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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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スイーツ

 

「その…、すみません、すぐ出ていきます」

「はぁ?別に出ていかなくていいよ。なんか食ってけよ」


 伊与里先輩、怒ってはいなさそうだ。


「寅二郎もいっしょならテラス席のほうがいいよな。ほら、こっち」


 ガジュマルの木の下にあるテーブル席に案内される。近くのテラス席には水着のお姉さんがたくさんいて落ち着かない。


「メニューはこれな」


 渡されたメニューは、やたらキラキラしていて、イルカやウミガメ、ハトやサンゴなどの形に盛り付けられた可愛い料理ばかりが並んでいた。

 どうしよう。ボクたち完全に場違いだ。


「お前ら、バイトはどうしたんだよ」


 伊与里先輩が当然の疑問を口にする。


「千春ちゃんに連れ出されて、午後のバイトはなくなったんです」

「千春ちゃん?」

「あれ?千春さんは?」


 なぜかテーブルにはボクたち3人だけ。ここに連れてきた千春ちゃんがいつの間にかいなくなっている。


「私はこっちー。うら若き乙女に日差しは天敵だからぁ。カウンターにいるねー。私の奢りだから、なんでも頼んでいいよー」


 店のカウンター席に突っ伏している千春ちゃんが、手をひらひら振っている。完全に酔っ払いの行動だ。


「連れだったのか」

「看護師の仲田千春ちゃん。怪我してばあちゃんが代わることになった看護師が、あの千春ちゃんです」


 伊与里先輩が思い出したように軽くうなずくと、ボクたちのほうを向いて口の端を上げた。


「おら、さっさと選べよ」


 伊与里先輩がぞんざいに聞いてきた。接客態度悪い。


「昼食べてきたばかりだからなぁ。飲み物だけでいいや。アイスコーヒー1つな」

「オレは食べてないから、明太子ペペロンチーノとアイスコーヒー」

「つまんねーなー。もっと面白い注文しろよ」

「無茶言うなよ」

「遠岳は?」

「ええっと、おすすめはなんですか?」

「そうだな。人気あるのは、スムージーとドイツ風パンケーキかな」


 どっちも、やたら可愛い。


「チキンのトマトソースパスタとアイスティーで」


 この場所で可愛い料理を食べる度胸はない。


「えーっとぉ、…ショウグンがウミガメ泳ぐスムージーとお眠テディベアのパンケーキで、巳希が星踊るペペロンチーノとイルカが遊ぶスムージー、遠岳が南国太陽トマトソースパスタとカラスバト親子のスムージーパフェだな」

「全く違うだろーがよ!」


 将さんの憤りも意に介さず、先輩は厨房に行ってしまう。女の子の話声しかしない店で、男3人で待ってる時間というのは、厳しいものがあるよなぁ。

 寅二郎はちゃっかり隣のテーブルで水着のお姉さんたちに可愛がられてるし……

 千春ちゃんは何のつもりなんだ。



「お待たせしました」


 カラフルでキラキラしたジュースと料理がテーブルに置かれる。花の形のミニトマトやらで飾られたトマトソースパスタに、ピンクや黄色のシャーベットが層になっていてソフトクリームやワッフルまで……。白玉でできたカラスバトが、こちらを見つめてる。メニューの写真より可愛くなってる……。……食べづらい。

 満面の笑顔で伊与里先輩がスマホを構えている。


「よーし、お前ら、スイーツと一緒に写真撮ってやるよ」

「余計なお世話だ!あっち行け!」


 先輩を追い払う将さんと宮さんの前には、不似合いなほどかわいい子亀とイルカがグラスの縁から顔をのぞかせている。


「伊与里さ~ん、私たちの写真も撮ってくださ~い」


 店の中から日に焼けた女の子が飛び出してきた。

 女の子と目が合うと、大きな黒い目が驚愕したように見開かれた。


「あああーーーーーっ!!!洋太ぁぁ!!」

「……ヒヨちゃん」


 幼馴染だった。


「ああ!ほんとだ!洋ちゃん」

「マジだー。洋ちゃんだー」


 ヒヨちゃんの後ろから、幼馴染のモエちゃん、ナナちゃんの二人が、さらに現れた。


「帰ってきてるなら、顔だせよなー!」

「洋ちゃん、元気だったー?」

「顔、青白くないか?ちゃんと、食べてる?」

「ほんとだ。不健康な生活してたんじゃないか?」


 親戚のおばちゃんのようなこと言いだしてる。


「知り合いか?」


 ペペロンチーノに添えられている緑の葉っぱを食べながら宮さんが疑問の視線を向けてきた。

 星の形した何かと金魚みたいなのが絡まってるペペロンチーノって初めて見たけど、食べづらそうだな。


「幼馴染なんです」

「はじめまして!日吉(ひよし)(あおい)です!」

萌木(もえぎ)花乃(はなの)です」

岡島七花(ななか)で~す」


 ポーズをとって自己紹介をはじめた幼馴染たちの目からハートマークが飛んでる気がする。


「あの、洋太ちゃんとはどういった御関係で?」


 ナナちゃんが宮さんと将さんを交互に見ながら、頬を赤くしている。


「同じバンドの」

「バンド?!……バンドって、音楽の?」

「洋太!バンドやってるの?!」


 宮さんの言葉に掴みかかるように3人が迫ってくる。

 ……怖い。


「あの、他のお客さんの迷惑になるから」


 3人を押しとどめると、周囲の視線に気づいたのか、急にしおらしくなった。


「え?あ、ごめんなさい」

「うるさくして、すみません」


 頭を下げながら店の中に戻っていく。


「洋太、あとで話つけよう、な」


 去り際に一言残して。



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