side-J・改めてダンジョンコア、とは――?
「ええっと……この……ダンジョンコアっていうのは何なんだ?」
一連のゴタゴタはとりあえずはなかったことにして、真一は手に持つ宝石を弄びながら言う――
「……――アニメ『イヴァルンのダンジョン・サーガ』みたいにダンジョンポイントを使ってダンジョンやモンスターのガチャをするとか?」
「………ダンジョンポイント……何それ?」
「ガチャ? ……なんか蠱惑的な響き……」
「え? 普通こういうダンジョン作成とかモンスター育成の物語って、なんらかしらの手段でダンジョンポイントを得てそれを使ってダンジョンの増改築やアイテムの購入、モンスターをガチャで呼び出したりするもんじゃないのか?」
『イヴァルンのダンジョン・サーガ』――っていうのは3年ほど前にやっていたアニメ――主人公の自称天才魔導士イヴァルンがダンジョンを作ってライバルたちとその出来栄えを競うというもの――
――なのだが、アニメはかなり説明不足な所があったのと、当時の世相も相まってあまり人気がでなかった――……オレだって最終回後に原作漫画を読んでやっと内容が理解できたほどだ。
「……ダンジョンモンスターを得る方法はガチャなのに――イヴァルンがガチャるとSSRの美少女モンスターばかり出るっていうんで、チートだチートだって言われていたっけ」
「……チート?」
「SSR?」
「チートってのは本来はゲームで使われていた言葉ね――ゲームをしている対戦相手を無視して自、分に都合のいいようにルールを改悪する行為、だったかしら?」
アニスの言葉にドリンクを運んでき紫鶴さんが答える。
「イカサマ、とも呼ばれているの。もし、チートやイカサマが対戦相手にばれたら、嫌われるだけじゃ済まないわ――最悪、命で償うことすら考えなきゃいけないわね」
「なんか、結構恐ろしい行為なんですね……」
「そうかな? レイナちゃんが有利になるならレイナちゃんはどんなことだってすると思うけど?」
レイナとアニス――チートに対する考え方は違うようだ――
「SSRというのは手に入りにくい物の総称だ――箱の中に1から100までの数字が書かれているまったく同じ紙が入っていて、そこから目当ての数字を一発で引き当てる――なんてこと、普通にできると思うか?」
「それをやれるのが、チートってこと?」
「そうだな、あらかじめ目当ての数字が書かれた紙に目印をつけておくとか、紙の材質を変えて手触りを違うものにしておくとか、少し悪知恵を使えばいくらでも手段は存在する――」
「まったく、悪知恵を働かせていいのは男女の恋愛関係だけにしてほしいわ」
「現実の恋愛は悪知恵でどうにかなるもんじゃないだろ」
そう言って視線を合わす七瀬さんと紫鶴さん―――――
「お二人の結婚って……な、何かあったんですか?」
聞いてほいほい答えてくれるものじゃないだろう――この話題も、これで残念ながら打ち切りとなった……………
「でも~~ダンジョンコアは、そんなゲームのチートとかいうズルとは違うものだよ」
「ダンジョンコアは魔力を流し込んみ、材料となる場所や物質に設計図を合わせて形を整え、最後に心を込めれてダンジョンやモンスター、アイテムなんかを生み出せるって代物なの」
「……材料と、設計図に……心を込める!?」
「心を込めるって、なんかロマンチックね」
その話からすると、自衛隊の戦闘機を材料として――ヤッタルデーのフィギュアが設計図となって作り出されたのが、あの駐車場にいる実物大のヤッタルデーということになるのだろうか?
でも、なんであのヤッタルデーは動いたりしゃべったりができるんだ?
