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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第9章 運命の日

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第67話 セリス主催のお茶会

ご覧いただき、ありがとうございます。

 あれから三週間後。

 わたくしの学園生活は順調に進み、学園に通い始めて一ヶ月が経っていた。

 最近では魔術の実技での成果が得られ、物を浮かせる初級の魔術なら使用をすることができるようになっていた。

 

 尤も、わたくしの魔術学園での目的はあくまで「魔力操作を行うことができるようになること」であり、その目的はほとんど果たすことができたので、わたくしは明日を以て学園での生活を終える予定だ。

 

 また、あの騒ぎの後に学園長の判断によりわたくしの対応をする講師をルチアから別の女性講師へと変更がされた。

 流石にあのままルチアを担当に付かせておくのは、具合が悪いと判断をされたようだ。


 なので、ルチアとはあの後あまり話すことができていないけれど、昨日(かね)てから調節を行なっていたことがようやく整ったので、そのことを明日必ずルチアに伝えなければいけないわ。


 そして、本日は予てから準備をしていたわたくし主催のお茶会の日だ。

 といっても、陛下に仰っていただいた通り、今日は初回なので小規模のものにし、招待客は四名にした。


「妃殿下、お客様がお越しになりました」

「はい。分かりました」


 ティアの呼びかけで、わたくしはティーサロンの最終確認を止め、来賓用の玄関へと向かった。


 来賓用の玄関は本宮の中央に位置し、広めの個室分程の広さがあり、華美なガラス細工で装飾された魔宝具の灯りや、クリスタルガラスの花瓶に生けられた真っ赤な薔薇が至る所に飾られているなど、王宮内でもより配慮に力が入っている場所だ。


 ともかく緊張からくる身体の震えをなんとか抑えながら、わたくしはできうる限り背筋を伸ばしてお客様方を出迎える準備をした。


「本日は、ようこそおいでくださいました」

「妃殿下におかれましては、喜ばしい席にご招待をいただきまして、誠にありがとうございます」


 招待をした三人の貴婦人と一名の令嬢が軽やかに玄関ホールへと移動し、わたくしに向けて辞儀(カーテシー)をする。

 それからお互いに軽く挨拶をし合った後、ティアとルイーズと共に貴婦人方をティーサロンへと案内した。


「それではささやかながらですが、始めさせていただきたいと思います。皆さん、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 ティーサロンの中央の席には、本日招待をしたフォール侯爵夫人、ご令嬢のモニカ嬢、サリー伯爵夫人、ルロン男爵夫人がそれぞれ座っている。


「それでは、早速お茶をお淹したいと思います」


 ティアに目配せをするとティアは小さく頷き、素早い動きで予め用意をしてあったワゴンからティーセットを取り出して、丁寧な動作でわたくしの目前にティーポットや人数分のティーカップを並べてくれた。

 わたくしはティーカップにポットでお湯を入れて温めてから、ティーポットに茶葉を入れて蒸らす時間を計るために砂時計をひっくり返す。


「まあ、妃殿下自らがお茶を淹れてくださるのですね。恐縮でございます」


 フォール侯爵夫人は、綺麗な琥珀色の瞳を輝かせながらそう言った。隣の席のモニカ嬢も感心したような表情を向けている。

 わたくしは思わずサリー伯爵夫人の方に視線を向けると、夫人は満足そうな目でこちらを見て頷いていた。


「はい。本日は皆さんにせっかくお集まりをいただいたのですから、わたくしも何かできないかと模索をした次第です。少しでも、皆さんに楽しんでいただけたらよろしいのですが」

「そうでしたか。妃殿下の温かいお心遣いを感じることができて心嬉しいです」

「それはよろしゅうございました」


 今回のお茶会の開催にあたって、招待客のリスト選びは陛下にお力添えをしていただき、内容に関してはサリー伯爵夫人に相談に乗ってもらった。


 わたくしが自らお茶を淹れたいと提案をした当初は、サリー伯爵夫人はあまり良い顔をなさなかったけれど、実際にサリー伯爵夫人にお茶を淹れたり、ことの真意を伝えると快諾し助言をいただいたのだ。


