天然少女の答え合わせ
遠島と長谷川と別れて、西棟をぶらぶらと歩く。教室に戻っても良かったが、なんとなく気分じゃない。一階へ降りて、渡り廊下の自販機前でコーラでも飲みながら待つか……止めた。べ、別に日葵と後で飲みたいとかそういうわけじゃないんだからね、とか心で呟いた後に、気持ち悪さに舌を出す。
「男子のツンデレに需要はないよなぁ」
西棟に戻ると、女子達が学生会室前で礼儀正しく並んでいる。
普段は学生会室前での出待ちは禁止だったりするのだが、今日は特別なのだろう。
校長室みたいな立派な扉を横目で見る。と、中庭から見知った顔が現れた。
「よっす。ヒヨちゃん待ちか」
「そうだよ。陸斗は? 終業式から部活か?」
我が悪友は短髪に筋肉質であからさまに運動部っぽい外見かつ、趣味がバッセンの癖に、実はギターが趣味でバンド部に所属している。
「流石に今日は休みっしょ。機材を取りに来ただけ」
「手伝うか? 暇なんだ」
「ヒヨちゃんを待ってやれよ。それにしても、すごい人だな。正門に別の学校の女子もいたらしいぞ。いったいどこで慰労会をするんだろうな? 聞けば、実際は王子様達の人脈を強固にするための場とか……金持ちってのは怖いな」
「……そうだな」
「まったく。お前も素直になれないよな。ヒヨちゃんがそっちに行かないか心配なんだろ?」
「いいから、さっさと荷物とりに行けよ」
「ハッハッハ、わかったって。からかい甲斐のあるやつだな」
笑いながら、二階へ行こうとする陸斗を呼び止める。言い忘れていたことがあった。
「待てよ。陸斗」
「あん?」
「噂のこと、教えてもらって助かった。他の人間にも連絡してくれてありがとう」
「いいって、ヒヨちゃんの為だよ。今度ラーメン奢れ、チャーシュートッピングでな」
「ネギとメンマもつけるよ」
「ういうい」
……バイトでもするかな。ぼんやりとそんなことを考えていると、女子達が色めきだす。
見ると、日葵が出てきていた。教室へ向かおうとしていたので、手を振ったが人垣のせいでこちらに気づいていないようだ。手を振り続けると、気づいたのか。こちらに走ってきた。
「バカっ。周囲に人が……まぁ、いいか」
汗を掻きながら走る日葵をみてそんな気は失せる。今日は夏休みなのだ。
「イックン! 終わったよ。ゲーセン行こっ!」
「だな。その前にジュース買おうぜ」
後ろから黄色い歓声。どうやら王子様達も出てきたようだ。日葵を追って出てきたようなタイミングだな。
一気に人が寄っていったので姿は見えないが……赤井の奴、大丈夫か?
「すごい人気だ。あれ、全員が慰労会へ行くのか?」
「美味しいご飯とか、ブレンド品? のお土産もあるらしいよ」
「ブランド品だと思うぞ。いいのかよ?」
「何が? ジュースはオレンジがいいなぁ」
誘われたんじゃないのか? と聞こうとして言葉を飲み込む。
そんなことが気になる自分の小ささが嫌になる。すでに先行しているポニーテールは機嫌良く揺れていて、スキップでもしそうな日葵に話かける。
「プリクラでもするか」
「なんですとっ。イックンのスケベっ!」
「何でだよっ」
飲み込んだ問の答えは、振り返った日葵の満面の笑みで示されていた。
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