それに、オレも…………………
「そうね。まぁ、大掛かりなものをダンジョン、小さなものをモンスターって呼んでるだけで基本はどれも同じなんだけどね」
「……それで、心を込めるっていうのは?」
「それは絶対重要だよ。ダンジョンコアの持ち主であるダンジョンマスターとなった存在の心を分けてダンジョンやモンスターに込めてあげなければ――それは、単なるアイテムになっちゃうじゃない」
「ま、私たち勇者がやってるのはそれなんだけどね」
アニスが車の中でもこのアメシストの中でも手離さなかった剣を持ちながら言う。
「アニスちゃんたち勇者って、ダンジョンコアを奪っても頑なにダンジョンやモンスターの創造を拒むよね。せっかく持っているダンジョンコアをもっていても使うのはアイテム生成の時ばかり……それって宝の持ち腐れって言うんじゃなかったっけ?」
「“あるべき姿へ”」
キラキラキラキラキラ………
アニスの言葉と共に、彼女の剣が幾枚もの同じ輝きを持つコインに変化していく――
アニスはそのコインを、バッグにしまい込んだ……
「心を込める、と言えば聞こえはいいけど――実際のところ、自分の精神や魂を分断するという意味なんだよ。実際に初期の頃……魔族から奪ったダンジョンコアを使っていくつかのダンジョンを作った人間の――心が完全に壊れてしまったことがあったから――」
「ええっ!?」
「――!! それってつまり!! 俺の心を分解してファロやヤッタルデーに分け与えたって事!?」
「オレが見た――あの……真っ白な空間は……そういうこと、だったのか――!?」
真っ白な空間で衝撃によって分断されたオレ――いや……………真一――!!
それも2回……オレ、ファロと――ヤッタルデーの分だったとすると、あの真っ白な空間での出来事は説明がつく!!
「――真一君――ちょっとこれを持ってもらえるか――」
話を聞いていた七瀬さんが真一に何かを渡してきた……
それは……たしか、ノーヴェル・マシーとの戦闘で使っていた光の刃や砲弾、シールド等を生み出していた何かのツールだ。
「ちょっと銀河!? ――それってウィル・システムのツールじゃない! それを素人の高校生に渡すなんて!! 暴走させて店の中がぐちゃぐちゃになったらどうするの!?」
紫鶴さんが警告の声を出す――
「安心してくれ。僕の予想が正しければ――」
ヴン……
かすかな音と共に真一の手の中でツールが弱々しい光を発生させる……
「あれ? 七瀬さんが使っていた時はもっとこう、パワァァァって、輝いていたような……」
確かに――七瀬さんが使っていた時は力強く輝き、様々な変化を見せていた――
「それは、ウィル・システムのツールだ。ウィル・システムというのは人間の心のエネルギーを攻撃や防御に転用できるという画期的な代物なのさ」
「心のエネルギー!? 自衛隊って、そんなSF的な代物を使っているんですか!?」
「そう思ってくれてかまない。この世界――地球では、科学文明が発達してるとは言っても、まだまだ未知なるものや神秘たる超常が存在しているから、その対抗手段としてね――」
そう言って七瀬さんは真一からツールを受け取る。
そしてそれを今度は――
「君も持ってくれないか、ファロ――」
そう言ってオレにツールを手渡してきた。
ヴン……
「――!!」
オレが抱えるようにそのツールを持つと、真一と同じような光がツールから発生する――
「え? この娘、ガイノイドなのよね? ガイノイドに心のエネルギーがあるなんて……」
「真一君の心がこのファロっていうガイノイドに分け与えられているってことだな。ま、うちの超常自衛隊もSFだとかファンタジーだとか言われているが――本物のファンタジーは、レベルが違うようだ」
七瀬さんは少し肩をすくめると一転して真剣な表情に変わる。
「これで異世界誘拐被害者たちを必ず救出しなければいけない理由がまた増えたな……ノーヴェル・マシーによって異世界に連れて行かれた者たちは、皆――ダンジョンコアをわたされている……そこで、何も知らずダンジョンなりモンスターなりを作りまくっていたら……心がどうなるか、予想もつかない」
「レイナちゃんみたいな魔族なら心が強いからダンジョンコアでダンジョンなりモンスターなりを作っていっても、平気なんだけどね♪ 特にお父様――大魔王レオンガルデなんていくつものダンジョンやモンスターを作っても全然平気だったんだから♪」
「それはそういう種族だから仕方ないでしょ。私たち人間はそこまで強くないの。別れた心を元に戻す方法なんてないんだから――」




