第14話 最高級の伝統衣装
うっわ。
緊張する。
私は今、王宮の謁見室にいる。
部屋中きらびやかな装飾が施されていて、なんというか、もう、すごい。
床に敷かれている絨毯も一級品、天井には一流の画家が描いたという女神様のどでかい絵画。
右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても、とにかく豪華、豪華、豪華。
おもわずキョトキョトと辺りを見回してしまう。
「これ、ミント、下をむいていなさい」
小声で私にそういう村長だって、さっきからガチガチに緊張しているじゃん。
私たちは村長を挟んで右側にルパート、左側に私という順番で並んでいる。
一応並び方にも序列があって、右側の方が上席ということになっている。
現代の我が国では、諸国の中では先進的であるとはいえ、やはり男性の方が女性より席次が上になりがちではあるのだった。
ま、中には奥さんのほうが身分が上、っていう貴族の御夫婦もたくさんいらっしゃるみたいだけどね。
謁見室の中にいるのはいかつい武装をした衛兵だけで、まだ国王陛下はいらしてない。
今日は王妃殿下は地方へ視察に行っていて留守らしい。
この国の習わしでは国王陛下の顔をまともに見るのは非礼とされている。
だから、私も辺りを見回すのをやめて少しうつむき加減に立っていることにした。
いやー、緊張する。
国王陛下に謁見するなんて生まれて初めて。
しかも、私は今や貴族の身分を失い、ただの農夫の妻としてここにいるのだ。
なにか失礼なことを言っちゃったりしでかしたりしたら、有無を言わさず首が飛ぶかもしれない。
絶対王政を敷くこの国では、庶民の命ってのは残念ながら軽いものなのだ。
とはいえ、数十年前には暴虐をふるったという先々代の国王陛下と違って、今の国王陛下はとても穏やかで慈愛に富んだ方だという。
だからといって非礼を働いていいわけじゃないので、私も緊張しつつ国王陛下がいらっしゃるのを待つ。
私の着ているドレス、変じゃないかな?
日にちがなくてさすがにフルオーダーというわけには行かなかったけど、王都についたその日、早速高級衣料品店に行って私の服を超スピードで仕立ててもらったのだ。
なにせ、私は嫁いだばかりで、持っているドレスといったらサイズの合わないウェディングドレスぐらいのもんだったからね。
まさか純白のウェディングドレスで国王陛下に謁見するわけにはいかないし……。
純白が私の血液で赤く染まりそうだよ。
村長とルパートはこの国の伝統的な服を着ている。
いつかドラゴンナイトのアリオンが着ていたのと同じ、絹でできた礼服だ。
ま、さすがにアリオンほどの上等なものじゃなかったけど、でもさ。
うん、ルパート、礼服が似合っていてとってもかわいい。
いいよいいよ、さすが私の旦那様。
と、その時。
コツ、コツ、コツ。
革靴が絨毯を叩く音が聞こえてきた。
ただでさえ直立不動だった衛兵たちが、さらに背筋を伸ばした。
う。
ついに、いらっしゃる…………!
国王陛下は五十代とお聞きしていたが、なんというか、足音の調子が、若い。
さすが王国400万人を統べる国王陛下、歩き方も若々しい。
コツ、コツ、コツ……。
その足音が国王陛下の座るべき玉座のそばまで行き――。
止まった。
そして、それからさらに数分の沈黙。
私たちは下をむいているのでどうなっているのかはよくわからない。
普通、お付きの人とかが、国王陛下のお成りだ、とか、頭を上げて良い、とか挨拶をしろ、とか言うもんじゃないの?
そう言うふうに段取りを聞いていたんだけど。
……。
…………。
………………。
さらに数分が経った。
おかしくない?
さっきの足音、国王陛下じゃなかったのかな?
そう思うと好奇心の塊が私の心の中でどんどん大きくなっていっちゃって……。
頭を少しだけ上げて、ちらっと見てしまったのだった。
そこにいたのは。
最高級の伝統衣装を身にまとった……アリオンだった。
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