お節介な補習と青い王子
課題を全て終わらせた夏休み。後はもう遊ぶしかない、一日中寝るとか、ぶっ倒れるまでゲームとかやりたいことは山のようにある。
「……はずだったんだけどなぁ」
はい、ただいま私、日下部 樹がいる場所は学校です。なんで部活にも入っていないというのに学校にいるかというと。
「おーい、真面目にやってかー。プリント終わっても、午前中は学校にいろよー」
つるっぱげが眩しい我がクラスの担任が20分置きにやってくる。この道30年の大ベテランだけあって、来ているジャージが体の一部のようだ。
「やってます。というか、補習って俺だけですか?」
「お前だけだよ。なんせ、夏休み前の自習を登校しながらサボるなんて器用なことしてんだからな。出席が足りなかったり、赤点の奴らとは別メニューだ」
出席簿を担いで、ため息をつく担任。はい、そうです。補習です。遠島との一件でサボったせいで一日だけ補習を言い渡されたのだ。唐突に電話が来て学校に来たらこの様です。あぁ、辛い。
外では運動部が元気に走り回り、吹奏楽部の演奏が響いている。そして、俺は教室でプリントと向き合っている。
「……反省文、書いたじゃないですか」
「あれだけですむかアホタレ。それで、どうして自習をバックレたんだ?」
「反省文に書きました」
「体調不良でうんぬんかんぬんだっけか、天気の話題よりつまらん作り話だ。……そういえば、中庭でお前を見たという生徒がいるんだが?」
つまらんとは失礼な、あの反省文は俺が丹精こめた作り話だというのに。
めっちゃ睨みつけれているので、居心地が悪い。あぁ、早く帰りたい。
「猫が喧嘩してたんで、仲裁に入っていました」
盗聴器を使って頬を張り合うような物騒な猫だったけど。
「そうか、その猫達はどうなった?」
「……勝手に仲良くなって、帰りましたよ」
探るような視線から必死で顔を背ける。えぇ、カマかけられるし、どうしたもんか。
この場を切り抜けようと思案していると、大きくため息をつかれた。
「それならいい。……日下部、体調不良の休みよりも、サボりは重罪なんだぞ。内申に大きく響く、お節介も大概にしておけ」
「……はい。すみません」
説教ももっともだ。連絡なしで休んで、ゲーセンで見つかるようなもんだからな。というか、この人どこまで知ってんだろう? 詳しくは知らないと思うが、ベテラン教師の直感は侮れない。
言い訳のしようもなく、プリントに向かっていると、背中をバシンと叩かれた。
「痛っ!」
そのまま、教室のドアを開けて担任がこっちを振り向く。
「昼のチャイムがなったら、終わらせたプリント持って職員室へ来い。それで出席扱いにしてやる」
「へ?」
そのままドアが閉められた。……あれ、この補習ってもしかして温情じゃね?
昼になり、プリントを提出すると、目の前で出席簿にハンコが押された。ちぇ、このオッサンかっこいいぜ。礼をして職員室を後にする。
さて、帰るか。と振り返ると、目の前に生徒が一人。この暑いのに上まで閉じたボタンに切れ目にかけられた眼鏡。
学園の青い王子こと、青柳 玲次が立っていた。俺と同じく補習、というわけではないだろう。
手に書類を持っているようだし、学生会の仕事かなんかか。別に接点がある相手じゃないし。適当に会釈して通り過ぎよう。
「待て」
まさかの呼び止めである。
「……なんですかね?」
「ちょうどいいタイミングだ。君、普通科の教室前で卜部 日葵と一緒に立っていたな」
終業式の時の話だろうか? あの時はこちらに目もくれなかったのに覚えていたのか、そこは流石、進学科でもトップの成績を収めていると噂の王子様といったところか。
「まぁ、クラスメイトですし」
「そうか、であれば少し聞きたいことがある。待っていろ、書類を出してくる」
そういって職員室へ入っていく。
……よしっ。逃げるか。
嫌な予感がするのでそのままダッシュで靴箱へと向かい、家に帰ったのだった。
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