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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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秘策

 

「ミュージシャンとして雇ったんだよ」


 そういうことか。

 先輩たちが運んでいるのは、カフェの二階にあったカホンと、大小さまざまなギグバッグを複数。


「洋ちゃんも頼むね。ミュージシャンとして特別ボーナス出すから参加してね」

「でも、勝手に演奏したりして大丈夫なんですか?」

「許可は取ってあるよ。演目の合間なら大歓迎だってさ」


 笑顔のマサさんに、思わず笑ってしまう。ボクたちをミュージシャン扱いしてくれて嬉しいようなこそばゆいような。



 カフェ・トラジロウと書かれたレトロな立て看板を道から見えるように置けば、準備もほぼ終わり。思ったより本格的な小さなカフェが出来上がった。


「おおー、いい感じっすね。南の島のレトロカフェって感じで」

「そうだろう。出店と言えど、カフェは雰囲気が大事だからね。頑張ってみたよ」


 少し離れたところからマサさんと先輩たちが満足そうに頷いている。木のカウンターに看板。落ち着いた雰囲気でよもや初めての出店とは思えない趣がある。


「せっかくだし、君たち、食べてみて」


 マスターがお湯の中にソーセージを5つ投入した。


 カフェ・トラジロウの出店で取り扱うのは、淹れたてコーヒーとアイスコーヒーとマンゴーラッシー、そしてホットドッグ。

 色々と案は出たけど、凝ったデザートで出店してもボロが出るだけで宣伝にはならないだろうと結論が出て、作るのが簡単なホットドッグになった。


「おお、美味しい」

「だろー。パンもソーセージもこだわって仕入れたからね。大変だったんだよ。船に間に合わせて仕入れるの」


 小さくて柔らかいフランスパンにマサさんこだわりのソーセージとマスタード。シンプルだけど美味しい。アイスコーヒーに合ってる。


「うああぁあうううああん」

「寅二郎くんにも、あるからね。犬用のソーセージも仕入れておいたんだ」

「すみません」


 マスターにソーセージを貰った寅二郎は喜びのあまり、見せびらかすように全員の目の前をぐるりと一周すると、道行く人たちにまで自慢し始めた。早く食べればいいのに。


「あら、美味しそう」


 寅二郎に誘われるように、お客さんが来たかと思ったら、


「ばあちゃん」


 ばあちゃんだった。


「お一つどうですか?」

「それじゃあ、朝食にホットドッグとホットコーヒーを、いただこうかしら。ふふ、洋ちゃんたちが美味しそうに食べてるの見て食べたくなっちゃったわ」


 マスターがホットコーヒーを淹れている間に、ソーセージを温める。


「ばあちゃん、これから仕事?」

「今日は仕事はお休み。買い物ついでに寄ってみたの。洋ちゃんの働きっぷりが気になっちゃって」


 そんなに不安だったのかな。


「お嬢さん方の口に合うといいのですが」

「あら、ま、豊増さんは相変わらず口がうまいわねぇ。常連になっちゃいそうだわ」


 出来上がったホットドッグとコーヒーを渡すマスターに、ばあちゃんは楽しそうに笑う。マスター、やるなぁ。

 最初の客になってくれたのは、ばあちゃんか。順調にお客さん来てくれるといいんだけど。



 ステージで主宰者のおじさんが島フェスの始まりを告げる。挨拶が終わると、島一番の小笠原古謡の歌い手ウララさんがステージに上がる。島の人たちだけでなく観光客も集まりだす。

 歌が終わっても、こちらまではなかなか人は来てくれない。


「そろそろ、客寄せをお願いしようかな」


 マサさんが満面の笑みを先輩たちに向ける。


「お前らー、準備しろー」


 将さんがカホンを頭上に掲げる。いきなり木の箱を持ち上げた巨体の男に道行く人たちが、恐怖の表情を浮かべて逃げていく。

 伊与里先輩たちは気にする様子もなく、ギグバッグを開けている。中から出てきたのは先輩のアコギとボクのアコギにウクレレ、それから……


「……ウクレレはカフェの二階にあったものですよね?これは?」


 アコギは分かるけど、もう一つは見たことない。


「アコースティックベース!マサさんが持ってるっていうんで借りてきた」


 アコースティックベースか。どんな音がするんだろ?


「じゃあ、やるか」

「曲は?」

「そうだな。ハワイアンかボサノヴァあたりか?」


 先輩たちは軽く言ってのけるけど、どちらもまともに弾いたことない。どうしよう。


「あの、ボクはマスターの手伝いをしたいので、先輩たちだけで、とりあえずは」

「仕方ねえな。じゃあ、ボサノヴァ的なのやるか」


 ……助かった。


 先輩たちは簡単な打ち合わせをしただけで弾きだした。アコギをメインにしたボサノヴァ風の楽し気な曲。南の島のカフェに流れてそうな曲は、この場の雰囲気によくあっている。


 道行く人たちが通り過ぎていかずに足を止める。宣伝効果あるみたいだ。

 演奏がひと段落すると、まばらにだけど拍手が起こった。ひときわ大きく拍手してくれている集団に目をやると知り合いだった。


「おはよー、洋太」「おはよー」「おはよう」

「おはよー、ヒヨちゃん、ナナちゃん、モエちゃん」


 飛び跳ねるように幼馴染3人が駆け寄ってきた。元気だな。


「凪さんたちの演奏サイコー!思ってたのとは、ちょっと違うジャンルだったけど」

「先輩たちなら他のジャンルも弾けるよ」

「そうなのか?!じゃあ、じゃあ、リクエストしたら弾いてもらえる?」


 幼馴染たちの勢いにうっかり安請け合いしたものの、どうなんだろう?先輩たちって何でも弾けるイメージがあるけど……


「弾ける曲なら」


 伊与里先輩が営業用の笑顔を浮かべヒヨちゃんたちに声をかけた。


「え、えっとぉ、それじゃあ、………どうする?なに弾いてもらう?」

「え?どうしよう。流行りの曲でもいいのかな?」

「何がいいかなぁ。迷っちゃうよぉ」


 幼馴染たちが真剣に相談をしはじめた。気持ちはわかる。好きな曲を演奏してくれるって言われると迷うんだよね。



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