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【本編完結】学園の二大王子がクラスの天然女子に興味を持ったようです。ってそれ俺の彼女っ!!  作者: 路地裏の茶屋


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お節介は君の為に

 舞台に向かって走りだす。会場は異様な雰囲気だった。新たな事業に飛び乗ろうとするもの、外部と連絡を取る物、密かに結託するもの、様々な思惑が会場に夏の熱を呼び込む。


 しかし、会場の注目は舞台に集まりつつあった。耳につけた通信機からは幹久が事業の体制について説明するが、ノータイムで日葵に論破されていく。それは奇妙な言い合いだった。

 なぜなら、日葵が証明するのは幹久が企業のトップにふさわしいということであり、幹久が主張するのは日葵こそが企業を動かすに足る人材だと言う事なのだから。


 さぁ、非常に恐縮ではあるが茶番を終わらせよう。


「おい、樹。どうするつもりだ? さっきと違って、舞台に注目が集中してんぞ。適当な出し物だと思われているけど、俺達がいけば相当目立つぞ」


 錬が横から肩を突いてくる。青柳はため息をついていた。ジト目でこちらを見てくる。

 そんな目で見るなよ。時計を外して、ハンカチでくるむ。ここから先は日葵には聞かせられない。


「……僕は大体察しがついたぞ」


「あはは……あぁ、俺も胃が痛いよ。つまり――」


 俺の説明に青柳は眉間に指を当て、錬はあんぐりと口を開けた。


「……予想より酷いな」


「……お前、鬼か?」


「いや、まぁ、否定できないことを言っているのはわかってるけど……」


 元々の大筋はここで俺が合流して、日葵と一緒に幹久を叩いて逃げる計画だが……。

 日葵とのこと、二人の王子のことをうやむやにはしたくなかった。

 しばらくフリーズしていた二人だったが、青柳が顔を挙げた。


「日下部、僕は行く。今日は人生最悪の日だ。行くところまで行こう。嘘をつくのはもう疲れたんだ……それと、僕のことは玲次と呼べ、もう『青柳』ではないからな」


 頬を上気させ、青柳……玲次は俺に指先を突き付けた。


「わかった。玲次、俺のことは樹でいいよ」


 その様子を見て錬が焦った様子で僕と玲次が肩に手を回してくる。


「おいおい、先に玲次に言われんのかよ!? 俺は元々行くつもりだぜ。全部終わったら全員で遊ぼうぜ。つーか、俺は卜部のこと諦めないからなっ!」


 心底嫌そうな玲次とゲラゲラ笑う錬。後はもう走りだすだけだった。

 舞台裏から、三人で転がるように雪崩れ込む。


 日葵がこっちを見て、ピョンと飛び跳ねた。一瞬安堵した表情をしていた所を見るに、通信が途絶えて不安だったのかもしれない。会場は注目が僕らに集まる。マイクのスイッチはまだ切れている。会場にはここでのやり取りは聞こえていない。

 幹久は俺を見て笑った。まるで、起死回生の一手を見つけたかのように。両手を広げて日葵に向き直る。


「君は……やはり来たんだね。日葵、君の王子様の登場だ。しかし、彼に何ができる。わかるだろう? 彼には何もない。横の二人は青柳君と赤井の跡継ぎだね。何をしに来たのか知らないが、その二人の方が君を幸せにできるだろう。君を受け止める器ではない。君は普通の人と恋愛なんかできないし、一般社会の生活なんかできない。日葵、もうわがままは止めて君は王女になるんだ」


 こちら何て一瞥もせず、朗々と幹久は語る。コイツ、日葵との言い合いに勝てないからって俺をダシにしたな。しかし、日葵は笑みを崩さずこちらを見ている。


 その目は俺を信頼しきっていて……なんだか色々思い出す。この夏は本当にいろんなことがあった。でも、結局出てくるのは日葵のことばかり。

 まだ子供の俺に何ができるかなんて、わからない。きっと幹久が本気を出せば俺なんか捻り潰すなんて簡単だろう。それでも絶対に譲れない。あのバスの時のような、不安そうな表情を二度と日葵にさせるわけにはいかない。


