天然少女と特待生の女子?
「あぁ……もう、夏休み前までに…しないと……」
PC室横の準備倉庫にて、日葵と壁に耳を当てている男女がいるらしい。まるで不審者だ、俺達なわけだけど。
なにやらブツブツと言う声が聞こえるが、会話ではないので微かに聞こえるだけだ。
「イックン。これって盗み聞きではないですか?」
下から背伸びしながら、ヒソヒソ声をだす
「何言ってるんだ日葵、これは隣部屋の様子を把握しているだけだ」
決して、気になったのでデバガメ紛いなことをしているわけではないのだ。
「しかし、このPC室の鍵は私が持っているのです。どうやって入ったのかわからないです」
「真っ当な方法じゃないなら、怪しいな」
「何やら焦っている様子ですね。きっと、困っているのです。助けてあげましょう」
「あっ、バカ!」
小声で静止するが、するりと脇をすり抜けて部屋を出る。
そのままPC室に入りやがった。猫みたいに素早いのは結構だが、どう考えても不味い。
「だ、誰です貴女は!?」
「初めまして、卜部 日葵でっす。何かお困りですか?」
開いた扉から洩れる声にため息をつきながら、部屋に入ると、黒髪を逆立てるように怒る女子生徒がいた。顔を真っ赤にしており立ち上がりこちらを睨みつけている。高そうな髪留め、キチンと着こなした制服、体躯はすらりと細い。感だけど、いいとこのお嬢様っぽいな。俺や日葵とはちょっと違う雰囲気がある。可愛いというよりは綺麗という言葉が似あうタイプの美人だ。
見たことはないから、科が違うのかもな。ちなみにこの学校は特別進学かと普通科、商業科に分かれている。普通科商業科はわりと触れることも多いが、特別進学科はまぁ、頭の良い奴か金持ちが多い、それこそ学生会に入るようなエリートが多く、触れ合う機会が少ないのだ。
「日下部 樹だ。2年だけど、そっちは特進科の生徒か?」
「卜部 日葵っ!? どうしてあんたがここにいるのよ?」
うん、完全に無視されました。
「私? 学生会のお仕事をしようと思ったのですけど」
「グッ、学生会の仕事ですってっ。当てつけのつもりですか」
「当てつけ? どゆこと?」
「あぁ、何となくわかった。つまり、日葵が学生会の助っ人に呼ばれたのが我慢ならないと」
赤井にしても青柳にしても、狙っている女子は多い。昼休みのラウンジなんか目立つ場所でスカウトされたらそりゃあ嫉妬の一つや二つも沸くだろう。
「そなの? じゃあ、一緒にお仕事しようよ。大変なことは皆でやるんだよ」
日葵が出した手をパンッと払いのける。
「同情なんていらないわ」
そう言って女子は部屋から出て行った。結局あの子はこの部屋で何をしていたんだ?
「イタタ、イックン。フーってして」
「しない。腫れるなら氷もらってくるか」
「違うの、恋人のやつだよ。わかってないなーおこちゃまだなー」
「わかったわかった。まぁ、ああいう手合いは今後も出てくるぞ。気をつけろよ」
「はーい。じゃあ、お仕事しよっか。夏休み前までに終わらせるから頑張るよ」
「あと二週間か。うっし、何すればいい?」
「じゃあまずは、このUSBに夏休みの特別活動費の申請書類を入力して、それから――」
言われるままに、データを入力し続ける。こういう頭を使わない作業なら没頭できる質なのだ。
日葵は入力されたデータを集計したり、去年のデータを見て予算のアウトラインをざっくりと決めている。大まかに作り、人に任せられるまで簡略化する。去年クラス委員でよく見た方法だ。
最も、その見立てを立てるのが一番難しいのだが、日葵はかなり詰めた部分まで作業を整理することができる。こういうことができる人って頭の構造が根本から違う気がする。
気が付くと、昼休みの予鈴が鳴っていた。あっという間だったな。
「ありがとうイックン。あいかわらず入力が早くて助かるよ」
「タイピングゲームを極めたからな。印刷しとくか?」
「ううん、後で学生会室で印刷するから大丈夫。あっ、カギを返さなきゃ。イックン早く出ないとまた教室に遅れちゃうよ」
「おっと、そうか。わかった」
PCの電源を切って立ち上がろうとすると、机の間に何かが光っている。
これは……鍵?
「イックン、急いで急いで」
「……わかった」
どこの鍵かわからないが、とりあえずポケットに突っ込んでPC室を後にするのだった。
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