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救世主

 間近で大口を開ける闇龍は、黒のブレスを放とうと、濃密なオーラを集中させる。それを縦にぶん殴ると、ホワイティー・マオリンのコンビが、最大限伸ばした魔爪でひっかき切る。


 巨体をくねらせて二人を狙うところへ、エナの魔刃居合斬りが、ズパッと大きな切り口を作った。喉元に当たる部分を斬られた闇龍は、黒オーラを漏らしながら、狙いをエナに変えるが、その切り口にはウールナの矢が突き立ち、ウールルの込めた雷魔法が、流れ込む。


 ゴムを焼いたような臭いの中、動けない闇龍をめった打ちにする。だが即座に回復していく闇龍の牙が、力の杖を振り切った俺に迫った。

 無理な態勢で避けようとするが、思ったよりも素早い動きに、直撃を覚悟する。


 だが俺を真っ赤な紋様を浮かべたディアが突き飛ばすと、身代わりとなって闇龍に噛まれた。

 そのまま持ち上げられるディア。ガッチリと脇腹に牙が突きたっている。


 ホーリィさんがすかさず回復魔法をかける中、その反対側を力の杖で思い切りぶっ叩くと、反動で牙から逃れたディアが、地面に降り立つ。


 〝大きいの行くよ!〟


 アヤカの念話に、俺はディアを抱えて横っ飛びに避難する。その横を、


「龍と星〜っ!」


 もはや何属性が合わさったか分からない位、複雑に編み込まれた魔力糸から、溶岩弾をふくんだ爆炎が放射された。


 横口を開けられ、威力の弱まった闇龍のブレスを吹き飛ばして、溶岩爆炎が圧倒する。このまま焼き切れるか? と一瞬期待するが、闇龍の前面に黒いオーラの膜が張られると、何重にも展開したそれに、爆炎がそらされていった。


 〝もう! すんごい魔力で、押し切れない!〟


 アヤカのイラつきが、念話となって伝わる。無限に供給されるかのような魔力が、圧倒的な差となって、闇龍がゆっくりと前進し出した時、


 〝紅炎フィラメント


 というティルンの声と共に、爆発的な魔力の炎が、魔方陣の中から伸びた。


 それは闇龍の張る魔力のバリアーを溶かすと、抵抗を許さずに、闇龍の体を侵食しんしょくする。闇のブレスで弾き返そうとするが、火に油を注ぐ様に、紅蓮ぐれんの炎を爆発させると、闇龍の全身を飲み込んでしまった。


 〝獄火の魔力を吸い上げている内は、この火から逃れられないわよ。同じ魔力の源だけれども、この魔導書は、いわば獄火の管理書だからね〟


 ティルンの念話が分かったかのように、闇龍は身もだえすると、尻尾を地下から引き抜く。


 俺はこの時を逃すまいと、全員攻撃を命じた。サエが影縫いで動きを止めると、ホワイティーとマオリンが長大な魔爪でメッタ切りにする。その傷口は、前よりも回復が遅い! さらにエナの魔刃居合斬りで、大きな切り口を作ると、ディアが傷口を噛みながら、ローリングでそれを広げ、ウールル・ウールナ姉妹の雷矢が剥き出しの内臓を直撃する。


「ボアアアァァッ!」


 ズタボロになって咆哮を上げるところに、アヤカのシューティング・スターが直撃すると、壁まで吹き飛ばされた闇龍は、それでもしぶとく鎌首をあげた。


 〝とどめだ!〟


 俺は残りの魔力をありったけに放出しながら、気闘砲に頑健(波)を重ねがける事で、数倍に光り輝いた力の杖を振り抜く。


 地面ごと叩き切られた闇龍が、断末魔を上げる中、破片も残さず頑健(波)で焼き払うと、地面が〝ゴゴゴゴ……〟と地響きを立て始めた。


 〝まずいわ、獄火のマグマ溜りが刺激されて、噴火しそうよ〟


 ティルンの声に反応したアヤカが、頭上に巨大な緑の光球を作り出すと、


 〝皆ひき上げるから、私に捕まって〟


 と多腕を伸ばして来た。それぞれが一本一本の腕に飛びつくと、凄い勢いで上に引っ張られる。


 噴火口を辿って、あっという間に上空に飛び出ると、眼下には真っ赤に燃えたぎるマグマが溢れ出るほどに顔をのぞかせていた。


 〝噴火が起こるぞ!〟


 俺の念話に、アヤカが高度を上げようとする。その眼下には、信者達が地響きに怯えながら、火口から飛び出してきた俺に向かって、ひざまづいて祈りを捧げていた。


 〝このままじゃ、皆が噴火に巻き込まれる! 避難させなきゃ〟


 と焦る俺に、


 〝待って、これは……始祖の精霊からの思念を感じるわ〟


 側で魔導書をかかげたティルンが、俺に向かってページを開いた。すると突然飛び出した魔方陣が、真下の溶岩だまりに落ちていく。驚いて見ていると、火口から真っ赤な光の柱が伸び、そこに巨大な人影が映し出された。