「受け止める必要なんてない。俺は日葵と一緒に、ただ一緒にいろんなことを楽しむだけです」


「なんだ? 君はこの場所に立つに値しない。……そう、本来ならば姉さんを奪ったあの男も……そのはずだったんだがね」


 照明の光が熱を持つ。夏の風が吹き込む。足も声も震えない。

 左右を見ると錬がニヤニヤとこっちを見て、玲次がさっさと終わらせろとでも言うようにこっちを見た。お前等……。深呼吸を一つ、前に出る。


「『値』か。玲次も『価値』にこだわっていた。日葵が散々証明したでしょう? 今の龍造寺ならあんたが入れば問題は無い。一人の天才に頼る必要なんてないんです」


「まるでわかっていない。私は、父から託された龍造寺を守る。結局、一人のカリスマこそが時代を作るのだよ。私はそれをずっと見てきた。そうでなくなれば、それはただのシステムだ。私の知っている『龍造寺』ではなくなる。この企業は()()()()のものだ」


 静かな口調ではあるが、その表情は自らの矛盾に苛まれている。


「幹久……」


 その痛々しさにお爺さんが目を閉じる。自身を肯定する論理の鎧を日葵が破壊したことで、露わになる本心。ここまで話してもらって初めて確信する。やはりこの人にとって『龍造寺』とは……。


「すみません。俺、馬鹿だから、思ったことそのまんま言わせてもらいます。貴方が拘って守ろうとした『龍造寺』はもう無いってこと、わかっているんでしょう?」


 俺が言うべきことなのかわからない。だけど、この場所を用意したのは少なくとも幹久だ。


「……」


「両親がいて、葉香さんがいて、貴方がいて、そのどこかの時代の貴方が望んだ家族の象徴である『龍造寺』はもう無いんです。日葵を玉座に据えて、葉香さんを引き込んでも、どうやっても戻ってこないんです。皆未来に進んでいるんだ」


「知ったような口を聞くじゃないか。君に私の憧れの何がわかる?」


「わかるわけありません。だけど、貴方が間違っていることはわかる。自分でもそれを理解しているのに、誰もそれを言ってあげないから、そんな辛そうな顔をするんだ」


 作戦を準備する時、日葵は葉香さんから聞いた幹久が拘っていることを話してくれた。


『叔父さんはね、昔の家族が全員そろっていた時の『龍造寺』を再現したいだけなんだって』


 それは、子供のような拘り。父がヒーローで母が優しくて、優秀な姉がいて、皆でいたその時代の再現。叶うことのない望み。日葵を父の席に座らせて、変わりゆく前の家族の有り様を再現しようとしているだけ。だから、日葵と正面から向き合えなかった。だって日葵はお爺さんとは違うのだから。

 現実から目を逸らし続けるピーターパンのような夢を見続けている。

 

 それが、龍造寺 幹久 という人物の核心だった。


 家族は誰もそのことを言えなかった。立ち止まる幹久が歩き出すことを信じていたから。もし、過去に言った人がいるなら……ポケットの中のスプレー缶が転がる。……多分、パイでも投げながら言っちゃったんだろうなぁ。そして葉香さんはいなくなり、今、もっとも心の支えだった父が引退しようとしている。

 それが今回の茶番の理由だ。もう一度、それが言える人間が言う必要があるのか……別にほおっておいても良い気もするが……ほとほと、俺って馬鹿なやつだ。


「皆、進んでいる。日葵だって、咲月ちゃんだって、葉香さんだって、お爺さんだって、晴彦さんだって変わっていく。貴方だって変わっている。もう、誰かをその背中に乗せることができるんだ! 憧れた父親のように!」


「黙れっ! 何も知らない若造に言われたくはないっ! 君は何がしたいんだっ!」

 

 巨大企業の代表が俺なんかただの高校生に言われるのは、さぞ屈辱だろう。

 だけど、この場所で日葵がいるのならば、俺はいくらでも強がれる。

 激昂した幹久が走りだしてきた。


 それを見て俺がとった行動は、自分でも嫌になるほどごく自然な動きだった。


 スーツを翻し、パイクリームの缶を左手で持ち、右手に噴射、パイ投げ用の重く固めのクリームが右手に盛られる。


「俺は、日葵の傍にいたいだけだぁああああああああああああ」


 スパァンと気持ちの良い、音が会場に響いた。

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奴隷に鍛えられる異世界生活

― 新着の感想 ―
[良い点] 祝パイ投げの継承w
[一言] 晴彦「これからは(パイ投げの)師匠と呼びたまえ」 (絶対にお義父さんとは絶対に呼ばせないよ) ってことを思ってるのかなぁ。 幹久も多分色々と分かってはいるんだろうけど。 なぜこうなった…
[一言] 幹久君ちょっと視野が狭すぎるな 無理矢理トップに乗せても手段選ばないなら会社売却するだけで降りれるんやで
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