天然姉妹と水着選び
場違い感がすごいのだが、日葵について『コスプレ衣装専門店 メ☆サ☆イ☆ア』に入る。一階と二階があるようだ。本当にこの店に水着があるのか?
「一階は、布地の店か」
ロールに巻かれた布地に、コルセットの骨組み、装飾品の品々。どれもがカラフルで花畑みたいだ。
「自作でコスプレしたり、小物を作る人達用でっす。お母さんもよくここで買い物をしてるんだ」
「へぇ、なんていうか。綺麗だな」
色んな柄の布地があるもんだ。反物っていうのか? ああいう形の布を見たの初めてかもしれん。
「私もちょっとした縫物をするときに利用します。便利なんですよ」
物珍しさに周囲を見渡す。入り口近くの大きな棚には大量の型紙が入っており、なんなら昔の呉服屋みたいな印象すらある。
考えてみれば、自分の服を自分で作っていた時代があったのだ。形も用途も違えど文化はどこかで受け継がれていくのかもしれない。用途が全然わからない道具が、ずらりと並んでいる光景は好奇心をくすぐられる。ちょっとワクワク。
「あら~。日葵ちゃんに咲月ちゃん。いらっしゃい。待っていたわよ」
キョロキョロしていると、階段から妙齢の女性が降りてきた。シャツにエプロン、下はジーンズというラフな格好だが。スタイルは良く、綺麗なお姉さんという感じ。細目であり、頭に巻いたバンダナが耳のようで、まるで狐のような印象を受ける。二人を見て嬉しそうに駆けよってくる。
「あっ、目代さん。お久しぶりでっす」
「今日はお世話になります」
「ちょっと、ちょっと。あらあら~。二人共、見るたびに綺麗になるわね。腕がなるわ! ささ、二階に上がってちょうだい。それと……」
グルンと危ない角度で首が回って目代と呼ばれた店員さんがこちらを見る。細目だからか、感情が読めなくて怖いぞ。
「えっと、こんにちは」
日葵よ。紹介してくれないから、ちょっと困るぞ。ただでさえ男子高校生は大人の女性を前にするとちょっとビビる生き物なのだ。
「こんにちは。貴方がイックンね~。葉香から聞いているわ。私はこの店の店長をしている目代よ。よろしくね~」
目が、目が笑っていない。なんだこの迫力は。間延びした口調なのに、感情が読めなくて、本当に歓迎されているのかわからない。
「イックン。目代さんはお母さんのお友達で、レイヤーさんでもあるんだよ。凄いでしょ。私達の水着を作ってくれたんだよ」
なぜか、エッヘンと胸を張る日葵。どうしてお前が偉そうにするんだ。
「既製品をちょっと修正しただけ~。二階の試着室へどうぞ~」
案内されるがままに二階へ向かう。
「凄いな。わざわざ、水着を作ってもらっているのか」
目代さんの横でニコニコ笑う日葵を見ながら、咲月ちゃんに話しかけると、少し言いづらそうに顔を寄せてきた。大きな瞳に自分の顔が映っているのがわかる。ちょ、近い、近い。
「……お姉ちゃんは、その、胸が大きいので、どうしても既製品だとサイズがなかなか無くて……なので姉妹一緒に目代さんにお願いしているんです。普通の服と違って水着は扱いが難しいので」
「あぁ、なるほど……」
いつぞやの服の例が水着でも当てはまっているのか。
まぁ、日葵が嬉しそうならいいか。いや、ちょっと待って。大事なことを忘れていたぞ。
「それなら、一階で受け取って終わりでいいんじゃないか?」
なんでわざわざ二階の試着室へ?
「えっ? 水着とはいえ、オーダーメイドなので試着するのが普通じゃないですか?」
「オーダーメイドの服なんて、着たことないからな。あぁ、じゃあ、俺は外で待っとくよ。終わったら連絡してくれ」
「ダメだよっ。イックン!」
「のわぁ!」
いつの間にか、日葵が目の間でプクーっと頬を膨らませていた。
「せっかく、作った水着なんだから。見るのが彼氏の務めでしょ。わかってないなー」
「いや、恥ずかしくないのか?」
「なんで? イックンなら大丈夫だよ」
「私も、樹さんのご意見を聞かせてもらいたいです」
えっ? マジ?