「勇者カミーノ、いや、救世主カミーノよ、闇龍を退治し、我がいましめを解いた件、感謝するぞ」


 人影が大きく手を広げるのと同時に、ティルンの口から彼女の物とは思えない声が発せられる。目を真っ赤に光らせたティルンは、魔導書を開いたまま、意識を失っているようだった。


「何者だ! ティルンから出て行け!」


 力の杖を構える俺に、クックックッと笑ったティルンは、


「大丈夫、この娘に危害は加えん。ただ少しの間口を借りているだけだ。そう邪険にするな」


 と告げる。本当か? といぶかしんでいると、


「始祖の精霊様、カミーノとの血の契約、準備は整ってございます」


 と、地面から声が聞こえてくる。あれは……闇だ。血の契約? そんな事した覚えはないぞ。


「うむ、ご苦労。なに、話はわかっておる。この分身体はお前らの迷宮での活躍も見ておったでな」


 え? 迷宮ってアヤカの時の事か? 見られていた? わけが分からない。


「話は闇に聞いておる。本体を助けてくれた見返りとして、この地にお前達の楽園を築いてやろう」


 と言うと、巨大な人影が手をふるう。それに合わせて地面が隆起りゅうきして、火山のふもとに平坦な大地を形作ると、その周辺に広大な溶岩石の防壁が現れた。


 さらに両手を振るうと、岩壁の近くに泉が湧き出し、溢れ出た水が筋を作って流れだす。


 あっという間に地盤改変をなした。その様子を驚きながら眺めていると、


「これでお前達の住処すみかは完成した、地を耕せば我が祝福を受け、豊富な収穫が得られるであろう」


 ティルンの口から出た言葉に、


「なにがなんだか、訳がわかりません」


 と言うと、


「詳しい事は闇に聞け、私はそろそろ本体に戻るとしよう。お主との契約にあたり、急ぎやらねばならぬ事もある。追っ手もすぐそばまで来ておるぞ」


 ティルンの目が元に戻り、魔導書から放たれていた力が緩んだ。


 火口付近に上がっていたマグマが、自然に引いていくと、俺たちも地表に降り立つ。


 ドッと疲れの出た俺たちが地面にへたり込んでいると、周囲を信者達に取り囲まれた。


 その後ろには〝できたてホヤホヤ〟の居住地が広がっている。


 何がなんだか……全くついていけていない俺の前にやって来たのは、黒いローブに身を包んだ闇。


「よくやったのう、この地に住まう者には、我が主の庇護下ひごかにおかれるじゃろう。そしてみごと闇龍を打ち倒したお主には、我が主と契約を結ぶ権利が与えられますじゃ」


「それはさっきお前が言っていた血の契約というやつか?」


 と聞くと、ヒッヒッヒッと笑った闇が、


「そう、主の力を得れば、この地に楽園を築くことも、外敵から身を守ることも簡単になしえるぞえ」


 フードの影に光る目が歪む。なんかしゃくぜんとしないな。


「それで? お前達にはなんの得があるんだ?」


 と言うと、


「一つは、闇龍のような病魔の害から、ご主人様を守ることができる。そしてもう一つ……それはここにいる信者達じゃ」


 とひざまずく人々を指差す。


「信仰こそ神の力、より多くの人々に信仰されることが、神の存在そのものを強める。それでなければご主人様が、あんな女に負けるわけがなかろう」


 声音は地の底から聞こえてくるように低かったが、興奮してくると同時に、段々と高くなる。興奮した目は真っ赤に光り、振り上げる手は節くれだって気持ち悪い。


「あの女」とか、気になる単語が出てきたが、話しかけるのもはばかられた。


 その時、外を警戒していたサエが、


「壁の向こうにハートリーフ教団の軍勢が来ました。その数一万を超え、なおも後続部隊が続く模様です」


 と報告してくる。なんだと? ここにいる信者全員を集めても一万には届くまい。それが武装した遠征軍だけで一万人とか、どんだけ本気だよ?


