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【本編完結】学園の二大王子がクラスの天然女子に興味を持ったようです。ってそれ俺の彼女っ!!  作者: 路地裏の茶屋


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赤い王子は内心ビビる

「はぁ、今日も疲れた」


 常に女子に付きまとわれ、笑顔で引きつった顔面をさすりながら、赤井 錬は学生会室へと向かっていた。運動系部活の代表なんてめんどくさいだけかと思っていたが、女子の眼を()()()気にしなくて済む学生会室は錬にとって数少ないこの学校の憩いの場所だった。


「ん? なんだあれ?」


 学生会室の前に木製の棚が置かれている。深い色合いのそれは、台車の上に置かれている。

 いぶかし気に棚の前に立つと、いきなり小さな影が飛び出した。


「お疲れ様でっす」


「おわぁ!!」


 棚に隠れて完全に見えていなかった、小さな女子が飛び出してきたのだ。身長は150㎝あるかないかだろう。

 背丈が180㎝以上ある赤井にとっては別の生き物のようだ。


「子供!?」

 

「子供じゃないよっ。失礼な人でっす!」


 よくよく見れば、自分が学生会に誘った卜部 日葵だった。下からホッペを膨らませて睨みつけてくる。

 

「お……悪い。びっくりしたんだよ。なんでこんな所に?」


「お仕事の為に、棚を持ってきたの。でも、台車が引っかかって……今段ボールをかませたので大丈夫です」


 エッヘンと胸を張り、台車の取っ手を握る。


「うぬぬ……ぐぬぬ」


 台車は段差で止まったまま、どころか段ボールにタイヤがめり込んでいく。顔を真っ赤にして踏ん張る姿は見目麗しい女子高生の姿とは程遠い。その様子に苦笑しながら錬が取っ手を掴む。


「貸せよ」


「あっ……」


 ガコンッ、と音がして台車が段差を乗り越える。


「ムム、もう少しでした。でもありがとうございます。改めて、私は卜部 日葵です。どうぞよろしく」


「日葵だな。よろしく」


 普段は、コネ作りの為に近づく女子以外は名前呼びなんてサービスはしないのだが、まぁ少しくらい良い目を見させてもいいだろう。一日目で玲次が追い出さなかったということは、仕事ができるという話は間違いじゃないようだし。


「名前呼びはダメ。私のことは『卜部』か『ヒヨちゃん』と呼んだらいいよ」


 肩すかしを喰らう。名前呼びを断られたのは初めてだった。仇名ならいいのか、どうやら変わった子のようだ。


「わかった。じゃあ、俺は寝るから。後はよろしく、卜部」


「……え?」


「今日は朝練だったから、眠いんだよ。後よろしく、寝顔は撮るなよ」


「何言ってるの? お仕事だよ。夏休みの予算提出まで時間がないよ。大忙しだよっ」


 『だよだよ』うるさい。ため息をつく、前任は仕事をこなせなかったどころか、それを隠して暴れて逃げたが、今度は小さいし、うるさい奴が来た。下手に異性としてアピールしてこないのは気が楽だが、苦手な書類仕事を任されたらたまらない。


「俺は、パソコンも字を読むようなことも苦手なんだよ。逆に仕事が増えるから、何もしないのが手伝いなんだ。その代わり、前にでる仕事はこなすから勘弁してくれよ」


「手伝いじゃなくて、赤井君の仕事でしょ。でも書類仕事が苦手なら丁度良かった」


 プクーッと膨れたかと思ったら、ニパッと日葵は笑う。その表情の変化についていけず、一瞬油断した隙にファイルを押し付けられる。


「入っている用紙を、運動部の部員とマネージャーさんに配ってきてね。お願いします。資料とアンケートがあるから、ちゃんと両方渡してね」


「俺にお使いをしろってか。そんなのお前がやれよ」


「私は、この棚をベスポジに置くので、部屋の整理をします。ほら、さっさと行ってください」


 そのまま背中を押され部屋から追い出される。いや、別に力が無いので逆らうことは容易いが、助力を頼んだ相手はしっかりと働いているようなので断りづらい。


「めんどくせぇ。また、女子と顔を合わせるじゃん。人選間違えたかなぁ」


 と言っても、部活を回るだけなら2.30分あれば十分だ。適当に渡して、さっさと学生会室で眠るか。

 自分は本当に人を見る目が無い、というか人を見ることが苦手だ。特に女子を正面からキチンと見た記憶が無い。下手に見つめると、気があると相手が勘違いしてしまうからだ。

 

 西棟から近い体育館周辺の部活を回るか、今日はバスケが朝練でバドミントン部が放課後か。

 マネージャーはいない部活なので部員を呼ぶと、女子部員が飛んできた。


「これ、よろしく」


「えっ、合宿の部費? しかも資料まで、そんなことまで学生会でしてたんだ? 知らなかった。ちゃんと書いてだすね」


「えっ? あぁ、そうだな。じゃあこれで」


 別に去年から部費の割り振りは学生会の仕事だったはずだ。まぁ、知らない人もいるのだろう。

 次は格技場で柔道部か。男子しかいないから気が楽だな。

 部長にプリントを渡すと、驚いた表情をしていた。


「夏休みの部費ってこうなっていたのか。適当に決められていたのかと思ったよ」


「去年も学生会が決めていたはずだぞ」


「決めていたのは知っていたが、どうしてその結果になったかを知らなかったんだよ。学生会に選ばれた奴が適当に決めたのかと思って、いつも不満があがっていたからな。総会で結果だけ渡されて、はい終わりとかでよくわからなかったんだ。記入しとくよ。今年の学生会は凄いな」


「あぁ……頼む」


 他の部活でもお礼を言われてしまった。最後に残ったバスケ部への資料をパラパラとめくると、申請した部費の修正案が大まかに書かれた。不必要な部分や学内の施設を使うために予め引かれる費用の内訳などが簡潔に書かれており、昨年のデータとの違いや、申請への手順などが書かれている。部活側が意識していなかったコストを明示することで、現実的な金額が何となく見えてくるようになっている。


「マジでわかりやすいじゃん」


 今までは、学生会が一方的に決めていたことを、情報を共有しながら一度部活に戻すことで、部費の申請をより細かく記入させることを目的としていた。こうすることで、学生会の仕事は負担は大幅に減り、不透明な部費の減額についても部活側で理解できるようになる為、どちらにも得するようになっている。

 破綻した学生会室から必要な資料を集めて、やることを理解した上で、一日で夏休みに間に合うように資料と申請書の様式を作ったのか。

 あのチビっ子本当に何者なんだ? 学生会室へ戻ると、玲次と日葵の声が漏れている。


「貴様、棚の注文は許可したが、なんだこの安物は。もっと良い物を買えと言ったはずだ」


「ええー、一番コスパが良い物だよ。それに見てよこの棚。何と、引き出しの中に引き出しがあります」


「なんの機能だ! それより今日は業者が入るんだ。さっさと書類を片付けるぞ」


「その為の棚なのでっす。あと必要な書類はすでにデータにしてるから、他は捨てていいよ。新しい申請書をもう配ったし」


「なんだとっ! 何のために前任に集計をさせていたと思っている」


「あっ、業者さんに頼んで壁紙変えようよ」


「なんの話だっ!」


 あの堅物が良いようにもてあそばれている。無性に可笑しくなりながら、錬は学生会室の扉を開けた。不思議と女性と合う時の不快感を感じていないことには、この時は気づいていなかった。

 

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↓ハイファンタジーでも連載しています↓

奴隷に鍛えられる異世界生活

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