お節介と恐怖のやり取り
パフェを食べた後は胃もたれと戦いながら『作戦』に向けて作業に入る。
ネカフェと日葵は言ったが、実際はそんな生易しいものではない。日葵がスマフォで調べたチケット売り場のような窓口でカードキーを借りてマンションの一室へ向かう。
「九州にもこういうとこあんのな」
「日本の大きな都市なら大体あるらしいよ。お母さんが良く使ってるし。今回もお母さんの会員証でっす」
たどり着いたマンションの一室を開けると、棚にズラリと並べられたパソコン並び、繋がれたモニターが数台と神経のような配線が床を這っている。ちなみに、緊急時にパソコンを壊す為のスポンジみたいな大きさの強力磁石も置かれているあたり……怪しさしかないんだけど。
「絶対悪い奴しか使わないだろ、こんなの。二日で一体いくらかかるんだ?」
「私の貯金で払える程度だから大丈夫だよ。さってイックン、お仕事だよ」
「言われたことしかできないからな。後、ほどほどだぞ」
「わかってるから、大丈夫でっす」
というわけで、ひたすらデータを追いかけて俺は渡されたデータの仕分けをしたのだった。
夕方。作業が一区切りついたので、当日の動きについて話しながら帰路に着く。幸い丁度良いタイミングでバスが停まっていた。
正直、明日一日で終わる気はしないが、日葵は自信があるようなのでなんとかなるだろう。むしろ、家に帰れることを日葵が了承したのが意外なくらいだ。
「正直もっと無理するかと思ってたんだがな」
「うーん? イックンがいるから大分早く終わったよ。明日一日あれば大丈夫っぽい。お母さん達も根回ししてるっぽいし。多分お爺ちゃんも今日の私達の動き気づいていると思う」
「大人組の掌か……ま、今のところはな」
「ニヒヒ、だよね。予想を裏切っちゃおう……」
不意に黙った日葵が手を重ねてくる。
「……イックンと一緒だと、全部が楽しくて、難しいの。料理とかどうすれば喜んでくれるかなとか、今何を考えているかなってずっと考えてる。それに比べたら叔父さんの意地悪なんてイージーだよイージー」
「大体普通のカップルってそうなんじゃないか? 俺も大体日葵のことを考えているし」
世間一般の付き合っている連中のことは詳しくないが、きっとそういうものだろう。
「そっか、じゃあ私達普通だね」
「そうだな。普通のカップルだ」
単純だが難しい。日葵は俺の思い通りに動くわけではなく、日葵にとっての俺もそうだ。
ぶつかって、考えて、手をつないで、不安になって、笑いあう。
ややバカップルかもしれないが、ま、日葵が楽しそうだし、そういう事にしておこう。
そのまま手をつないで別邸に戻る。リビングに入ると、エプロン姿の咲月ちゃんと葉香さんがいた。
「あら、早かったわね。『ネカフェ』使ってるからもっと遅いと思ってたわ」
「お帰りなさいお姉ちゃん、樹さん。今日はお疲れさまでした」
机にはローストビーフを中心に野菜が多く並べられ、スープもあるようだ。
「わー。ごめんね。明日の朝ごはんは頑張るよ」
「美味しそうです。食べてもいいですか?」
「いいわよ~。咲月、ソースをかけちゃって」
「はい。今日は樹さんの好きな醤油ベースのソースです」
香ばしいソースが肉にかけられ腹の虫が鳴き始める。
降りてきた晴彦さんも合流して、夕飯が始まりすぐに片付いていく。デザートに咲月ちゃんがスムージーを配ったタイミングで葉香さんがこちらを見た。
「そういえば、成果の方はどう?」
ニヤニヤとこちらを見てくる。さて、どう答えるか……。
「バッチリでっす」
ニコリと日葵も返す。なんだろう、親子なのに裏の読み合いをしているのだろうか?
冷や汗が背中を伝うが、この二人の腹の探りなんぞに俺が入れるわけが無い。
「良かったわね。安心したわ」
「はい、イックンとのパフェデートは大成功でっす!」
「そっちかよ!!」
そっちだった。いや、まぁ、わりと衝撃的なイベントだったけれどっ!
「え? 幹久のことなんて、別に問題ないでしょ。今回は貴方たちに任せているけど、こっちも色々しているし」
「むしろお母さんの動きを利用しているから、お母さんも私達を利用してもいいよ」
「あら~。言うようになったわね。お母さん嬉しいわ~」
「私は蚊帳の外ですね。樹さん、当日必要なことがあったら言ってくださいね。あっ、これ参加者リストと簡単な情報です。あと、会場の地図と当日のスタッフの配置もどうぞ。良かったらお役に立ててください」
「ああ、うん……」
怖えぇええええええええ。卜部家の女性陣怖ぇえええええええええ。
悪い子どころじゃないよ。恐怖だよ。ドラマなら笑って見れるけど、目の前でこのやり取りは耐えれないよっ! めっちゃ細かく描き込まれている書類を見ながら頬を引きつらせていると、ポンと背中を叩かれる。見ると、晴彦さんが無言でこちらを見ていた。その虚無の底のような眼にはそれまでの晴彦さんの苦労が伺える。あんた、この女性陣を相手によくもいままで……
ガシッ! と机の下で強く手を繋ぎ。普段敵対している力なき男性陣は初めて団結を深めたのだった。
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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