 敵の規模の大きさに、改めてどれほどの存在と敵対しているのかを知る。が、こうなったらやるしかない。

 MP切れかけだが、こっちにはアヤカという最終兵器もいるし、ティルンの手に入れた獄火の魔導書というものも、相当な魔力を秘めていそうだ。


 と思って二人を見ると、闇龍に極大魔法を連発したアヤカは、お手上げとばかりに多腕を上げ、ティルンは気絶したままホーリィさんの治癒魔法を受けている。


 こうなったら残りの皆で、やれるだけやってやるか? と力の杖を地面につくと、杖の端から地中に根が伸びて、再び幹となってそびえ始めた。


 いやいやいや、今から必要になるから! このタイミングで根っこ生えなくても良いよ。


 と思っていると、


 〝お主の血に魔力を練り込み続けた闇の供物を受け取った。これにて血の儀式は成った! 我が祝福物たる杖を通して、力と共に加護を受けよ〟


 人智を超えたオーラが力の杖に昇ってくる。え? 始祖の精霊さんですよね? 我が祝福物って、力の杖をくれたのは、あなただったんですか?


 と思いながら、杖から今までに無いほどの魔力が流れてくる。まるで噴火と一体になるようなエネルギーに、杖は真っ赤に燃え上がり、その姿を変えていった。


 エネルギーはそのままに、身体に収まると、始祖の精霊を通して、周囲の様子が事細かに知覚ちかくできる。


 その時、目の端にチラリとステータスが見えた。


 救世主Level:1


 力:68254(136508)

 速さ:8754

 器用:9600

 知力:6520

 魅力:10250

 魔力:14752(29504)

 HP:102524

 MP:98065


 保有スキル

 始祖の加護(精霊):Level:1(0/10)

 頑健(神):Level:MAX

 頑健(波):Level:MAX

 頑健(包):Level:MAX

 頑健(絆)

 棍棒術:Level:MAX

 投擲:Level:MAX

 格闘技:Level:MAX

 気闘術:Level:MAX

 気砲術:Level:MAX

 聖火魔法:Level:1(0/10)



 装備

 火力の杖

 紫雲糸のストール

 救世主の服



 きゅ、きゅ、救世主!? 何か数値も凄い事になってないか? ()の中は倍! その他もろもろ突っ込みどころはいっぱいあるが、そんな事よりも流れ込んでくるエネルギーがやばい。


 新たに一字加えて火力の杖となった、真っ赤な棒から伝わってくるのは、始祖の精霊の超感覚。上空から俯瞰ふかんする景色が、俺の視界を真っ赤に染める。


 思考が鈍くなり、


 〝敵が来る〟


 地下からあふれ出る単純な思考力に支配されていく。


 〝敵を突き落とせ〟


 手を一振りするだけで、眼下に展開する万を超える軍隊を、地割れに突き落とせる事を理解する。


 〝敵を吹き飛ばせ〟


 火力の杖を向けるだけで、地下からマグマが噴き上がり、敵を吹き飛ばす風景が想像できる。


 〝敵を飲み込め〟


 そしてもっと簡単な方法は……


 泉が広がり、湖となったその河口付近に、巨大な溶岩の塊が栓となって、流れをせき止めている。

 流れ出る川は細く、軍勢の足を止めるほどでは無かったが、その溶岩にほんの少しの力を加えてやる事で……


 ゴゴゴゴゴ……地響きが俺の鼓動と同期して、大地を揺らした。





*****






 ハートリーフ軍は、目の前に現れた城壁のような溶岩壁に驚きながらも、長い遠征を経て、ようやく追いついた獲物にくらいつこうと、突撃を始めた。


 邪神のシンボルである力の実を食べる、カミーノなる邪教の祖。それにつき従う邪教の徒を、神の名の下に成敗する。


 純然たる奉仕の精神で、追い討ちをかける騎士もいれば、便乗して暴力に狂える未来を夢想する者もいる。


 その足元が、いきなり泥のようにぬかるんできた。はじめは勢いで進んでいた騎士達も、馬が足を取られて立ち往生おうじょうする。


 そこに、


 ゴゴゴゴゴ……


 と地鳴りが聞こえてきた。


「なんだ?」「どうした?」


 と不安な声をかけあう軍勢の目の前に、信じられないほど巨大な岩が数個、飛び跳ねる様に転がってくる。


「土石流だ!」


 という声は、大量の濁流に飲み込まれて消えた。

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