魔法はイメージが大切です
有言実行。
なんとか第二王子から逃げ切った私は、その翌日から浄化機能付き収納魔法の取得を目指し特訓した。
場所は騎士団幼年学校の魔法訓練場。ローマの円形闘技場みたいな施設で、魔法が外に漏れないような結界が張ってある。
もちろん、エドヴィンとマルクも道連れだ。
「……本気なのか?」
「逆らっても無駄だぞ。私はもう諦めた」
無事(?)マルクの説得も終わり、私はふたりにやり方を説明する。
「難しく考える必要はありません。魔法の選択肢の中に収納魔法を加えるだけです」
イメージは、ゲームのコマンド入力画面だ。
『アイテムボックス』とか『どうぐ』とか選べるようにすれば、自ずと使えるようになるんじゃないかしら?
魔法にとって大切なのは、イメージだもの。
「魔法の選択肢?」
「なんだそれ?」
もっとも彼らには、そこから説明が必要みたい。
「ふたりは魔法を使うとき、どうしていますか?」
十七歳の彼らは、もうすでに魔法を使えている。
エドヴィンは炎属性、マルクは氷属性だ。
ただ魔法には、属性とは別に個人ごとに波長というか特徴みたいなものがあるらしく、同じ属性でも千差万別。指紋ならぬ魔法紋と呼ばれるその特徴で、個人の特定まで出来るのだとか。
つまり、魔法には多様性があるということだ。そのためなのかどうかは知らないが、自分の属性以外の魔法がまったく使えないわけではないという。
かなり訓練が必要だが、しっかりイメージさえ出来れば、どんな魔法であれ使うことは可能なのだ。
(イメージだけで使えないのは、聖属性魔法くらいなのよね)
聖属性が使えるかどうかだけは、生まれつきの才能次第。努力だけでは身につかない魔法なのだという。
(まったく、傍迷惑な魔法だったらないわ)
「どうとは?」
私の質問の意図が、エドヴィンにはわからないようだ。
「使いたい魔法をイメージして魔力を放つだけだろう?」
マルクは、一般的な答えを返してきた。魔法の授業ではそう教えられると聞いたことがある。
「私は、魔法を使うときにイメージなんてしませんよ。そういうことは、事前にやっておけばいいんです」
私の言葉に、ふたりは驚いた。
「事前に?」
「ええ。具体的には、あらかじめ自分の使える魔法を種類と威力別に分けて、一覧にしておくんです。そこから使いたい魔法を選んでポンと押せばいいだけです」
「……ポン?」
エドヴィンは、ますますわからなくなったようだ。
「魔法を一覧に? そうイメージするってことか? なんでわざわざそんなことをするんだ?」
「その方が簡単だからですよ!」
マルクの問いかけに、私は当然だと言わんばかりに答えた。
納得出来ないようなので、もっと詳しく説明する。
「たとえば炎の攻撃魔法を使うとして、敵が一体でそれほど強くない魔獣の場合と、敵が複数いて手強い魔獣の場合とでは、使う魔法の威力は当然違いますよね? おふたりは、その場面ごとに、どの魔法をどんな威力で使うかのイメージをして魔法を放つのでしょうけど……でも、事前にそのイメージが出来ていて、それが一覧になっていれば、選択するだけで魔法を放てるようになると思いませんか?」
要はイメージの紐付けだ。いちいち最初からイメージするより、ずっと早いはず!
私の説明は間違っていないはずなのに、ふたりはまだ納得いかないように顔を顰めている。
仕方ないので、私は訓練場の地面に、棒でゲームのコマンド入力画面を描いて見せた。
「これが私の一覧表のイメージです。私の場合選択出来る魔法は『回復』『回復(全体)』『弱体化』『弱体化(全体)』『強化』『強化(全体)』になります」
大きな四角の中に、小さな四角を六個描き文字を入れていく。
「……この描かれた場所を押すイメージを持てばいいのか?」
「それで魔法が発動するのか?」
ふたりの顔は不審だらけ。とても信じられないのだろう。
でも、本題はこれからだ。
「さらに、ここにもうひとつ『アイテム』を加えます」
「アイテム?」
七個目の四角を描いた私は、そこから矢印を引いてそこにまた大きな四角を描いた。
「これが収納魔法のイメージです。この中にアイテムを入れて整理しておくんです。そうすればいつでも必要な物が引きだせますから!」
どうよ! と、私は胸を張る。
「…………あ、ああ。言いたいことは、わかったよ……たぶん?」
「わかっても、出来るとは到底思えないがな!」
なんたるヘタレ。
やってもみない内に出来ないなんて、言語道断だ。
「出来るまでやるんですよ! 当然でしょう」
私が活を入れれば、ふたりは大きなため息をつく。
「ため息つかない! 幸せが逃げるでしょう」
「なんだそれ!?」
残念ながら異世界に、この迷信はないようだ。
「まずは、一覧表をイメージして、そこに魔法を登録するところからです。さあ、頑張りますよ!」
私の声が、魔法訓練場に響く。
同時にまた大きなため息が、ふたつ聞こえた。
これを、無茶ぶりという……




