VS闇龍
巨大な洞窟内で、十分なスペースを確保できるアヤカは、巨人化して多腕をあらわにすると、素早くあやとりを組み上げていく。
「帰還の糸をたらしておくね」
というこの魔法は、魔力を流す事で、一瞬にして迷宮の入り口まで帰還できる、とても便利な魔法だった。
こんなに暗くてオドロオドロしい洞窟など、迷宮でも中々ない。頑健(神)や(包)によって吸い込む空気は浄化されるが、命に関わる様な圧迫感が、闇龍という存在の不気味さと共に足を重くした。
〝まっすぐ斜め下に大きなオーラの塊がある〟
俺が頑健(絆)で呼びかけると、マオリンやホワイティー、そしてサエといった先行組が、通り道を探索する。
そして俺たち前衛組が続き、ティルン達後衛組、そして殿をアヤカが務めるのだが、大所帯パーティーでも余裕があるほど広い洞窟だった。
所々広くなった場所などは、浄化できれば多数の人間が住みつける、程よい広場になりそうだ。
そう思いながら歩を進めていると、地底から轟音と共に、闇龍の体動する気配が伝わってきた。
それはまるで地震の様な、余りにも大きな地響きに、洞窟が崩れるのではないか? との心配すら湧いてくる。
すると膨大な気配が動き出した。真っ直ぐに掘られたたて穴を、体を擦りつけながら駆け上がってくる様に感じる。
それは正確に俺の方を目指している事が、直感として伝わってきた。
〝やばい! すぐ下に来ているぞ!〟
近づけば近づくほどにオーラの巨大さが分かる。だがこの時点になっても、その正体はつかめなかった。
〝大きいのいってみる〟
普通の人間ならば、直立するのも難しいほどの縦揺れの中、アヤカの手元には複雑に組まれたあやとりができていた。
あれには見覚えがある、俺もくらった極大魔法〝シューティング・スター〟だ。
俺が洞窟崩壊を心配して注意しようとした時、地面が大きく崩れたと思ったら、そこから真っ黒なオーラが吹き出してきた。これは明らかに呪いのオーラ、もしくは、以前崩壊した村で見た、流行病の黒オーラそのものだった。
咄嗟に頑健(波)を放射するが、余りの濃度と広がりに、黒オーラは拡散する一方である。まるで焼け石に水、蛇口から出る水で大火事を消そうとしてもどだい無理。逆に温度差から弾けとび、火が拡散するのと一緒だ。
その時、空間を焼く魔方陣が無数に現れると、隕石群が真下に向かって怒涛の勢いで降り注いだ。
来た道を戻って避難する俺たちの後ろで、岩壁にぶつかって轟音をあげる隕石の破裂音が聞こえる。
吹き飛んできた破片を力の杖ではらうと、もうもうとあがる粉塵に向けて、頑健(波)を照射した。
光が通らず、視界はゼロに近い。だが俺のオーラ眼はごまかせない!
〝軌道を変えた!斜めに突っ込んでくるぞ!〟
俺の警告に、身軽な者たちは周囲に広がり、魔法を主体とする後衛組は、アヤカの後ろに隠れた。
エナとサエ、そして真っ赤に紋様を浮かび上がらせたディアが、俺の側に付き従う。エナは腰にさした太刀に魔力を貯めて、新たに開眼したという〝魔刃居合斬り〟という、魔力を込めた抜刀術の準備をしていた。
ディアも進化した咆哮魔法の準備を進めている。
サエが、
「来ます!」
と告げるのに合わせて、頑健(包)を全開にする。さらに前衛組には(絆)を通して、同調性を高めた。
目の前の地面がつきあげられて、洞窟が崩れるほどの塊が、天井にぶつかって破片と粉塵を散らす。
そこへ魔力のかたまりとなったディアの咆哮がぶつかった。思わず周囲の人間が意識をもっていかれそうになるほど、威力の込められた魔声に、真っ黒な塊が反応する。
地響きをたてて地に足をつける闇龍。だがその足も、濃密な黒オーラに包まれると、すぐに見えなくなる。
その濃密なオーラが渦を描いた。その中心に集まるのは極めて高密度な魔力と、黒のオーラの混じり合った力。
アヤカが〝わたしにまかせて!〟
と前に出ると、ものすごい勢いで、巨大あやとを作り上げた。
〝りゅ〜うっ!〟
という手元には、確かに複雑に編み込まれた龍の顔が形作られている。その中心部には4属性の魔力が絡まっていた。これはシューティングスターよりもこみいったあやとり魔法なんじゃないか?
ディアの咆哮が途切れると、闇龍の首がこちらに向き合う。そして混成の渦から、通路を埋め尽くすほどのドラゴン・ブレスが放たれると、まるで巨大な闇の塊が、全てを飲み込むように迫ってきた。
それに対して、アヤカのあやとり魔法も光を放つと、闇に反発するような、真っ白に輝く光線が放たれる。
闇と光が真正面からぶつかり、逃げ場を求めた力が周囲を圧迫する。後ろにいたウールルが耐えられずに、
「きゃっ」
と悲鳴をあげる。あまりの圧力に耳がやられたらしい。俺は頑健(包)の力を上げると、全員の耐久力を上げて、様子を見守った。
双方尽きることのないブレス合戦。だが闇属性に強いという、光属性の利点が効いて、徐々に効率のよいアヤカの魔法に軍配が上がっていく。
〝このままおしきれ! 皆もサポートだ〟
俺は闇の濃いところに、頑健(波)を照射する。ディアも咆哮魔法で、闇龍の注意を引きつけて、いらだたせた。
不自由に首を巡らす闇龍のブレスが、ホーリィさんの側を焼きはらう。だが、手のひらから神聖魔法の光を放ったホーリィさんは、そのまま拳を握りこむと、なんと闇のブレスを殴り返した!
