第百三十二話 旋盤始動
以前作ったまま金属加工には使ってなかった旋盤でいよいよ金属加工が可能になりました。
『旋盤始動』
天文十七年七月、梓さんが機械油と界面活性剤を提供してくれたお陰で、旋盤に必要な切削油剤の用意が出来ました。
お陰で、やっと旋盤が動くようになったのです。
一先ず使えるようになったのは、旋盤の元祖ともいうべき足踏み式の人力旋盤です。
しかし、本格的に使い出すには別に動力がほしいところですね。
そして、旋盤を使うほどの精密加工で必要になってくるのはやはりノギスでしょう。
この時代の場合尺貫法で一尺が三十センチですから、基準になるものさしを決め、それを基に簡易ですがノギスを作成しました。
厳密に長さを求める事は堺と京で長さが微妙に異なるこの時代、無意味なのでこのノギスを作るのに使ったものさしを尾張の尺の基本とします。
「清兵衛さんやっとこれで金属を削れるようになりましたね」
「へい、試しに少し削ってみやしたが問題無さそうでやす」
「それは良かったです。
これでやっと作ってほしかったものが頼めますね」
「それってえと、あの筒みたいな物ですかい」
「はい。そのとおりです。
今は釜の部分しかありませんからね、筒の部分が完成してこそ機能します。
これが完成したら、この旋盤も人の手で回さなくても済むようになりますよ」
「ほぅ、それは楽しみでやすね。
それで、この筒みたいなのは青銅で作ろうと思っておりやすが、問題ございやせんか?」
「ええ、青銅で作って下さい。
いずれ鉄で作るのですが、今回は最初ですから青銅で作るのが良いと思います」
「ちなみに、この筒みたいなのは正しくはなんといいやすか。
ちゃんと正しい呼び方があるんでやしょう?」
「ありますよ。
この筒みたいなのは遙か西の果ての国の言葉でピストンと言います」
「ピストンでやすか…、何だか変わった名でやすな」
「ふふ、他所の国の言葉ですからね。
それでは、佐吉さんと相談して完成させて下さい。
佐吉さんには別に線材を作る機械も頼んでいますので、二人で協力してもし人手が足りなければ、城の鍛冶や鈴木党の人に助力を頼んで下さい。
話は通してあります」
「へい、わかりやした。
では、また完成しやしたらしらせやす」
これで、ピストンが完成したら蒸気機関が動くようになりますね。
産業革命も間近というところでしょうか。
ちなみに燃料は、石炭では輸入になるため、当面は相良油田の灯油を使う予定です。
蒸気機関が完成すれば色々と出来ることが増えていきます。




