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■コーシュクの回顧都市

 ふうと白い吐息が漏れて霧散していく。

 足下の湖面に目線を落とすとウルフカットの少女が自分をジッと見つめてくる。


 口元をへの字に曲げて鬱屈した表情をしている。

「……退屈」


 一年前のことがふと頭をよぎる。

『俺、軍に入ることにした』

 その少年の一言が未だに頭から離れない。


 ずっと一緒なのが当然だと思っていた。だが、それは幻想でしかなかった。

 友人たちはそれぞれの道を歩みだした。


 自分――サカトモ・リルハは現在、コーシュクの回顧都市で幽閉されていた。

 想い人は何処か――。


   ――◇◇◇――

   

「キリくんが王女の救出なんてどういうことですか?」

 ティユイは不安そうに体を縮こませる。レイアはティユイの右肩に優しく手を置く。


 軍港にある待機室でティユイ、レイア、それにシンクの三人はいた。簡易な机に椅子と質素なもので仮設の急ごしらえ感が見て取れる。


「リルハ王女は第一三独立部隊で預かるという話なのよ。だから救出するときに天神の隊員がいると都合がいいわけ」

 あと表立ってフユクラードが動くと角が立つ。だったらセイオーム軍の第一三独立部隊がやったという立て付けのほうがいい。


「セイオームとフユクラードの間には盟約もあるしね」

「それってありなんですか?」


「外交なんて(とん)()なんだから。使えると思ったら使い倒すものなのよ。無理筋でもね」

 ――どうせあっちも駆け引きで使ってくるんだから。と付け加える。


「ところでキリくんと王女が知り合いだなんて……」

 何者なんだと改めてキリに対して疑問が浮かぶ。


「あらシキジョウって王位継承権――以前は皇位継承権まであったんだから。リルハ王女のサカトモもそれと比肩する家よ」


 二人が知り合いであることに違和感はまるでないとレイアは語る。

「キリくんの家って名家なんですね」

「そうね。実は血統という話をするならこの世界に暮らす人々はすべて海皇の血統と結びついている。でも、選定の際は誰でもというわけにはいかないのよ」


「どうしてです?」

「海皇はただ国の象徴というだけではないわ。国の安寧を祈る祭祀長としての役目もあるの。つまり選定の根拠としてそれなりの物語が必要になるのよ」


 そのための家なのだという。シキジョウなら学問に秀でているし、サカトモはフユクラードでは武芸に秀でている。


「王は継承権を持つ三〇以降の者から選ばれる。任期は終身制。姫巫女も終身制だけど、婚前前の若い娘が選ばれるわ」


「何歳くらいの娘が選ばれるんですか?」

「十代前半から半ばくらいかしらね」


「随分と若いんですね」

「そりゃ海皇の側室っていう側面もあるからね」

 ――いまは形骸化している。ということらしい。


 ティユイは頭からつま先にかけて急激に冷えていく感触を覚える。

「じゅ、十代後半くらいからは?」


「子供ができていることが多いわね」

 レイアは「どうしてそんなことを聞くんだ?」というような表情だ。ティユイの表情はみるみる暗くなっていく。


 横にいたシンクが見かねた様子でレイアの腕を小突く。それでレイアはハッとなる。

「もちろん個人差のある話よ。事情で婚期が遅れることくらい珍しくないわ」

 レイアは慌てふためいてフォローしてくる。だが、時既に遅しだ。


「……な、何でそんなに婚期早いんですか?」

 遠慮がちに訊ねる。そこにシンクが咳払いをして捕捉をしてくる。


「普通の人は長生きしても五〇歳くらいまで。実際は四〇過ぎてから亡くなる人がほとんどなんだよ。だから婚期が自然と早くなるんだ」


「そんなに寿命って短いんですか?」

「記憶なんかは継承されるから。寿命を長めにするんじゃなくて代謝を早めるほうになったんじゃないかって言われているな」


「へぇ……」

 ティユイは感心しながらも端と気づく。


「キリくんは一人で救出に向かったんじゃないですよね?」

「もちろんだ。藤子の人機繰者が同伴だ」


「私が戦った人ですか?」

「ああ。そうだよ」


 できれば自分もその人物に出会ってみたい。ティユイはそんな風に思うのである。


   ――◇◇◇――


 森の中に一角獣が片膝立ちで隠れている。布を頭から被っており、迷彩となってあたりの光景に溶けこんでいる。

 その足下にキリとニィナがディスプレイを見ながら話をしていた。


「狸の置物が動いてるのはどういうことなんだ?」

「あれって焼き物でしょ。名産だったらしいわよ」


「名産、ねぇ」

 キリは眉をしかめる。その狸の置物は自動人形で武装をしていた。おそらくリルハを外に出さないためと、外敵を排除するための装置に違いない。


「その名産を排除しないとリルハを助けられないんだよな」

「キリがメインで動いて、私がバックアップすることになるわ」


 ニィナは無造作に小銃を差しだしてくるので、キリは目を丸めながらも小銃を受け取る。

「これは?」


「ポインターよ。これで照準を付けてくれたら同時に一角獣から消滅弾を放つわ」

 消滅弾とは人機の持つ光振刀から放出される存在意味まで分解する光である。それを照準と同時に瞬間転移によって光弾が着弾する。


 その着弾までに時間的誤差は存在しない。そういう間を“ティポタの間”と呼称されている。


「要するに俺が攻撃をした(てい)で話を進めるってことだよな」

「そうよ。セイオーム軍の第一三独立部隊がやったという話にしないといけないんだから」

 

「そんなうまく行くのかね……?」

 キリは半信半疑である。


「ルミナスセンサーで狸の配置は把握してあるわ。任せて」

「生命反応はなかったのか?」

 

 キリが訊ねたのはリルハ以外の人の存在である。ルミナスセンサーとはあらゆる種類の光を放ち乱反射にて配置などを把握するセンサーである。レンズを通さずに集積するので正確な色覚と距離感覚が掴めるという。


「リルハだけのはずなんだけど、反射に揺らぎが一瞬だけど観測されたわ」

「拐かしを使われたんじゃないか?」


「いまどきって感じはするけど、それが有効だったりするのよね」

「認識をずらして見えないように誘導するんだよな?」


「そうだけど、使用した人はログに空白ができるからどのみち後からバレるでしょ。それで経歴に傷がつくから普通だったら使わない」


 しかし使っている人物がいる可能性がある。そしてキリはその人物に心当たりがあった。

 拐かしを使うことで経歴が傷ついても問題のない人物。


 ――いるのか? ヒズル爺ちゃん。

お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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