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【書籍化・コミカライズ】二度目の人生では、お飾り王妃になりません!  作者: 清川和泉
第6章 セリスの真実

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第37話 潔白の証明

ご覧いただき、ありがとうございます。

 その後、バルケリー卿は早口で詠唱を始めた。すると、オリビアの左肩に置いた卿の右手がたちまち赤色に発光し、次の瞬間それはスッと消えていった。

 その間に先ほど卿が説明をしてくれた魔法陣も、一瞬現れていたように見えたわ。


「リビア、一昨日の晩のことを思い出して欲しい。君が妃殿下の湯浴みの補助についた時のことだ」

「一昨日起こったこと……」


 オリビアは目をそっと(つぶ)った。その表情からは、目を瞑っていても真剣さが伝わってくる。

 それにしても、バルケリー卿は「潔白の証明」をどのような方法で行うつもりなのかしら。もし、バルケリー卿が現在使用している魔術でそれが証明することができるのだとしたら、……魔術って、少なからず恐怖を感じるわ……。


「呼び覚まされし記憶よ、我らの目前に現れよ」


 バルケリー卿が呟くと、卿の指先が眩く発光し、その光は魔宝鏡へと移っていった。


「……魔宝鏡に、記憶が映ってきたな」

「魔宝鏡……ですか?」


 アルベルト陛下の言葉に対して、どういうことなのかと疑問に思って傍で様子を窺っていると、エモニエ卿が真剣な表情で近づき頷いた。


「ええ、そうです。副長の『記憶魔術』は従来の記憶魔術とは違い、この魔宝鏡に被術者の記憶が映るのですよ」

「……凄いですね」


 そんなことができるのね……。けれど、「従来の」と言うことは元々のものとは変わったということよね。元はどのような形の魔術だったのかしら。

 疑問は感じるけれど、ともかく今はオリビアの疑惑を晴らす方が先決だわ。


 鏡に視線を移すと、そこにはお仕着せを着たオリビアが誰かと話をしているところが映っていた。その相手は給仕の格好をしているようね。周囲の棚には複数の調理道具が置かれているようだけれど、ここは何処かしら?


「どうやら、厨房で給仕と話をしているようですね」

「……例のカップを受け取ったのは、この時か?」

 

 エモニエ卿の言葉に陛下が疑問を呈し、オリビアは軽く首を縦に振った。


「……はい、おっしゃる通りでございます、陛下」


 緊張をしているのか、声が震えているように感じる。思えばわたくし付きとはいえ、普段オリビアが陛下と直接会話をする機会は殆どないのでしょうから、戸惑うのも無理がないわ。

 

 それから会話を終えた後、オリビアは右手にミトンをつけてから、調理場に置いてあるケトルの取手を持ってポットにお湯を注ぎ始めた。


「これが例のポットだな」

「……はい」

「通常なら、厨房の者が用意をするのではないのでしょうか」


 エモニエ卿に問いかけられると、オリビアは人差し指を口元に当てて目を瞑った。(くだん)のことを思い返しているのかしら。


「……確かあの時は、先程会話をしていた厨房の方が急遽用事ができたと仰いまして、更にお湯は適温にしておいたと伺ったので、代わりにわたくしがポットにお湯を注ぎました」

「……ケトルのお湯に、魔術薬が予め混入されていたということはないでしょうか?」

「いや、ポットの湯自体には魔術薬が混入されていなかったのだから、その可能性は低いだろう」


 まるで心に刺さるかのような陛下の低い声に反応したのか、オリビアの肩が小刻みに震えて来たように感じる。


 ……そうよ。この後の内容によって、無実かどうかが決まる可能性もあるのですもの。それに、自分の関わったことをあれこれ考察されるのも心苦しいわよね。

 ……わたくしも震えて来たけれど、心細いのはあくまでもオリビアの方なのだから、少しでも力になれるように努めなければ……!


「オリビア、大丈夫よ」


 そっと、オリビアの震える手を握った。その手は冷たくて何処までも心細さを感じさせる。


「あなたには、わたくしやバルケリー卿がついているのですから」


 オリビアは思わず俯いて、目元を指で拭った。


「妃殿下、……ありがとうございます」


 今のわたくしにできることは、オリビアを見守り言葉をかける以外にはないのかしら。他にも何か、力になれることがあれば良いのだけれど……。

 

 だから、どうかオリビアの無実が判明しますようにと、願いを込めて両の掌を握り、魔宝鏡に再び視線を戻した。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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