天然少女は向かい合う
※※※※※
「それでは、スクリーンに注目でっす!」
ワイヤーで釣られた、キャットウォークの舞台の上で日葵がスクリーンを指さす。
映されたのは、巨大なQRコード。
「日葵……これはどういうことだ?」
あくまで、紳士的に鉄面皮を被って幹久は問いかけるが、日葵は目線だけ返す。
幹久が振り返ると、嬉々としてQRコードをスマフォで読み取る。父の姿があった。
「ふむふむ、ホッホー! これはお爺ちゃんビックリ、やるのぉヒヨちゃん!」
すでに会場では大きなどよめきが満ちている。あのQRコードはなんなのか……。
「……。一体何が」
幹久が懐からスマフォを取り出して、QRコードを読み取ると同時に日葵がマイクを構えた。
「この場をお借りして、ご報告があります。龍造寺グループは今後、新体制になりまっす!」
さらに大きなどよめきが会場に満ちる。出遅れた幹久が情報を開く。
「何だこれは? これは……」
そこにあったのは、新たな龍造寺の要職の図。現龍造寺のトップである龍造寺 大樹を引退し新たに幹久を会長に据えた体制。これまで、日葵の祖父である大樹が自身の引退の為に行った事業整理と集中していた権力の分散された構造が描かれていた。
それは幹久が否定し、これまで大樹が座っていた玉座に日葵を据えようとした思想とは真逆のもの。大樹が発案し幹久が全力で阻止した改正案。その完成図が描かれていた。
会場の人間は前もって進められたと考えるだろうが、実際は人材の評価と大樹がしようとした人事異動を推察し、より企業の能力を向上させる形で説得力を持たせた改革案を日葵が二日で作り上げたものである。
「本日のパーティーはお爺ちゃん。龍造寺 大樹の引退の発表になります。この発表の大役を任せていただき本当に光栄でっす」
「グッ……」
「ホッホッホ。ヒヨちゃんや、お爺ちゃん引退かい? いやぁ愉快愉快」
いけしゃあしゃあと言い放つ日葵に、大樹は爆笑をしている。進めていた改革で権力を手放したゆえに幹久に妨害をされた案をノーヒントの状態から取り組んだ日葵が完成させて、この場で幹久に叩きつけたのだ。若さに追い抜かれる感覚は痛快で心地よい風を受けているような心持ちだった。
さらに以前の日葵ならばもっと決定的で破滅的な結果を幹久を突き付けていただろうに、今回は『落としどころ』まで提案できていることに成長を感じる。
「女子、三日合わざればかの。いや『ラブ』じゃな!」
その成長の影に一人の少年がいたことは想像に難くない。大樹は妻とのことを思い出しながら、息子と孫のやり取りを見守ることにした。
日葵が乗るキャットウォークがさらに下げられ、日葵が大樹と幹久のいる舞台に飛び乗ると、引き上げられていく。これまでの龍造寺を壊すかのような改正案、それを受けてしばし目を瞑っていた幹久は日葵と向かい合う。お互い、今はマイクを切っていた。
「なるほど、素晴らしい改革案だ。しかし、これが作れるということが君の優秀さを証明している。なぁに簡単なことだ。適当な役職を増やして君がこの龍造寺の実権を握ればいい。いいや、握ってもらう」
「ニヒヒッ。やっと私を見てくれたね、お久しぶりでっす。叔父さん! さって、ここからが出番だよイックン!」
照明の光を浴びて髪飾りが光る。無線を通じて合図を送られた樹は、ネクタイを上手く締めることを諦めてシャツのボタンを一つ開けた。
「わかってる! 待ってろ!」
最後にスクリーンに繋がるパソコンの画面を切り替えて走りだした。
切り替えられた新しい画面、そこには新体制となった龍造寺が今後しようとしている新事業の案が載っている。もちろんこれは日葵がでっち上げたものだが、関連する企業にとっては大きなチャンスである。招待客の注目は幹久と日葵から一気にそっちに移った。
樹は従業員用の階段を降りて会場に入った。足を止めて周囲を見渡す。
探す相手はすぐに見つかった。
「お前が始めた茶番だろ。責任は取ってもらうからな青柳!」
そしてお節介は再び走りだした。
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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