第七十九話 旋盤作りその参
旋盤作りの続きの話です。
『旋盤作り その参』
天文十七年二月、鍛冶場の清兵衛さんから一先ず先日の改造案が形になったと報せがありました。
早速、鍛冶場に向かいます。
清兵衛さんが出迎えると、旋盤の置いてある区画にやってきます。
すると、見慣れない新しい機械が鎮座してます。
清兵衛さんに聞いてみると、佐吉さんが先日作った穴を空ける刃を使って穴を開ける機械を作ったのだそうで、簡単に言うと、所謂ボール盤というヤツです。
横に大きなフライホイールが付いていて、ギアを噛まして上手いこと足踏み出来るようになってます。
ギアの加工も見事なもので、明治時代の人力ボール盤だと言われれば信じるかもしれません…。
まともなベルトがあれば、こんな苦労しなくてももう少し楽に作れるような気もしますが…。
こんなものをさっくり旋盤を応用して作ってしまう佐吉さんは一種の天才なのかもしれませんね。
さて、旋盤の方ですが…。
先日の打ち合わせ通り、はずみ車に大きな歯車が付いていて、それに小さな歯車が二段付いてます。
ここまで細かく指定はしなかったのですが、ハンドルで簡単にギア比が変えられるようになってますね。
「清兵衛さん、いつもながら見事な仕事ですね。
ここまでしっかり作られてるとは、想像もしませんでしたよ」
「へい、佐吉はどうもカラクリを考えるのが得意な様で、随分助かってやす。
この歯車のカラクリも佐吉が先日の姫さんの説明を聞いて考えだした物で。
全く大した野郎ですぜ」
「そう言えば、今日は佐吉さん見かけませんね」
「佐吉は、今出てますぜ。
地金を仕入れる商人の所に行ってやす」
「そうなのですね。
地金の目利きも大事な仕事だと思うのですが、清兵衛さん行かなくて大丈夫ですか?」
「付き合いの長い商人ですから、変なものは売りやせんよ。
佐吉のやつが普段俺が入れてる地金以外にもどんなものを扱ってるのか見に行きたいとかで、いま津島まで行ってるんでさ」
「あら、津島まで行ってるんですね」
「へい、古渡からなら船に乗ればすぐですぜ」
「確かにそうですね。
旋盤は、後はやはり熱の問題でしょうかね」
「へい、確かにこいつのお陰で前に比べると格段に削れるんですが、やはり熱の問題、金屑の問題は残りやすね。
こういうのに向いた油があれば良いんでしょうが」
「油は高いですからね。
それに、油だと水ほどには冷えないかもしれません。
油を垂らしつつ、フイゴのような物で風で冷やすとかすると良いのでしょうか」
「そうでやすね。
どちらにせよ、一度やってみないことにはわかりやせんや」
「そうですね。
そう言えば、弓師さんの方はどうですか?」
「へい、頼まれた部品は全て作って一先ず渡しやしたので、今試行錯誤してるんじゃないですかね」
また完成したら見せに来てくれるでしょうから、楽しみにしてましょう。
「油の方、ちょっと考えてみます。
高いなら作れば良いような気もします」
「へい、楽しみにしておりやす。
一先ず、旋盤の方はここまでにしておきやす。
ところで、大工が使いたいと言ってるんでやすが、使わせても大丈夫で?」
「ええ、外で話さないならば、ここで作業する分には構わないでょう。
使ってもらえば改善点も見つかるかもしれませんし」
「そうでやすね。
ではそのようにさせていただきやす」
「はい。
では、油の件、また知らせます」
「へい」
こうして鍛冶場を後にしたのですが、佐吉さん中々の才能ですねえ。
何故史実に名が残ってないのでしょう。
やはり、野鍛冶の倅では名が残らなかったのでしょうか?
『油ちゃん?』
さて、油というと、石鹸用などでは食用グレードと言うことで、カメリアオイルこと椿油とか椎の実などを使用したのですが、単に油ということであれば、更に油っぽい物があるにはあります。
焚付なんかに使えるほど、生木であってもよく燃える木。
クスノキ科の油瀝青ことアブラチャン、地方によって呼び方は色々あるほど、日本でも広く自生してる植物ですね。
夏の内に探しておいて、秋に熟しきって割れて乾燥する前に収穫すると、ゼリー状の果肉をもちます。
この状態が一番油を含んでる状態だそうで、これを絞れば恐らく油が取れるでしょう。
これを領地の村人や寺の小僧さん達に収穫を頼んでおけば、秋にはそれなりの量の油が取れるかもしれませんね。
『鈴木氏と鉄砲鍛冶』
鈴木殿達は当面は父が銭雇いとして召し抱え、古渡の足軽長屋を増築し、そこに住むことになったそうです。
将来的には新たに開拓する必要がありますが、未開拓地を割り当てられ、そこに郎党達と村を作り移り住む事になる様です。
それとは別に、熱田と津島湊も使えるように便宜を図ってもらい、鈴木党の船を係留し、交易も継続して行うのだとか。
鈴木殿が一族の鉄砲鍛冶を連れてきたのですが、当面鉄砲鍛冶は古渡の鍛冶場だけで仕事を行う事にするようですが、それでも何処かから情報が漏れそうな気もしますが、一応は鉄砲を作ってる事は秘密にする方針のようです。
根来の御坊と鉄砲鍛冶が到着したら、顔合わせして、今後の進め方など話し合う必要がありますね。
当面は、腰を落ち着け、古渡で鉄砲作りを再開するのが目標になりますね。
『美濃の姫』
美濃の斎藤利政殿の姫との対面は、美濃と尾張の国境にある寺に決まったそうです。
その寺の名は聖徳寺…。
斎藤側の折衝担当は堀田正道殿、織田側は平手政秀殿。
このあたりはほぼ史実通り、そして対面の場も史実と同じ。
史実と違うのは、斎藤の姫が父信秀に会いに来るという逆パターン。
そして、義龍殿のポジに私が居るという…。
今月の吉日を予定している弟の元服の前に会う事になります。
旋盤は油の入手が出来るまで、一先ず木工専用ですが、ポール盤は金屑が凄そうですが、一先ず使えそうです。
そして、斎藤の姫との対面が近づきます。




