赤い王子とお節介の青春ラプソディ
パラソルを設置した場所で、のんびり水とか飲んでいる。しばらく先では日葵と咲月ちゃんが森重さんを埋めていた。かなり高級そうなアロハなのによいのだろうか?
「……ん、ここは…俺は?」
おっ、目覚めたか。横に寝かせていた赤井が目を覚ましていたようだ。チラチラと周囲の視線はあるものの、浜辺は多少落ち着いているようだ。先ほどの女性達も、倒れた赤井にまで手を出すことはしないだろう。
「おはよう。水飲めよ」
「あぁ、樹か。ゴメン、倒れたのか」
「女性に囲まれてな。気をつけろよ、まったく」
受け取ったミネラルウォーターをグビグビと飲みながら、額に手を当てる赤井。
こんな仕草まで絵になるのだから、イケメンってのは得だよなぁ。
「……夢を見たんだ。卜部がここにいて、しかも水着姿なんだ」
「日葵ならそこにいるけど」
「マジかッ!」
ガバッと上体を起こすと、今度はデカい浮き輪を三人で膨らませていた。
浮き輪に夢中でこっちには気づかないようだ。
「『日葵』か……そうか、夢じゃないか。まぁ、そんな気もしてたんだけどな。そっかー」
もう一度後ろに倒れ込む赤井。ここに赤井がいる『意味』。さっきは急で考えに至らなかったけど、普通に考えればわかることだ。
赤井も企業の御曹司。あの金髪や青柳と同じく龍造寺の孫娘である日葵を狙ってきた。そう考えるのが自然だ。だから森重さんに無理言って二人きりにしてもらっている。
もし、赤井が日葵を狙っているのなら話すことがあると思ったからだ。
「赤井。龍造寺の催しに参加するのか?」
「するぜ。そんで卜部をモノにするつもりだった」
赤井は目をつぶり笑っていた。
「昨日青柳にもあった。よくわからん金髪にもだ。俺は……日葵と付き合ってる。悪いけど、他の学校の女子みたいに縁を作る程度の気持ちなら――」
「惚れてんだ」
被せるように言い放たれた。数秒沈黙する。『どうして』『学生会で何かあったのか?』
言葉と疑問は浮かべども泡沫のように割れて消える。
最後には納得が残った。
「そっか、日葵は魅力的だからな」
そう言うと赤井はこっちを向いて唇を尖らせた。
「惚気んなバカ。こっちは初恋だぞ。……初めてだったんだ一緒にいても苦痛じゃない女子ってのは、俺って意外とちょろいんだぜ」
「初めから、お前は割とちょろいと思っているよ」
「マジか~。……なぁ、樹」
「何だ?」
赤井は上体を起こして、日葵に視線を向けた。
「初恋なんだ。中途半端で終わらせたくない。ダラダラは行かないからさ。一週間後まで全力でぶつかっていいか?」
「多分、少し前までの俺なら止めてくれって懇願してたよ。……でも、日葵と一緒の時間を俺は信じてる。来るなら来い、絶対に譲らない」
青柳や金髪とは違う。多分本気で日葵を好きなった者同士のシンパシー。
不安はある。でも、これだけは譲れない。それなら真っすぐに正面から受けて立つ。
「……クックククク」
「フフッ、フハハハッハ」
どちらともなく笑い始める。なんだこれ、まるで漫画のよう。馬鹿みたいだ。
ただ一つ、こうして俺が笑えているのはきっと君を信じているから、もっと頑張れると思えるから。
ひとしきり笑った後で、赤井が拳を突き出してきた。今日はこのノリに乗ってもいい気分だ。
だっては今は夏で、ここは海なのだから。拳を合わせる。
「覚悟しろよ、樹」
「返り討ちだ、錬」
少し驚いた顔、ざまぁ見ろ。しょうがない、同じ女に惚れたよしみだ。
「あっ、赤井君が起きてるでっす!」
「ちょうど浮き輪も膨らみましたね」
「ホッホ、でしたら荷物番は変わりましょう」
日葵達が戻って来る。さて、ここからは勝負だ。でも普通に海も楽しまないとな。
「見てみてイックン。浮き輪っ! おっきいでしょ」
満面の笑顔で走り寄って来る日葵。おっきな浮き輪を両手で持ち上げている。
両手を上げた状態で走るので、前開きのパーカーから覗く谷間が震えている。流石にこれは錬には見せたくない。とっさに、視線を遮ろうとするが赤井は再びフリーズしていた。
「……みず、水着……なんで、怖くないんだっ。い、意識が……」
「おい、錬。お前……」
辛うじて意識はあるようだが、まともに日葵を見れないようだ。一安心だけど……いろんな意味で大丈夫かコイツ。
「だいじょぶ? 横になる」
「……」
こちらに近づき、錬の様子に気づいた日葵は心配しているようだが、咲月ちゃんはドン引きしていた。うん、昔俺も同じような視線を彼女から浴びせられたことがあるからわかる。基本的に咲月ちゃんは他者との距離が遠いからな。
しまいには錬が俺の手を引いて、姉妹に背を向けて顔を寄せてくる。
「可愛すぎんだろっ! 直視できねぇ! 女子の水着なんてトラウマが呼び起こされるだけだったのに。卜部だけは魅力的なんだっ! 何でお前は平気なんだよっ」
こいつは彼氏に対して何言ってんだ? 正面からって言われても流石に戸惑うぞ。
だけど、言いたいことはわかる。
「同感だ。平気じゃないぞ、必死で平静を装っているだけだ。正直心臓はバクバクしている。俺の彼女は世界一可愛いだろ」
「クソッ、これが彼氏の余裕かよ」
「あんまり見るなよ。目つぶしするぞ」
「残念ながら、直視できねぇよ」
後ろを見れば、少し心配そうに日葵がこっちを見ている。
「またぶっ倒れないなら、さっさと遊ぼうぜ」
「……いいのか?」
「ここまできて、邪険にはしないよ。その分譲ることも無いけどな」
振り返ると、日葵がニパッと笑う。
さぁ、何して遊ぼうか。
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