有無を言わせぬ勢いで、二階の一室に案内される。結構広いな。姿鏡が一つと、照明がたくさんあり、試着室というより撮影室のようだ。なんならステージっぽいものまである。ステージ横にドアがあり別の部屋に繋がっているようだ。日葵は面白がってライトをたくさん動かして咲月ちゃんに注意されている。
「ここは、コスの撮影部屋にも使っているからね。じっくりと二人の水着姿を見れるでしょ? 照明の調整もできるから、自然光の再現とか陰影とかもつけれるよ~」
「……あの、なんというか、流石に不味いんじゃ……」
「アハハ、最近の子にしては真面目だね~。ただの水着だよ~。何よりも女の子が見て欲しいなら問題ないよ~。」
バンバンと目代さんに背中の叩かれる。
「よっし、気合が入るね。じゃあ着替えてくるよ」
「少し待っていてくださいね」
「折角だから、簡単に髪型とか整えさせてよ~。葉香に写真をお願いされているからね~。ステージ横の部屋がメイク室にもなっているから、お姉さんがちょいちょい、いじっちゃうぞ~」
というわけで、女性三人で着替えくるらしい。そして待つこと、なんと一時間。
ややぐったりしていると、コンコンとノックされて目代さんが部屋に入ってきた。なんか、ツヤツヤしているようだ。感情の読みずらい中でもどこか満足げな感じ。
「やぁ終わったよ~。ステージ横から入って来るよ~。まずは咲月ちゃんからどうぞ~」
声が聞こえているのか、ガチャリとドアが開き、咲月ちゃんが入ってきた。
「お待たせしました。どうでしょう?」
そう聞きながら、無自覚に可愛いポーズを通るのは両親の教育のたまものか。
すらりとした中学生離れしたスタイルを持つ咲月ちゃんの水着は、白いワンピースタイプのものだった。フリルが主張しない程度についており、咲月ちゃんの長い手足にとても似合っている。上半身は丈の短いパーカーを羽織っており。上半身を隠すことで逆に足を強調しているようだ。パーカーは青色とピンクのラインが入っており、サイバーパンクのキャラクターっぽいのはコスプレの系統だろうか? しかし、彼女自身の素材の良さがそのアクセントを飲み込んで成立させている。少し化粧をしており、普段よりも大人っぽくて、このまま撮影会といわれても違和感がない。
「凄く、いいと思います」
今考えたことを口に出すと、確実に変態の烙印を押されてしまうので簡潔に返す。
「ありがとうございます。このパーカーが可愛くて、あっ、これフードが猫ちゃんなんですよ」
フードを被り、ニャーとポーズをする咲月ちゃんを、恐ろしい勢いで目代さんがカメラに収めていた。
「おっふ。やばっ。我ながら、めっちゃいいわ~。これで中学生……いや、中学生だからこそ、あえての可愛い系に持っていける美味しさね。さぁ、次は日葵ちゃんどうぞ~」
その言葉を聞いて、元気よく日葵が入って来る。
「おっそいよっ。じゃじゃーん! どう? イックン」
「おまっ、それっ!」
思わず、顔を逸らす。ガン見してしまった日葵の水着。咲月ちゃんと同じワンピースタイプだと思うが、デザインはかなり違う。胸元が強調されており谷間がはっきりと見えていた。下はオレンジのスカートだが、上半身とのつなぎ目に穴が空いておりへそも見えている。髪型はポニーテールをほどいており普段と全然印象が違って、美少女然としている。咲月ちゃんと違いフリルをほとんど使わず体のラインを強調しており、可愛さを押し出しながらも、どこかドキっとさせる露出があるのだ。
「なんで顔をそらすのっ。可愛くない?」
ずいっと身体を寄せてくる。しっかりと固定されているにも関わらず、柔らかさを主張する胸元がネオジム磁石のようにように視線を引き寄せる。その不服そうな表情すら、抱きしめたくなる。
「可愛いけど……ちょっと、露出が多くないか?」
「ええー、そうかな? ほんとはババーンと大人のせくしーなビキニでイックンをドキドキさせる作戦だったのでっす、目代さんがこっちのが可愛いって言うから任せてみたの」
横でバシャバシャ写真を撮っている目代さんがその言葉で手を止めて顔を上げる。
「あんまり露出が激しいのは、最近のトレンドじゃないかな~。特に日葵ちゃんには年相応にして、異性を意識させるようにポイント抑えたデザインがいいよ~。ラッシュガードもあるから羽織ってみて。あっ、胸元でストップね」
「はーい」
真っ白なラッシュガードを羽織ってチャックをすると
ムニュン。
と布越しに胸元が押さえつけられる。
「ちょっと、きついでっす……」
「それがいいのよっ。きつくて上がらないチャック。それが最高にいいのよっ。ベストっ! 日葵ちゃんってホント、衣装が映えるのよね。カメラを向けられても物怖じしないのもいいわ~」
「なるほど、これがせくしーか。イックン、どう?」
「……似合ってる」
目線を逸らすしかない。直視しようものなら、いろんな物が抑えられそうにない。
「じゃあ、これに決めるよっ」
元気な声に思わず視線が戻る。二パっ、と笑うその顔はいつもの日葵で。つまり、俺の彼女が世界一可愛いです。
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