収納魔法を広めよう!
結果から言えば、私もエドヴィンもマルクも、収納魔法を取得することが出来た。
やっぱり魔法で肝心なのは、イメージよね!
「ね、やれば出来るんですよ!」
「…………出来てしまったな」
「まだ納得出来ないが」
往生際が悪いと思う。
「出来たんだからいいでしょう? まあ、ふたりとも容量はまだまだですけどね」
そう。収納魔法の取得は三人とも出来たのだけど、容量はそれぞれ違ったのだ。
一番大きいのは私で、たぶん無限大。次がエドヴィンで二トントラック一台分くらい。マルクは軽トラって感じかな?
「そこも納得出来ないんだ。エイミーは、規格外だから仕方ないとして、同じように訓練したのに、どうして俺がエドヴィンより容量が少ないんだ?」
マルクは、プンプンと怒っている。
規格外ってどういうことよ?
私は普通の貴族令嬢なのに!
まあ、そう言ってもふたりがかりで「違う!」って主張されるから、心の内でとどめておくだけにするけれど。
「魔法の実力は、私の方が上だからな」
「魔力量にそれほど違いはなかったはずだ。俺は、魔法を使うより剣で斬る方が簡単だから、攻撃魔法に力を入れなかっただけで、お前より魔力で劣っているつもりはない!」
沈着冷静に見えるマルクだが、案外負けず嫌い。収納量がエドヴィンより少ないことが納得出来ないらしい。
それなら――――。
「だったら提案です! 収納量の違いがどこからくるのかを調べるためにも、騎士団全体に収納魔法を取得してもらいませんか?」
要は検証実験だ。被験者の数が多いほど、実験結果ははっきり現れる。
「この際だから、取得の可否や収納量だけじゃなく、どんな人がどんな物を収納出来るのかとか、詳しく調べられたらいいですよね!」
調べたいことがたくさんある。
私の話を聞いたエドヴィンとマルクは、驚いたように目を瞬いた。
「騎士団全体に?」
「それは、幼年学校や士官学校の学生に教えるということだけでなく、団員すべてにということか?」
私は大きく頷く。
「はい、そうです! あ、もちろん、この収納魔法の取得方法は、おふたりのどちらかが発見したということにしてくださいね。私は目立つつもりはまったくありませんから。私が表に出ないことを前提とするならば、私、収納魔法は出来るだけ多くの人に取得してもらった方がいいと思うんです」
なにより、あと数ヶ月後に迫るエドヴィンとマルクを死に至らせる討伐遠征を、無事に終わらせるためにも!
収納魔法使用者は多ければ多いほどいい。
(収納魔法は、直接の攻撃力アップには繋がらないけれど、でも戦いに役立つことはたしかだもの)
たとえば、各人がポーション一本余計に持つだけでも、全体の総力は上がるだろう。ポーションで回復した分、長く戦えるのだから当然だ。他にも毒消しとか麻痺治しとか、あれば便利だが、必要かどうかわからずに持って行けなかった薬を準備することが、余裕があれば可能になるのだ。
(予備の武器とか矢やダガー、補充品を増やせるのも魅力的だわ)
もろもろ考えれば、収納魔法を使える人を増やした方がいいことは一目瞭然だ。ためらう理由なんて、何もないだろう。
「君はそれでいいのかい? 収納魔法の取得方法を発見したとなれば、一躍有名人だ。地位も名誉も望みのままになる。取得方法を有料化すれば莫大な富を手にすることだって、可能なんだよ」
エドヴィンの話は非常に魅力的に聞こえるけれど……絶対、お断り!
ヒロインになりたくない私が、こんなところで目立つわけにはいかないもの。
「私、有名になることで自由を奪われるのがいやなんです。……だいたい、私がお金儲けをしたいのなら、とっくに有料で回復魔法を使いまくって荒稼ぎしていますよ」
私の言葉を聞いたマルクは、呆れた目を向けてきた。
「回復魔法で荒稼ぎとは……とても聖女の言葉じゃないな」
「私は聖女になんてなりませんから」
そんな予定は未来永劫ないのよ!
マルクは肩を竦めた。
エドヴィンが「そうだな」と頷く。
「――――君は、聖女なのに聖女だと知られたくないのだからな。……収納魔法のことで注目を浴びることも、君の本意ではないのだろう?」
「ええ。私は誰からも注目を浴びたくありません」
特に王家には!
強い意志をこめて見つめる先は、その王家の第一王子。
でも、彼は王妃に疎まれ、このままなら命を失うゲームの犠牲者だ。
エドヴィンは「わかった」と声にした。
私は、小さく息を吐く。
「となれば、私かマルクが発見者になるしかないんだが――――」
「俺はゴメンだぞ。これ以上あの男のコンプレックスを刺激したくない」
マルクは仏頂面で断った。
「だろうね。だとすれば、私か。……私も、あまり王妃の不興を買いたくはないんだけどね」
エドヴィンは、悩ましげに眉をひそめる。
「いや、今回お前は大丈夫だろう。収納魔法を誰でも取得出来る方法なんて、世紀の大発見だからな。そこまで大きな功績を立ててしまえば、国王だってお前を認めるだろうし、王妃も下手に手をだしにくくなるはずだ」
「それで、本格的に排除しようとしてくるのが怖いんだが」
「王妃の陣営も一枚岩じゃない。大きく動けば反発もあるはずだ。……この際だ、そこを突いて一気に反撃、叩き潰すのもいいかもしれないぞ?」
「…………簡単に言ってくれるね」
ふたりの会話は物騒だ。
ちょっと、そういうのは私がいないところでしてくれない?
何はともあれ、収納魔法の取得方法を公開し、騎士団全部で試してみることは決定事項。
これで、ふたりの死が遠ざけられたらいいんだけれど。




