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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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第百五十一話 蒸気機関車お披露目

以前の話で一先ず動いていた蒸気機関のその後の話です。





『蒸気機関車お披露目』



天文十七年十二月、早いもので今年もそろそろ終わりです。

今年は本当に激動の一年でしたね…。


秋頃、蒸気機関が完成し、それで動力旋盤などが使える様になったのですが、それのおかげもあり一先ずの目標である蒸気機関車が完成しました。


といっても、前世でいうところの鉄道の上を走る所謂スチームロコモティブでは無くて、スチームトラクターの方です。


それも、本格的な水管式ボイラー室を搭載したような物ではなく初歩的なもので、前世でいうところのフランスのニコラス・キューニューが制作した蒸気ワゴンが一番近いです。

今回は父も見たいとの事で、古渡に武衛様をはじめ多くの見物客が居並ぶ中走らせることになりました。


ぶっつけ本番で動かないのはさすがに格好が悪すぎるので、事前に試運転も済ませていますから大丈夫です。



私はいつも通り工房側に居る予定だったのですが、今回は父や武衛様が居られる貴賓席に呼ばれ説明することになりました。



隣の父は少年の様に瞳を輝かせ、期待と興奮が隠せない様子。


「吉よ、蒸気機関とやらは世の中を変えるほどの力と言っていたが。

 儂はその世の中を変える力のお披露目に立ち会っておるのだな」


「はい。きっと驚きますよ」


父とは逆にその隣に座る武衛様は落ち着いた様子ですね。

扇子を手に静かに待っています。


準備が出来ると、よそ行きの着物を着た清兵衛さんが声を掛けます。


「それでは、はじめさせていただきやす」


そういうと、工房の方から蒸気の音が聞こえてきます。

警笛の音が鳴ると、力強い音を響かせながら、佐吉さんが運転する蒸気機関車がゆっくりと出てきました。


誰かに押されているわけでもなく、馬や牛に曳かれているわけでもなく、自らの蒸気の力で動いているのです。


その奇異な姿に、会場の方々はみな総立ちです。


「おおぉ、動いておる」


「いかなる仕組みなのか、誰が動かしておるのだ」


そんな声がそこかしこから聞こえてきます。


「吉よ、あれはなぜ動いておるのだ」


「父上は水鉄砲はご存知ですか?」


「うん?ああ、知っておるぞ。子供の頃竹で作って遊んだものだ」


「あれと仕組みは似ています。

 水鉄砲は水を吸い上げて、押し出すことで水が飛び出します」


「そうだな」


「あれは口で水を吸い、吐き出すのと同じ仕組みなのですが、蒸気機関は逆なのです。

 つまり、たとえば水鉄砲で水を吸い上げるのではなく、もう一つ水鉄砲を用意してそれを水鉄砲の口に繋いだとして、そのもう一つの水鉄砲に水が入っていてそれを押し出した場合、空の水鉄砲はどうなりますか?」

 

父は少し考えると答えます。


「そのまま水が注ぎこまれるだろう」


「はい。その時、把手はどうなりますか?」


「押し出されるな。

 ん?

 つまり、あれはその押し出される力を利用して動いておるのか?」

 

「流石父上、その通りです。

 あれは水ではありませんが、水を熱したときに生じる湯気を利用しております。

 水は熱すれば湯気になりますが、湯気とは元の水よりはるかに嵩が大きくなるのです。

 湯気は掴むことは出来ませんが、湯気が吹いているところに手をかざせば手に力がかかると思います」

 

「そうだな。茶瓶などで湯を立てると、その噴き出す湯気は確かに力をもつな」


「はい。

 その湯気を完全に閉じ込めて余さず水鉄砲によく似た筒に吹き込むことで、把手を押し出し一杯迄押し出したところで中の湯気を吐き出す事で、元に戻りまた吹き込むを繰り返します。

 つまり、その伸びたり縮んだりという力を車輪を動かす力に変える事で、あのように動いているわけです」

 

「ふむー、なんとなくわかるが…」


「もうすぐ目の前を通りますから、動いているからくりを見れば解りますよ」


「おお、そうだな」


父とそんな話をしているとシュゴー、シュゴーと豪快な音を立てながらゆっくりと前を通過していきます。

佐吉さんは随分緊張している様で、前しか見てませんね。


「おおう、何とも豪快であるな。

 ふむ、なるほどあの金色の筒が水鉄砲か。

 そして、後ろの大釜で湯をわかし、その湯気をその筒に吹き込んでおるわけだな。

 水鉄砲は二つ付いておって、一つに吹き込み続けると、もう一つは吐き出し続ける。

 一杯迄入ると、今度は入れ替わり吐き出す方になり、もう片方が吹き込む方になる。

 その繰り返しで動いておるという訳だな」

 

一目で見て理解してしまうとは流石です。


「その通りです。

 あれを街道で走らせれば、馬が無くても走ることが出来ます。

 相良から取り寄せている灯油を入れなければ動きませんが…」


「灯油を燃やして釜を熱しておるのだろう。

 そのくらいは儂でもすぐわかる。

 だが、確かに灯油さえ入れれば動くというのは大きいな。

 しかも、あくまでこの蒸気機関車は一例なのであろう?」


「はい。そういう事です。

 現にあの金色の筒はかなり細かな細工なのですが、その細工を造る為の道具を動かす為に、あの蒸気機関より更に大きな物を古渡の工房に備え付けて動かしているのです」

 

「ほう、なるほどな。

 吉が以前備え付けさせた水車と同じ類のものという事か」


「水車は備え付けの場所を選びますが、あの蒸気機関は場所を選びません。

 それに、今は灯油を使っていますが、越後の黒い草水も使えますし、長く燃やせる物であれば何でも構いません」

 

「吉が作らせておる竹炭や豆炭も使えそうだな」


「使えます。もともとは、それを燃やすつもりだったのですが、相良の灯油が手に入ったので。

 灯油は臭いはしますが使いやすいですから」


「はっはっはっ。

 確かにそうであろうな」

 

そんな親子の会話を聞いて居た武衛様が扇子をパッと開いて見せました。

『天晴』と見事な文字で書かれていました。

ご満悦の様です。


「うむっ。吉姫、良いものを見せてもらったぞ。

 あの力、うまく使えば尾張は更に豊かになりそうであるな。

 見事である」


「お褒めに与り恐悦至極にございます」


「吉よ、大儀であったな。

 後で肴を運ばせる故、工房の者らをねぎらってやってくれ」


「はい。きっと喜びます」



こうして、無事に蒸気機関車のお披露目は終えることが出来ました。


尾張から三遠もしかしたら駿河まで、暫くはこの蒸気機関車の話題で持ちきりになるかもしれませんね。


勿論お披露目の後、見知った者達ばかりになってから、私も蒸気機関車に試乗しました。

そこそこスピードも出ますし、悪くはないですね。


これをトラクターとして使えるとなおいい感じですね。

しかし、水管式ボイラーでなければ立ち上がりが遅すぎて一般的には使えないと思います。


まだまだ改善の余地はありそうです。



一先ず動きました。

立ち上がりが遅いので駅馬車などでは使えると思いますが、トラクターとかには難しそうです。

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