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吉姫様の戦国サバイバル ベータ版  作者: 夢想する人
第四章 激動の天文十七年(天文十七年1548)
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閑話三十一 織田信秀 水軍衆

水軍衆との会見です。





天文十七年三月 織田信秀



尾張に戻り、論功など戦後の後始末もある程度進んだ故、水軍衆を呼び今後について話し合う為呼び出しの使者を送った。

直ぐに応諾の返事があり三者揃って熱田湊にて会見することになった。


「先だっての戦での水軍衆の馳走、感謝致す。

 此度集まって貰ったのは、先ごろ話ししたとおり今後の話をする為である」

 

「我ら水野以外にも佐治、服部が揃っているという事は水軍に関することでござるか」


「うむ。

 此度、伊勢湾から駿河湾までの広い範囲を商圏とすることが出来た。

 その方らは水軍を持ち船を使って交易もやっておろうから、その意味がわかろう」


「我ら水軍衆が武衛様に臣従をすれば、その広い範囲で水運を任せて貰えるという事にござるか?」


服部殿が半信半疑という表情でその意味を問う。


それを聞き佐治殿が不安げな顔を浮かべる。


「うむ。

 儂は此度手に入れたこの広大な商圏を最大限に活かさねばと思っておるのだ」


服部殿はそれを聞き期待するような表情を浮かべ相打ちをうつ。


水野殿もにんまりと頷く。


「そうですな、これほど広い範囲で活動出来るとなるとかなりの運上金を期待できましょうな」


儂はやはりそれが水軍衆の常識であろうなと思う。


そんな水軍衆らの話を聞きながら、以前吉に聞かせてもらった話を思い出す。




「父上、商業を盛んにしようとお考えならば、関は治安維持の観点から必要ですが、関銭は廃止したほうが良いでしょう」


「関銭を廃止するとなると、国人や寺社の利権に手を出すことになるぞ。

 水軍衆も黙っては居まい」

 

「商人が例えば津島湊から駿河まで陸路で行けば、その間に何度も関所を通りその都度関銭を払わねばなりません。

 その関銭は当然ながらその商人が運ぶ品に上乗せさせて行きますから、遠くに行くほどその値段は跳ね上がることになります」

 

「そうなるな」


「ですが、それぞれの土地にはその土地固有の産物、名産品がありその商品を買いたいと思う人は、近くにも居るし遠くにも居るわけです。

 今の仕組みであれば、近くの人は安く買えますが遠方の人はとても高い品物になります」

 

「ふむ、先の治部殿の話でも出ておったが津島湊で売られておる醤油は尾張であればそれなりの値段で買えるが、駿府ならばかなりの高額商品という事になってるやも知れぬな」

「恐らく船積みで運んでいると思いますが、そうなるでしょうね。

 しかし、その醤油を卸している津島湊の商人はその醤油を駿河で何倍もの値で売りたいと考えているでしょうか?」

 

「…思っては居らぬだろうな。

 そもそも、いくらで売られておるのかも知らぬやも」

 

「そうでしょう。

 そして、商人が皆資金的に恵まれているとは限りません。

 同じ日ノ本でも国が変われば色々な産物が作られているのです。

 それをその地元の商人が良いものだからと、遠く離れた土地で売ろうと思っても中々売りに行くことが出来ないのです。

 しかし、その産物が良いものであれば欲しいと思う人は何処にでも居るのです。

 こういうのを機会損失というのですよ。

 関銭の存在がその産物が広く売られる機会を失わせ、それが損失となるのです。

 その産物を売る産地は勿論の事、それを仕入れ売る商人も売る機会を失い、更にはそれを購入して活用する機会を購入する者が失っているのです。

 そして、更に広い視野で見れば銭が動くことで市場は拡大しますが、銭が動く機会を損失することで拡大する機会を失い、それらが関わる全てのところから税を得るそれぞれの国人らが税を得る機会もまた損失しているのです」

 