 そして、砂時計の砂が落ちきり蒸らし終えると、慎重に紅茶をティーカップに淹れて、ルイーズが一つずつ丁寧に運んでくれた。


「本日の紅茶は標準的な茶葉を選び、お茶菓子もそれに合わせたものをご用意致しました。それでは皆さん、ご歓談をお楽しみください」

「はい、ありがとうございます、妃殿下」


 テーブルの中央に置かれたケーキスタンドのそれぞれの段には、お茶請けの焼き菓子やスコーン、サンドイッチが置かれている。

 それは、お茶会を始める少し前に予めティアに手配をしてもらっていたものだ。


「とても美味しいです、妃殿下」

「それはよろしゅうございました」

「ええ、香りもよいですし、お茶請けの焼き菓子ともよく合っています」


 フォール侯爵夫人が感嘆の息を漏らすと、隣の席のモニカ嬢も控えめに頷いた。


「そう仰っていただき、安心致しました。それからフォール侯爵夫人、先日は婚礼の儀のご参列及び、お祝いの品をありがとうございました」


 本日のお茶会に招待をした貴婦人方は、先日の婚礼の儀にご参加をいただき、かつ王宮に直接お祝いの品を贈っていただいた方々だ。


「いいえ、とんでもありません。あのような素敵な式に参列することが叶い、光栄です」

「ええ、本当に素敵な式でした」

「わたくし、思わず感嘆の息を漏らしてしまいましたもの」


 フォール侯爵夫人に賛同するかのようにサリー伯爵夫人が口を開き、更にルロン男爵夫人も加わった。


「分かります。このように発言をするのは畏れ多いですが、お二人ともとても素敵でしたもの」

「ええ、それはもう」


 三人とも口々に黄色い声を発して目を輝かせているけれど、何について熱を帯びているのかしら。


「どのようなお話をされているのですか?」


 ピタリと三人の動きが止まり、お互いの顔を見合わせてから一斉にわたくしの方に視線を向けた。その目はより輝きを増しているように感じる。


「妃殿下の婚儀の際の、誓いのキスの時のお話ですわ」

「とても素敵なお式でした」


 フォール侯爵夫人の後にモニカ令嬢が続いた。モニカ令嬢はわたくしの弟のミトスの婚約者であり、その縁で時折実家にも招待をし、お茶を共に嗜んだことがあった。

 もっとも、過去のわたくしは虚弱体質だったので、それは片手で数えられるほどだったのだけれど。


「そのように仰っていただきまして、ありがとうございます。とても嬉しいです」

「結婚後の陛下と妃殿下の仲のよろしさは、わたくし共の耳にも入っております」

「陛下がとても妃殿下を大切にされているとか」

「それはもう、あの婚儀でのお二人を見たら明白です」

「そうですわね」


 次々と称賛をしていただいているけれど、流石に気恥ずかしさから居た堪れなくなってきたわ……。

 それに王宮内だけではなく、まさか貴族間でもわたくしたちの噂が広まっていたとは……。


「ときに、今皆さんの間でパルと言う演目のオペラが好評のようですね」


 ともかく話題を変えたいので、前もって下調べをしておいた貴族間で流行っている事柄の一つを持ち出してみた。

 四月から六月の初旬の社交界シーズン中に、よく話題に上っていたと侯爵夫人でもあるティアやサリー伯爵夫人から予め聞いておいたのだ。


「ええ、左様でございます。わたくし二回ほど観に行きましたが、主演のお二方が美男美女でとても好ましかったです」

「フォール侯爵夫人も観に行かれましたか? わたくしもこの間の日曜日に夫と共に行きまして……」


 夫人方はしばらくオペラの話題で花を咲かせていて、わたくしも時折頷いたり、詳細を聞いたりして過ごしていた。

 すると、向かいの席のモニカ嬢がチラリとわたくしの方に視線を向けたのに気がついたので、話しかけることにした。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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