ビューティ・ドールの制作方法とかもね♪」
「ヒューマノイド研究は一朝一夕にできるもんじゃないけど」
真一が少しムッとした声でそういう。
「ま、そこらへんのことについてはおいおい話していくとしよう――そのためには、いくつかの条件を飲んでもらいたい――」
「条件?」
「あんまり無茶な条件は飲むことはできませんが……それでもいいのなら」
何か含みのある七瀬さんの言葉に、レイナとアニスが微妙な反応を示す――
「……確実に守ってもらいたい絶対条件は一つだ。それは、あのノーヴェル・マシーによって異世界にかどわかされたこの国の若者たち――彼ら救出を手伝ってもらいたい――という事だな」
「ええっと……それって、レイナちゃんがノーヴェル・マシーのおじ様から奪った転移門の魔法がなければできないこと、だよね~~だったら、こちらもかなり有用な知識なりなんなりをもらわないと成立しないんじゃないかな~~」
七瀬さんの言葉にレイナが意地の悪そうな笑顔を向ける。
「それについては、吟味しよう。紫鶴の料理レパートリーは何もパフェだけじゃない。そうだろ、紫鶴?」
「そうね――これでもある程度の料理がつくれるわ。でも――」
七瀬さんの言葉に紫鶴さんが少し含みのある表情で言う――
「私自身は人に教えるのが上手、というわけじゃないから……私が作る料理と、私から教わった人間が作る料理が同じものになる、とは限らない――それだけは心しておいてね」
「……私たちじゃシヅルさんの料理の再現は難しそうね……」
「じゃあさ、元から料理が得意な者を連れてきて教えてもらったら、いいんじゃない?」
「料理上手……まず思い浮かぶのは――フィティシア様かな?」
「キュキュちゃんとかもいいかも♪ リュリュちゃんはちょっと微妙だけど♪」
「そのことに関しては、とりあえず日本人の異世界転移被害者たちを連れ戻してもらってからでいいかな?」
何人か知らない名前をあげ、あの人は料理が上手、あそこの誰々ならそれはそれでと言い出した2人を七瀬さんが止める――
「二つ目は、この世界で身に着けた知識や技術を広める時は、『Made In Japan』という一文をつけてもらいたい、ということだ」
「……? メ~ドインジャパン?」
「日本で作られましたって意味の一文だ。まあ、これは異世界で行方不明になっている日本人に向けてのメッセージだと思ってくれたらいい」
「それを見た日本人が、接触をはかってくるように仕向けるものらしいよ」
真一が、七瀬さんの言葉を補足するように言う。
「そして、第三の条件だけど――」
七瀬さんがそう、言いかけた時だった―――――
バン!! カランカラン!!
アメシストのドアが勢いよく開き店内に2人の人間が駆け込んでくる!!
「銀兄ぃ、なんか大変な事が起こったみたいだよ」
一人は、駆け込んできた割にはのんきそうな梨乃亜の姉、麻理沙――
「特佐!! 大変です!!」
「――? どうした? 二曹――」
もう一人はノーヴェル・マシーが来た公園で野次馬たちの整理をしていた超常自衛隊の隊員の一人みたいだけど――かなり慌てている――
「E国――Enemie国が、日本政府に対し、宣戦布告を宣言しました!!」
「は?」
「防衛庁からすぐに参謀部入りし、対策会議に出席するようにとの命令です!!」