「…機会損失か…。

 漠然とはそのようなこともあるだろうという風に思っておったが、吉に改めて話を聞くと、正に機会を損失しておるな…。

 一々尤もな話であるな」


「同じ様に、誰でも商売を始めることの出来る場というものがあれば、色んな所からものを獲ったり作ったりしている人が売りに来るでしょう。

 そこでは、物々交換も出来ますが皆が自由に値を決めて売ることが出来るのです。

 そして、そこで物を売り稼ぎを得た者が、更にそこで必要なものを買って帰る。

 そうすることで通貨が更に普及し、その地の銭でのやり取りが活性化するでしょう。

 これを楽市楽座といい、近江の六角家が観音寺城の城下町で始めた取り組みです。

 その結果、観音寺城の城下町は大変大きくなりました」

 

「ほう、楽市楽座か。

 それも面白そうであるな。

 それならばすぐにでも始められそうだ」


「はい。

 父上、そうやって銭の流れを活性化すれば国力が更に増すでしょう」

 

「うむ、であるな」




「備後様、それで三家お呼びなったという事は、新たな海での縄張りを決めるためで?」


服部殿の問いかけで儂は現実に引き戻される。


「いや、此度三家を呼んだのは、水軍衆の仕組みを新たに作り直すためである」


それを聞き三人の顔色が変わる。

特に先程からあまり話さぬ佐治殿は顔色が悪くなっている気がするのだが、如何致したのだ。


「…新たな仕組みといいますと…、どの様な…」


「水軍衆が関銭を取ること、それに海賊行為を禁止する」


それを聞き三人の顔色が一気に悪くなる。


服部殿は不審げな目を向け、佐治殿は死にそうな顔をし、水野殿が抗議の声を上げる。


「な、それでは我ら水軍衆は立ち行きませぬぞ!

 我らに死ねと申されるか!」

 

「聞けぬなら攻め滅ぼすまでだ。

 我らの勢力範囲では如何なる海賊行為も今後は認めぬからな」


水野殿が真っ青な顔をする。

 

「そ、そんな…」


そして服部殿が席を立とうとする。

佐治殿はただ項垂れる。


儂は笑ってみせると、服部殿に声を掛ける。


「服部殿、まあ待たれよ。

 まだ、儂はなにも話しておらぬぞ」

 

そう言われると、服部殿は不承不承また座る。


水野殿は不服そうな顔を浮かべる。


「備後殿、我らにとっては死活問題の話なのです。

 お戯れでは済みませぬぞ」


「ふふ。

 先ほど話しをしたことは、変わらぬ。

 海賊行為も禁ずるし、関銭も取ってはならぬ。

 が、そなたら水軍衆を粗略にするつもりはない。

 先ごろ服部殿に話をしたとおりだ」

 

「…続けられよ」


服部殿が真剣な面持ちで儂を見つめる。


「うむ。

 まず、水軍衆に望むことは敵対する水軍に対する特化した戦力である事。

 更には、先ごろの海よりの侵入策に有るように戦の時の支援といった戦での戦力としての水軍よ。

 その為には今のような船のままでは厳しかろう。

 そして、そのための船を作るほどの力はあるまい。

 儂がこの前兵らを運ぶのに仕立てた三角帆の船、あれは弾正忠家が津島の商人に作らせた津島の水軍よ。

 普段は商人らが乗り交易船として使っておるが、手を加えれば先のときのような軍船にもなる」

 

服部殿が驚きの顔を浮かべる。

 

「なんと、あれは伊勢か何処かの水軍を雇われたのかとばかり…」


「銭で雇っておる船乗りは方々の水軍上がりの者らも乗り込んでおるから、あながち外れでもないが、あれは津島の水軍よ」


「…つまり我らにも銭雇いの水軍になれと言われるので?」


「まさか。そなたらがそうしてくれと言うならばそれでも構わぬが、そなたらはそれぞれその土地に根ざした国人であり土豪であろう。

 船は儂が用意する故、そなたらがそれに乗り込み水軍をやるのだ」

 

