これから起こる予定の悲劇
今から半年後。季節が秋から冬になりかける頃。
王国北部で、魔獣の動きが活発になる。
これは邪竜復活の前触れなんだけど、このときは誰もそうとは知らなかった。
だから騎士団は、通常の業務として討伐隊を組織し、その中に士官学校の学生も組みこまれたのだ。実戦経験を積ませることが目的で、別に珍しいことではない。
(その遠征部隊に、エドヴィンとマルクも入っていたのよね)
いつもの討伐と思って向かった先に待っていたのは、復活間近の邪竜の気に当てられて、気性も攻撃力も大幅にアップされたスーパー魔獣軍団。しかも、今まで単独で行動していた魔獣たちは、特殊個体のフェンリルに率いられ、狡猾さを増していた。
集団で計画的に襲ってくる魔獣に対し、討伐隊が苦戦するのは必至。
結果、騎士団は壊滅的な被害をだしてしまう。討伐隊員の八割が死亡し、その中に第一王子と騎士団長の息子の名前も連ねられたのだ。
(他にも魔法使いで、攻略対象者の教師の従兄弟が重傷を負うのよね。体もそうだけど心の傷が酷くって、廃人同様になるって話だったわ。本来遠征に参加するのは攻略対象者の教師だったのに、自分の我儘で従兄弟を犠牲にしてしまったから、その罪悪感が彼のトラウマになるのよ)
正直、そっちの魔法使いはまだ知らないし死ぬよりマシだと思うから、それほど気にならない。
でも、エドヴィンとマルクは違う。
だって私は彼らと出会ってしまったのだもの。
このまま彼らとの仲を深めれば、私はきっとふたりを助けたいと思うようになるだろう。
少なくとも、生還出来ない討伐に、黙って行かせてしまうことはしないと思う。
(私って、案外情にもろいのよね)
縋りついてくる元夫は、情け容赦なく切り捨ててやったけど、あれは論外中の論外。普段の私は、困っている人や捨て猫を見捨てられない人間なのだ。
だから、出来るだけエドヴィンたちには近づきたくなかった。
私の最終目標は、攻略対象者の力を借りず単独で邪竜を討伐すること。そのためには、余計な心労を負いたくない。
そりゃあ、起こるとわかっている悲劇は防ぎたいと思っているわ。でもそれは、今の自分の出来る範囲でのこと。バレないように忠告するとか、不穏な噂を流して討伐隊の警戒度を上げるとか、その程度の介入にとどめる予定だったのよ。
なのに…………もう!
まだそれほどふたりと話していない今でさえ、私はどうやったら彼らを確実に助けられるかを考えはじめている。出来れば死なせたくないというぼんやりとした正義感が、絶対阻止しようという決意に変わりつつあるのだ。
――――ホント、世の中まったく思いどおりにいったためしが、ないんだから。
この子たちを助けるために、無理をする自分が予想出来て、頭が痛くなってくる。
まあ、でも彼らが死なないのなら、私が寄りかかれる大樹になってくれるかもしれないわよね?
少なくとも幼年学校にいる間なら、十分な後ろ盾になるはず。
そして、そのお礼として命を救ってあげられたら、いいんじゃないかしら。
私は、彼らからの提案を前向きに考えはじめる。
しかし、ジッと黙って動かない私の姿は、拒絶しようと思っているように見えたみたい。
目と目を見交わし無言で相談したエドヴィンとマルクは、私を説得する次の一手を放ってきた。
「それに、君は自分が聖女だということを内緒にしておきたいのだろう? 私たちはその手伝いも出来ると思うよ」
ちょっ!
なんで知っているの?




