騎士団幼年学校入学試験 その三
(見てなさいよ。吠え面かかせてやる!)
私は――――自分に付与魔法をかけた。力と敏捷性の能力を強化するためだ。
実は、入学試験の項目に魔法を使ってはいけないなどという禁止事項はない。
それもそのはず、この世界では魔法の発現は十四歳以降と相場が決まっているからだ。騎士団幼年学校の入試を受ける十三歳では魔法を使えないというのが、世間一般の常識だ。
もちろん私はこの常識の範囲外。
多少卑怯くさい気もするが……いや、勝つためには手段を選んでいる場合ではないもの!
なにより、私はこの兄王子より圧倒的に弱いのだから。
「はじめ!」
騎士団長の息子の声が響いた途端、私は猛ダッシュした。
強化された足で大地を蹴り、王子に肉薄する。
「なっ!?」
王子は、驚愕の声を上げた。今まで見てきた私の動きと今の動きが全く違っているのだから、当然だ。
それでも彼は、咄嗟に剣を構えた。
私は、強化した精一杯の力で自分の剣を叩きつける!
ガッキ~ン! と、重く大きな音が響き渡った。
「くっ!」
一言呻いた王子だが、見事私の剣を防ぎきる。
私は、少し彼を見直した。
「へぇ? 今の変化に対応出来るんだ? その調子で頑張ってくださいね」
「ハハ……とんだ猫かぶりのお嬢さんだったわけだ。よかったよ。これなら私も少しは楽しめる」
そう言うと、今度は王子が私に斬りかかってきた。
当然防いだんだけど、剣がものすごく重い。王子は、見た目すらりとしているんだけど、この細腕のどこにそんな力があるんだろう。
連続で三太刀。なんとか合わせた私は、飛び退って距離を取った。
(…………ハハ、やばいわ。このままじゃ負けちゃいそう)
まあ、諦める気なんて欠片もないんだけど。
こうなったら、捨て身でいくしかないわよね!
私は、強化魔法を三乗にした。三倍じゃなく三乗である。
魔法に大切なのはイメージだから、倍じゃなくて乗でもいけるかと思ったら出来たのだ。
私って天才なんじゃない?
これから自分のやることを思い、尻込みしそうな心をポジティブ思考ではね除けて、私は駆けだした。
同時に王子も迫ってくるけれど……遅い!
先ほどよりもグンとスピードを上げた私の動きに驚いた王子は、焦って本気で剣を繰りだしてきた。
そう本気だ。
悔しいけれど、今までの彼は、驚きつつもきちんと自分の力をコントロールしていたのである。
いくら私の言動に腹が立ったとしても、十三歳の少女に本気なんてだせるはずもなかったのだろう。
(その余裕が腹立つっての…………来るっ!)
私は、王子の本気の剣を、わざと防御せずに受けた。
ボキッ! と、聞こえてはいけない音が、剣のあたった右腕から聞こえる。
間違いなく腕の折れた音だ。
骨折までするとは思わなかったけど、でも好都合かも。
ものすごい激痛に耐えながら、私は回復魔法で骨折だけを治した。
打撲や他の傷はそのままだ。私が回復魔法を使える聖女だって知られるわけにはいかないから、見えるところは治さない。
「あっ! すまなっ――――」
王子は焦り顔で、その場でうずくまった私を覗きこんできた。
私は、その王子の喉元に左腕で剣を突きつける。
ピタリ、頸動脈の数ミリ手前で刃を止めた。
王子の碧の目が、限界まで見開かれる。
「勝負あり! 勝者エイミー・リシャーク!」
騎士団長の息子の兄が、大きな声で宣言した。
――――私の名前、知っていたのね。
私は、ニヤリと笑う。
「ハハ…………ザマァ」
ミロと、言う前に私は意識を失った。
限界まで聖力を使い切ってしまったのだから、仕方ない。
ああ、でも、やっちゃったなぁ。
彼らとは、本当に関わりたくなかったのに。
だって…………このふたりは、乙女ゲーム開始時には死んで存在しない人物だから。
そう思いながら意識を失った。




