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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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圏外

 

「そうだ!忘れてた。酔い止めあるんですけど、先輩たちも飲みますか?」


 姉ちゃんに持たされてたの忘れてた。今からでも間に合うはず。


「あ~、俺はいいわ」

「オレもいらねー。乗り物酔いはしたことねーし」

「オレは貰っとくかな」


 宮さんだけが受け取った。大丈夫かな?先輩たち、船はあまり乗ったことないようなこと言ってたのに……



 船内を見て回り、やることもなくなってきたので、寅二郎を連れ出し先輩たちのいるデッキに連れていく。


「よう!寅二」

「おううああぅぅあああん」


 寅二郎に声をかけた宮さんを素通りして、なぜかものすごい勢いで伊与里先輩に走りよる寅二郎。ベンチに座っている先輩めがけて、勢いよく飛び蹴りをかました。

 ……寅二郎、ターミナルで揶揄われたの覚えてたんだな……


「あれ?先輩たち、どうかしたんですか?」


 寅二郎に蹴られ顔を舐められても俯いたまま動かない伊与里先輩と、同じような姿勢で微動だにしない将さんの不可解な姿に戸惑う。


「キモチワルイ」

「ハキソウ」

「船酔いだってさ」


 伊与里先輩と将さんがベンチに突っ伏す。船酔い……


「期待を裏切らないよな。ほんと」


 宮さんが腹を抱えて笑いだす。楽しんでるな。

 デッキに置かれたベンチに寝転がっている二人に、遅いかもしれないけど酔い止めの薬と水を渡す。手がかかる人たちだ。



 動けない二人をデッキに置き去りにするわけにもいかず、近くのベンチに座る。寅二郎は4人の間を行ったり来たり登ったりして楽しそうに過ごしている。


「あ、そういえば、レイくんから今朝早く連絡が来てたんですけど……」

「レイから?なんて?」


 唯一、元気な宮さんの隣に座りスマホを取り出す。


「それが、よく分からなくて……。日本語のメッセージなんですけど、翻訳機能を使ったみたいで……」

「どれ?見せてみろよ」


 スマホを宮さんに渡す。


 〈私の母はあなたが前に歌ったビデオを投稿しました

 何が欲しかったのかわからないが、母は本当に何かを考えている〉


「……分かるような分からないような。前に歌ったビデオって春のライブの時の?」

「それなら、すでにネット上にあると思うんですけど……」

「レイに聞いてみれば?」

「すでに圏外で。東京湾から出るとつながらなくなるんです。小笠原に着くまで連絡は無理なんです」

「え?……そうか、海の上だものな」


 連絡ができるようになるのは20時間以上先になる。


「なーんか、不穏な感じのするメッセージだけど、どうしようもないわけか」

「気づいたときに連絡しておけばよかったんですけど、朝だったのでバタバタしているうちに返信するの忘れてしまって、何もないといいんですけど」


 レイくんとは何度かやり取りしてるけど、今回みたいに意味不明なのははじめてで気になるんだよなぁ。



「そういやぁ、バンドのアカウントに熱烈なメッセージがきてたんだよな。遠岳宛てに」


 ぐったりしたままの伊与里先輩が少し顔をもたげ、ごそごそとどこからかスマホを出してきた。


「気になって保存しといたんだけど、……どこだったかな。………あ~っと、これだ」


 先輩が画面を向けてきたので近づいて覗き込むが眩しくて見えづらい。なんとか文字を追うと……


 〈あの歌のことはこれ以上調べるな。 誰にも言うな。 あなたは全て失うことになる。〉


「なんですか?これ……」

「脅迫文だな」


 伊与里先輩の簡潔な答えに言葉が詰まる。

 ………脅迫文って。


「あの歌っていうのは、あの謎の歌のことだろ?なんでオレたちが調べていること知ってんだ?」


 脅迫文を目にした宮さんの言葉に、さらに恐怖が募る。


「そうなんだよなぁ。調べていることを知ってるのは……」

「レイくんとジャクリーンさんと姉ちゃんとボクと先輩だけなはずです」


 ボクの正体は秘密なので言いふらすことは誰もしていないだろうから、他にはいないはず。


「とすると、レイかジャクリーン?」

「どちらも脅迫文を送ってくるようなタイプには思えませんが……」


 直接言うタイプな気がする。特にジャクリーンさんは。


「捨てアカから送られてきたとは言え、見ず知らずではなさそうなんだよな。同じアカウントからもう一つ送られてきてるメッセージがあって……。それが……」


 そう言って伊与里先輩がもう一つのメッセージを画面に映し出す。


 〈小笠原諸島には行くな。 秘密を暴くならあなたの未来はない。〉


「小笠原?!」

「そう、小笠原ってはっきり書いてあるんだよ」


 どういうことだろう。


「小笠原のことはレイくんには言ってないですよ。もちろんジャクリーンさんにも」


 知っているはずない情報を、どうして……


「まあ、あの二人の財力なら、オレたちが小笠原に行くことを突き止めるのは容易だろうけどな。……なんか違和感がある」

「金持ちなら、もう少し狡猾に動きそうなもんだよな」


 ジャクリーンさんみたいな大人が、証拠が残るような恐喝メッセージは送らない気がする。レイくんだって、あの歌の秘密を独り占めしたかったら、翻訳なんて引き受けなかっただろうし。


「そうなると、他にこんな具体的な脅しをできるのは……」


 警戒するように声を落とした宮さんが言葉を途切らせる。具体的な脅しをすることができる人物……、考えられるのは……


「……先輩たちくらい?」

「「なんでだよ!!」」


 二人同時に憤った顔を向けてきた。


「お前、オレたちをそんな目で見てたのか」

「いえ、そういうわけでは。消去法でやむを得ず」

「オレたちも消去しろよ!」


 いや、そうなんだけど、他に全く思い当たらない。


「脅迫メッセージにURLも記載されてるけど、これは?」

「ああ、動画だったよ。ライブ配信のアーカイブで」

「動画?あ~、ここじゃ見れないのか」

「途中までなら保存してあるから見るか?」

「勿体ぶらずに見せろよ」


 何の動画だろ?レイくんのメッセージって、もしかしてこの動画のことなのかな?


 伊与里先輩が画面を何度か触ると動画が流れだした。画面には思いがけない顔が二つ並んでいた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 楽しい離島編かと思ったらまた謎が出てきてワクワクしてきた。
[一言] ホラーじみてきましたね…
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