騎士団一択です
乙女ゲームによれば、邪竜の復活は、既にはじまっているらしい。
邪竜の封印石に変化はないが、邪気が大地を通して世界各地に広がっているようで、少しずつだが年々魔獣の出現率が増えている。
十年後に邪竜は完全復活し、呼応するように私も聖女の力を発現させる……みたい。
とはいえ、今も十年後も私はただの男爵令嬢だ。
戦闘経験も何もない少女をいきなり邪竜にぶつけても、負けるのはわかりきったこと。
このため、国は聖女をとりあえず王立学園に入学させるという手を取った。
そこで力を学ばせ研鑽させると同時に、聖女が自分の力を付与出来る人材を探させようとするのだ。
これは、これまでの邪竜との戦いの記録にもあることらしく、自ら剣を振るえぬ聖女は特定の騎士を選び、その者に聖力を付与し戦わせたのだとか。
彼らは、聖騎士と呼ばれ歴史に燦然と名を残している。
この聖騎士候補が、乙女ゲームでいうところの攻略対象者たちなのだ。
――――て、全部娘からの受け売りなんだけど。
国に、そんなつもりはなかったのかもしれないけれど、年頃の男女が親しくなれと言われ行動を共にすれば、恋だの愛だのに発展するのは、予測できないことじゃないはずだわ。
だったら、そうなったとしても問題ない人材を選べばよかったのに、どうして攻略対象者にはもれなく婚約者がついてくるのよ?
明らかな人選ミスでしょう!
そもそもの話、聖女の力を研鑽させるためならば、どうして国は聖女を王立学園なんかに入れたのかしら?
欲しいのは戦う力を持つ人材なんでしょう。
だったら騎士団とかに入団させた方が、ずっと問題なかったはずなのに。
そっちの方が、即戦力になりそうな騎士がいっぱいいたわよね?
(まあ、でも国の思惑もわからないでもないわ)
前世の記憶を持つ五歳児の私は、そう思う。
なにより聖女の力は魅力的だもの。
聖属性の付与魔法に結界魔法、特に回復魔法なんかは、喉から手が出るほど欲しいに決まっている。
それを、純真な少女が持っているのだもの。あわよくば手に入れたいと思う者が大勢いたに違いない……権謀術数が渦巻く王宮なんかには、特にね。
反対に騎士団は、なんとなく規律戒律に厳しい場所って感じがするから、敬遠されたのかもしれないわ。
騎士団にとって、邪竜討伐は最優先事項。
聖女の取りこみなんていう私利私欲に満ちた行為は、厳罰対象になりそうだし。
つまり、騎士団に聖女を入れてしまっては都合が悪いと思う輩が、国のトップに一定数いたのだということよ。
その点学園ならば、学生はみな平等なんていう建前で、聖女に近づくことは誰にでも比較的容易なこと。
聖騎士にまでは選ばれなくとも、我が子を聖女の友人にさせようと企む親は、多そうだわ。
まあ、そんな裏事情はまったくなくて、単に乙女ゲームだからっていうご都合主義かもしれないけれどね。
(どっちにしろ、そんなものにつき合ってやる義理は、どこにもないわよね?)
幸いにして、今の私は、まだどこにでもいる普通の貴族令嬢だもの。
国の思惑に振り回される心配はないし、自分で自分の進路を選べるわ。
(私が入るなら、騎士団一択よ)
幼い内から騎士団に入団し、体を鍛え自ら戦える力を得れば、邪竜が復活しても攻略対象者なんていう浮気男の力を借りてなくて済むんじゃないかしら?
問題は、末娘を猫可愛がりしている両親が、騎士団への入団を許してくれそうもないことだけど……。
それだって、やり方によってはどうにでもなる。
そう思った私は、自分の未来から浮気男を排除すべく計画を練るのだった。




