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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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 船が輝くような青い海上を進んでいく。何度経験しても、湾に入っていく時は心が浮き立つ。

 汽笛が鳴る。小笠原諸島父島に無事到着!

 船が接岸すると、澄んだ音色が聴こえてきた。


「この音は、スティールパンか」

「だな。生で聴くといいもんだな」


 先輩たちが歓迎の音楽に気づいて耳を傾けている。音を聴いただけで何の楽器か分かるのか。先輩たちの音楽知識って広いよなぁ。

 タラップを降りると、島民がずらりと並んで出迎えてくれる。家族や宿泊客の迎えだけでなく、歓迎のために集まってくれている人たちもいるのでにぎやかだ。


「はあぁぁあ~、やっと、着いたああぁぁ」

「ああぁぁ、なんでだ?地面が揺れてる」

「ユ~ラユラする~ぅぅ」

(おか)()いですね。しばらくしたら治まると……思います」


 船から地面に降り立った先輩たちが、慌てふためいている。長い事、船で揺られてたから、陸酔いになってしまったんだろうな。



「おかえり、洋ちゃん、寅二郎ちゃん」

「おかえりー!洋太くん!」


 見知った顔が数人、手を振って出迎えてくれた。船を降りると、誰か必ず知っている島の人に会うので、こそばゆい気持ちになる。


「ただいま。夏の間、お世話になります。ばあちゃん、見かけませんでしたか?」


 いつもなら真っ先に出迎えてくれるのに姿が見えない。


「それが……」


 困り顔になった島の人たちが、言いにくそうに顔を見合わせている。何かあったんだろうか。


「あー!いた、いた、洋太くん、迎えに来たよ」

「え?」

「話は後でね。さ、車に乗って。友達も」


 駆け寄ってきた男性が、船客待合所の隣にある駐車場に行くよう急かしてきた。駐車場に停めてあった大きなバンに乗ると、すぐに車は走り出した。



 船が到着したばかりなので、町中に人の姿が多い。小さな港町を離れ湾岸をぐるりと進んでいく。車が少ないので、あっという間だ。

 ずっと、気になっていたことを運転席の男性に尋ねてみる。


「あの~、どなたですか?」


 ボクのこと知っているみたいだけど、知り合いじゃないよなぁ。服装に高級感があって身なりのいい30代か40代の男性。ラフな服装が多い島の住人とは雰囲気が違う。島の人じゃない気がする。


「ちょっと待て!この人、遠岳の知り合いじゃねえのか?」


 伊与里先輩が驚いたように身を乗り出してきた。


「知らない人です」


 何度見ても、記憶を探っても、やっぱり、見覚えない。


「そういうことは、車に乗る前に言えよ!」

「乗ってから言うなよ!怖いだろうが!」

「何で乗っちゃうんだよぉ」


 先輩たちが阿鼻叫喚といった風になった。


「あはははは、ごめん、ごめん。自己紹介してなかった。僕は豊増(とよます)(しげる)の息子で、豊増(とよます)(まさ)()だよ。父に頼まれて迎えに来たんだ」


 豊増?


「ああ!豊増さんの!」

「知り合いか?」

「はい、豊増さんは知り合いです」


 先輩たちが安堵の息を吐く。

 豊増さんは気さくなおじいさんで、ばあちゃんとも仲がよく、島にいる間は何かと世話になっている人だ。そういえば、内地に息子が一人いるって言ってたな。


「悪かったね。急いでたもんだから、つい、説明するのを後回しにしてしまって」

「急いでたって、……まさか、ばあちゃんに何か……」


 豊増さんの息子さんの言葉に不安を覚える。ばあちゃんが迎えに来なかったのは……


「いや、違うよ。この後、この車を貸す予定があってね。ガイドの田中さんが親子三代で来てくれてるお客さんを島内案内したいっていうから」


 そういうことか。島に車は少ないから観光客が多い時には貸し借りすることが多いんだよね。


「照子さんなら、…あ、ほら、右手の入江を見てごらんよ。沈没船が見えるから」


 長いトンネルを抜けると沈没船が見えるポイントに差し掛かる。島に初めて来た人を乗せて、この道を通る時には、島民は必ず沈没船を紹介する。豊増さんの息子さんも同じなんだな。


「え?どれだ?船なんてどこにも」

「沈没してるわけだし、陸からは見えないんじゃねえか」

「茶色いのがそうだよ」

「茶色?もしかして、あれか?……あー、木が邪魔で見えねえ」


 先輩たちが沈没船を見つける前に通り過ぎてしまったようだ。初見だと車から見つけるのは難易度高いんだよね。



 木々の生い茂る場所を通り過ぎると、また海が見えてくる。少し山のほうに上がっていくと、赤茶色の家が見えてくる。木と畑に囲まれた場所で車が止まる。

 海岸沿いの道から少しだけ上った高台にあるばあちゃんちは、観光客が来ることのない落ち着いた場所にある。

 車から降りると、潮の香りと木の香りが混じったばあちゃんちの匂いが肺まで届いてきた。


「ここが遠岳のばあちゃんの家か。モダンな家だな」

「おお~、海が見渡せる。きれいな色の海だな。写真で見るような色だ」

「歩いて海岸まで行ける距離だし、最高だな!」


 荷物を持ったままグルグルと家の周囲を歩いている先輩たちは楽しそうだ。ばあちゃんちを気に入って貰えたみたいだ。

 騒ぐ寅二郎をキャリーからだしてやると、一直線に伊与里先輩のところに駆けていく。なんかちょっと寂しいな。先輩と寅二郎が戯れているうちに、玄関のカギを開けて荷物を運びこむか。


「おかえり。洋ちゃん」


 車からギターを運び出していたら、背後から声が聞こえた。


「磯村のおばちゃん。ただいま」


 ばあちゃんちの隣に住んでいる磯村のおばちゃんだ。ボクを見かけて家から出てきてくれたのか。


「照ちゃんのことは、もう聞いた?」

「え?やっぱり、何かあったんですか?」


 そういえば、ばあちゃんのこと何も聞いていない。


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