今度は一緒に
何もできず会が終わり、呆然としているうちにいつの間にか車に案内されていた。
車内ではジト目の葉香さんと睨まれ、明後日を向く晴彦さん。そして、俺の横に座る日葵と咲月ちゃん。
しばしの沈黙後に口を開いたのは日葵だった。
「むぅー。デザートを食べ損ねたよ」
「そこかよっ!」
ズビシとチョップを入れる。
「痛くなーい。だって、とても美味しそうだったのでっす」
「いやいや、色々あるだろ。あの幹久って人、露骨に日葵と咲月ちゃんを狙っていたし、それに……青柳が…その、告白したろ?」
思い出しても腹が立つ。あんな気持ちのこもっていない告白があるもんか。
もうあの幹久っておっさんも呼び捨てで十分だ。
「ん? 私はイックンが大好きだよ」
「ブフッ、いや、わかってるけどさ。そうじゃなくて、あいつ日葵に告白したのに、後ろのおっさんの反応を伺ってたというか芝居がかってたろ。あんなの……失礼だろ」
周囲の御曹司が声を上げたのも含めての茶番なのは明らかだ、そんなのおかしいだろ。
「うん、そうだね。私とイックンに対して失礼だよ。ヒヨちゃんカッチーンでっす」
「……じゃあ、なんで笑ってんだよ」
長手袋をした腕を絡めて日葵はニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「イックン。私のことを想う人がいるって叔父さんが言った時『当たり前だ』って言ってくれたぁ」
頬を染めて見上げるその表情はだらしなく浮かれていて、頬に手を当ててシナを作っている。
「おまっ! 聞こえてたのかよっ!」
「『俺がいる』って言ったでっす。にゃは~。ヒヨちゃん照れちゃったっ」
「やめろってば、晴彦さんもいるんだぞっ」
「私も聞こえましたよ。他の人達違って、まっすぐにこっち方向に向けた声だったので、他の人の声は虚空に叫んでいるのでぼやけます」
「むぅ……」
何喋っても自爆しそうだ。しかし、こんな時一番に突っかりそうな晴彦さんが大人しいのはなんでだ? なんか葉香さんに睨みつけられているし。というかあの状況でこの人何やってたんだ?
「あの、葉香さん。何かあったんですか?」
「ええ、色々とね。あのシスコンが気持ち悪い画策をしてきたときに、この人ったら盛大にコケて、私と一緒にお酒を浴びちゃったんだから」
「面目ない……。邪魔者をなんとかしようとしたんだ」
「途中までは完璧だったのにね。その後に何もない所で転んだのよ。まったく、でも……ちょっとカッコよかったわ」
どうやら、晴彦さん達も何かあったようだ。ため息をついた葉香さんがハンカチで晴彦さんの額をふき取っている。
「三人ともお疲れ様。フフフ、こういう経験も人生には必要よ。帰ったらお風呂にでも入って今後のことを話し合いましょう。その上で聞きたいのだけど、イックン、日葵」
「何ですか?」「はーい」
「私は手助けだけよ。どうしたいかは二人で決めなさい」
妖艶にほほ笑む葉香さん。……日葵と付き合う時は晴彦さんとパイ投げをしたもんだが、今度は葉香さんから厳しいお達しだ。
「俺は……日葵といる為ならなんだってします」
「『私達は』でしょ。ヒヨちゃん、本気モードになっちゃいまっす!」
「やめろって、去年の二の舞はごめんだぞ」
付き合う前のこと。我が身を焦がすほどの熱量を持って、傷つくことも厭わずに困難に立ち向かった日葵の姿を思い出す。あんなことはさせられない。
「お姉ちゃんが暴走したら、樹さん以外には止められませんから頑張ってください」
「まったく。……七難八苦だぜ」
「アハハ、久しぶりに聞いたね。イックンの口癖」
「誰かさんに盗られたからな」
かつての口癖は、惚れた少女に投げかけた言葉。次は一緒に立ち向かう番だ。
相手が誰であろうとも、ここで踏ん張らなきゃ男じゃないだろ?
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ハイファンタジーでも連載しています。よかった読んでいただけたら……(文字数100万字から目を逸らしつつ)嬉しいですっ!下記にリンクあります。
『奴隷に鍛えられる異世界』
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