サレ妻だった前世を思いだしました
新連載です。
ある程度ストックがあるので、一日二話ほどの更新を目指します。
お付き合いいただけますと嬉しいです。
――――ようやく離婚出来たのに。
今まで経験したことがないほどの痛みと、こみ上げる悔しさで、私の思考は真っ赤に染まる。
「あんたのせいよ! あんたがいるから、彼は私のところに来てくれなくなったのよ!」
ヒステリックな叫び声が、ガンガンと頭に響いた。
血の滴る包丁を握った女は、いつも綺麗にセットしている髪を振り乱している。
すかした女のそんな姿が、たまらなく滑稽だ。
こんな状況じゃなかったら思う存分嘲笑ってやったのに。
残念なことに、今の私は倒れたままピクリとも動けない。
「キャー! 人殺し!!」
「誰か、救急車を呼んで!」
「いや、警察だ!」
「こいつっ! お前がやったのか!?」
人通りの多い繁華街で起こった突然の凶行に、通行人は大騒ぎ。私を刺した女は、あっという間に数人の男に囲まれて、アスファルトに頭を押しつけられ動きを封じられた。
「放せっ! 放しなさいよ!! 悪いのはあの女よ! 私は悪くないんだからっ!」
ハハッ……どの口がそれを言うの?
そもそも、私の夫――――いえ、もう離婚したから元夫ね。あのクズを寝取ったのはあなたでしょう?
だから私はあいつを捨てたのよ。
それを受け入れられなくて「許してくれ」と縋ってきたのは、あいつの勝手。
その過程で、あいつとあなたが別れようと、そんなの私にはなんの関係もないわ。
それなのに、逆恨みで私を刺すなんて!
どうせ殺るなら、あのクズと無理心中でもなんでもすればよかったのに!
私を巻きこまないでよ!!
怒鳴りつけてやりたいことがいっぱいなのに、もう私にそんな力はない。
寒くて寒くて仕方ないし……視界も暗くなっていく。
遠くにサイレンの音が聞こえたけれど……いつになっても大きくならないのは、なんでなの?
むしろ何も聞こえなくなっていくんだけど。
ああ、私は死ぬんだ。
強制された静寂の中で、いやでも理解する。
そうして私は意識を失った――――たぶん死んだのだと思う。