「…備後様の船に我らが乗り込むという事は…、我らに家臣になれと…、そういうことでござるか」


「役目は他にも有る故、それでも構わぬものに水軍を任せるつもりじゃ。

 新たに設ける水軍大将として召し抱える事になる。

 無論、今の領地は安堵する故安心いたせ。

 家臣になる以上、勝手は許さぬがその分何処かに攻められることもなくなる」


気がつけば佐治殿の顔色に生気が戻り儂の顔を熱心に見ておる。


「直ぐには返事できませぬ。

 他のお役目もお聞かせいただけまするか」

 

「うむ。

 他には、海運と海の警備を任せたい。

 今やっておる事に似ておるが、違うのは海運というのは儂が用意する船で商人など船旅を利用したい者らを運んで欲しい。

 津島湊から出港し順番に湊を巡り駿府の湊まで定期的に運行する船を出すのだ。

 そして、海の警備は商船を襲う不心得な者らを追い払い近づけぬ様にするのが役目。

 銭はそれを利用する者らから弾正忠家が徴収する故、収入に応じてその役目に従事する者らにも銭雇いの禄に更に追加して払う。

 励めばその分収入が増えるということよ」

 

「備後様の下で、同じ様な仕事をしろという事にござるな…」


「最後には、これは儂の娘がやってみろというので、試しに始めてみたいのだが。

 儂が用意する大きな船で魚を獲る役目である。

 どの様な方法であれば大きな魚を多く取れるのか考える必要があるが、獲れれば良き収入になると言っておった。

 それなりに沖に出て魚を獲る故、これには水軍衆くらいの水達者でなければ務まらぬそうだ」

 

「水軍でも魚は獲りまするが、あくまで我らで食べるものを獲るだけにござるからな。

 しかし、確かに献上品としての魚を獲って献上する事もござりまするな」

 

「左様、大きな魚を傷まぬように湊に運びそこで売るのだ。

 大きな湊なれば銭に糸目を付けぬ者も居る故な」

 

「ほう、言われてみればそうでござるな。

 備後様の娘が言われたという事は、あの変わった三角帆の大きな船で釣りをするのでござろう。

 それはそれで面白そうな役目にござるな」


「そうであろう。

 案外、一番稼げるのがこの魚を獲る役目かも知れぬからな」


三人の顔が緩む。


「それは腕が鳴りまするな」


「左様左様、魚を獲るのは楽しくもありまするからな」


「ふふふ。

 儂が水軍衆に用意する役目はまずはこの三つよ。

 今はそなたら三家だけであるが、水軍は他にもおる故いずれ増やしていくことになるであろうが、そなたらが先ず先故一日の長というのも出来るであろう」

 

「確かに、先ず我らにお声掛け下されたのは僥倖に思いまする。

 特に我が服部は備後様にはずっと靡いて来ませなんだ故、いきなり攻められる事も有りえたのでござるから…。

 しかし、お役目のこともあり即答はできかねる故、一度持ち帰らせて下され。

 必ず良き返事を致しまする」


服部殿はそう言うと平伏する。


「我らもこの場で即答は出来ませぬ。

 一度持ち帰り家中で相談しまする」


そう言うと、水野殿も平伏する。


「我が佐治の家は備後様にお仕えしまする。

 如何様にもお使いくだされ」


この場での返事を保留した先の二人が驚きの表情で佐治殿を見る。

平伏する佐治殿の唇が心持ち微笑んでいるように見えた。


「そ、そうか。

 即答、感謝致す。

 では、また後日お二方の返事を待ってから役目の話を詰めたいと思う」


「「「ははっ」」」


佐治殿の反応と変化がちと気になったが、あまり気にしても致し方なし。

兎も角、水軍の整備は必須故前に進めねばならぬな。






先の吉田城での水軍との話の続きになります。

これで、水軍衆を整備していく感じになりますね。


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