そのままくりだされるピストン・パンチに、押し返される闇のブレス。す、すげえ! こんな事できる人だった? ものすごい勢いで揺れるおっぱいに、目がいくのを必死にそらすと、ティルンとウールルが込めた魔力の矢が知らぬ間に闇龍の後頭部あたりの闇に突き立つ。
完璧に気配を殺していたウールナの一撃が決まった! 貫通した矢から、洞窟全体を揺るがすほどの雷撃がほとばしると、一瞬闇のオーラが打ち払われる。
そこに姿を現したのは、のたうちまわりながら、またもや黒のオーラを立ち昇らせ始める闇龍。
ヌメヌメとした直径3mを超す、黒いミミズの様な体に、これまた黒光りする龍鱗をまとっている。その一枚一枚は俺の胸板の様に厚く、大きかった。
洞窟を埋め尽くすほどの体がのたうちまわっているため、崩れないか心配になる。あまりの振動に皆を少し下がらせると、なにかの器官で察知したのか、俺たちの方に巨大な口を向け、
「ギュオオオァッ!」
杭のように並んだ牙をむき出しにして咆哮をあげた。だ液に濡れる牙は、一本一本が俺の腕ほどもある。思わず皆が硬くなりそうな時、
「オウウゥゥン!」
とディアも負けじと咆哮をあげて、闇龍の気をそらした。そのまま駆け寄るディアに、体を縮めた闇龍が瞬時に飛びかかる。
その巨体からは信じられないほどの動きに、ディアが飲み込まれた様に見えた俺は、
〝ディア!〟
と叫びながら、闇龍の側面に突撃した。その視界の端に、赤い残光が線を作って、闇龍に噛み付くのが見える。
〝ご主人様、もっと頑張れる! 見て、見て!〟
分厚い鱗のすきまの皮膚を、ローリングしてねじきったディアが、嬉しそうに念話を送ってくる。
さすが我が愛狼! 俺も負けじと力の杖で思い切り打ちすえた。
鱗を割り、地面にまで届け! とばかりの一撃に、中折れした闇龍が咆哮を上げる。だが分厚い皮膜はかなり丈夫らしく、半ば以上には食い込んでいかない。
そして怒り狂った闇龍は、濃密な黒いオーラを口に集中させて、ドラゴン・ブレスを吐こうと鎌首をもたげた。
その真横に、緑色の光球が表れる。アヤカの〝くっつくん〟だ。さらにその下に現れた二個目のくっつくんに引きずり込まれると、闇の保護を得る間もなく、合体したくっつくんによって、地面に吸引される。
後ろの方から波打つ体を寄せて、洞窟いっぱいに体を張った闇龍は、なんとかくっつくんの吸引から逃れようとする。よく見ると、小さなかぎ爪状の足が、体の節目から無数に伸びて、壁に食い込んでいた。
〝まかせるにゃん!〟
そのすきまに飛び込む影、真っ黒なスーツに面兜をおろしたホワイティーが、魔爪をふるってかぎ爪を切り裂いていく。その反対側にはマオリンが、必死の壁走りでついて行っていた。
すぐに新たなかぎ爪が伸びて、二人を捕えようとするが、素晴らしい速さの空中殺法で、かわしていく。
その間にもくっつくんに引きずられ、力の杖に殴られ、ホーリィさんのガトリング・パンチにティルンとウールルの合体魔法をくらった闇龍は、抵抗するのをやめて、逆にくっつくんに突伸した。
巨大な口で緑の球体を飲み込んだ闇龍は、体内に吸引される様にベコリとへこむ。だが黒のオーラを集中させると、力でねじ伏せるように飲み込んだ。
巨大な体の中を通るくっつくんが、内部から闇龍を引っ張るが、とうとう中で吸収されたのか、闇龍の動きが活発になる。
〝ああ、くっつくんツインが飲まれちゃった〟
となげくアヤカの手元はものすごい速さで新たなあやとりを編み込んでいる。その魔力の高まりを恐れたのか、自由を得た闇龍は身もだえすると、轟音を上げて後退し始めた。
〝逃すな!〟
という俺の念話に、気配を殺して近づいていたサエが、影縫いの一撃をみまう。それによって、一瞬動きが鈍くなり、これまた気配を殺していたウールナが、精霊石の矢を射る。
ウールルの雷付きの矢が、闇龍の体関節に突き刺さると、体表を紫の電流が走る。これでマヒしてくれれば……そのスキをついて、エナが魔刃居合斬りを放つが、即座に反応した闇龍のブレスにかき消されると、黒のオーラが煙幕のように広がった。
〝下に向かってるマオ!〟
マオリンが食い止めるべく突撃するが、あまりにも違いすぎる大きさに、歯が立たない。
その時、ホワイティーとサエが、ある限りの爆魔石を投じるのを見て、俺も袋から、あるだけの爆魔石を取り出すと、思い切り投擲した。
カッ!
と閃光が放たれると、闇龍の身じろぎ後退と共に、洞窟の崩れる音がひびく。
俺は逃げる闇龍を追おうとしたが、仲間たちに大きな岩が落下してくる気配を感じて、あきらめた。
人間大の岩がはがれ落ちてくる。落盤か! と警戒しながら、大きな岩で落石を防いでいると、アヤカがくっつくんを出して、落石をそっちに誘導してくれた。
ホコリだらけの洞窟内で、闇龍の後退した穴を照らす。だがその穴はそうとう深くまで続いているらしく、黒オーラの残滓だけが、なごりのように張り付いていた。




