話題選びに失敗しました
――――当たり障りのない話題を選ぼうとして、どうやら失敗したらしい。
その後、私はエドヴィンに質問攻めにされてしまった。
「いったいどうしてそんな荒唐無稽な魔法を思いついたんだ!」
荒唐無稽とか、ひどいと思う。収納魔法――――いわゆるアイテムボックスは、ファンタジーの基本なのに。
「あれば便利かなぁと思って」
「便利だからって身につけられる魔法と魔法が違うだろう!」
……いや、だって、乙女ゲームのヒロインは普通に使っていたわよ?
邪竜を倒す旅の道中で、いろんな便利アイテムをゲットしては、アイテムボックスにポンポンと入れていたもの。
そのヒロインが私なのだから、当然使えるはずよね?
「収納魔法ってないんですか?」
「まるっきりないわけではない。非常に希少な魔法だが、使用出来る者もごく稀にいる。ただ本当に希少であるため、使えるとわかった者は、即座に国お抱えの魔法使いになるくらいの魔法なんだ」
要は、便利な魔法だから国で囲っておこうってことかしら?
でも、それって――――。
「聖女とどっちが珍しいですか?」
聞けばエドヴィンは、グッと言葉を呑んだ。
扱い的には聖女と同じだけれど、たぶん聖女ほど希少ではないんじゃないかしら?
そして、聖女の私がここにいるのだもの。エドヴィンが言うほど荒唐無稽でもないってことよね。
「だったら大丈夫ですよ。私は絶対収納魔法が使えますから。そしたら浄化は得意ですから、浄化機能付き収納魔法も簡単です」
自信満々に言えば、エドヴィンは頭を抱えた。
「君が言うと、本当に簡単そうに思えるから怖いな。……でも、どうして浄化機能付き収納魔法を取得しようと思ったんだい?」
「だって、補給は大事でしょう?」
私は、何を今さらと思いながら答えた。
「補給?」
「この前、兵站の授業があって――――」
兵站とは軍の物質や人員の輸送、供給、保管等を行うことで、戦いを支える重要な役割を担っている。
(たしか、第二次世界大戦でも兵站が疎かにされたせいで、餓死者とか病死者とかたくさん出たんじゃなかったかしら?)
その辺はうろ覚えだが、腹が減っては戦は出来ぬ。補給無しには戦えないことなど、私にだってよくわかる。
それに、私は将来邪竜討伐に旅立たなければならないのだ。兵站の問題からも、ひとりでは無理だと結論づけていたけれど、収納魔法があればどうだろう?
ここは乙女ゲームの世界だ。
そして、古今東西様々なゲームには、必ずアイテムボックスがあった。
(いや、中にはアイテムボックスのないゲームもあるのかもしれないけれど)
アイテムボックスは、ポーションや食料のみならず、武器や防具、狩ったモンスターの死体から果ては湖の水全部とか、とんでもないモノまでいとも簡単に運べてしまうチートな異空間だ。某猫型ロボットのポケットよりも優れているかもしれない。
(それが使えれば、兵站の心配はしなくて済むんじゃないかしら?)
私はそう思ってしまったのだ。
「――――収納魔法が使えれば、最悪兵站が途切れても飢えないで済みますよね?」
「それはたしかにそうだけど……」
エドヴィンは、頭を抱える。
「だったら取得するしかないですよね!」
同意を求めた私に対し、エドヴィンは大きなため息を返してきた。
「取得したいからって取得出来る魔法じゃないよ」
「あ、それなら大丈夫です。私、十三歳にして聖魔法の使える天才ですから」
「……自分で言うかい」
「他に誰も言ってくれませんから」
言ったもん勝ちである。
フフンと胸を張れば、エドヴィンは呆れたように笑った。
「そうだね。たしかに君ならやってしまいそうだ」
「何他人事みたいに言っているんですか? エドヴィンさまもやるんですよ」
当然マルクも一緒だ。
「は?」
「収納魔法持ちは、多ければ多いに越したことはないでしょう?」
「いや、たしかにそうだけど――――」
「安心してください。出来るようになるまで、私が徹底的に教えますから!」
親切にサポートを申し出たのに、なんだか不満そう。
「……君だってまだ使えるようになっていないよね?」
「私が使えるのは確定です。エドヴィンさまも頑張りましょうね!」
ニッコリ笑って応援すれば、エドヴィンは諦めたように脱力した。
「エイミー、君には勝てないよ」
「今頃わかったんですか?」
遅すぎである。
私たちは顔を見合わせて…………思いっきり笑った。




