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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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出港

 

 小笠原へ出立の日。

 寅二郎を疲れさせるため、朝のうちに散歩に連れ出したり、母さんが船で食べるようにとパンを買ってきてボストンバッグに詰めようとして来たりで、時間に余裕もなくなり、慌ただしく家を出て港に向かった。


「父さん、ありがとう」

「気を付けてな。なにかあったら、すぐに連絡するんだぞ。熱中症にならないよう、水分はこまめに取るんだぞ」

「大丈夫だよ。それじゃ、行ってきます」


 父さんも、少し過保護だよなぁ。

 父さんに港まで車で送ってもらったおかげで、寅二郎は元気だ。元気すぎて暴れだしたのでキャリーリュックに押し込み背負う。ギターとボストンバッグを抱えてターミナルに入る。重い……。

 ざっと見渡すが、ターミナルは広い上に、荷物を持った旅行客があちらこちらに散らばっていて、先輩たちの姿を見つけるのは難しそうだ。

 先輩たちはまだ来てないのかな?連絡してみるか。


「遠岳ー、こっち、こっち」


 聞き覚えのある声がして振り向くと、入り口に先輩たちがいた。今、着いたところのようだ。いつもと違い、これからリゾートに行きますという出で立ちの先輩たちは浮かれて見える。


「久しぶりだな。寅二郎。しばらくよろしくなー」

「ぅあん!」


 宮さんがリュックから顔だけ出している寅二郎に挨拶すると、嬉しかったらしくリュックの中でバタバタ動きだした。


「あれ?伊与里先輩のギグバッグ厚くないですか?」


 いつも持ち歩いているベース用ギグバッグと違う。なんだ、あの厚みは。


「ああ、アコギもいっしょに持ってきたからな」

「アコギ?……あ!作曲用ですね!期待してます!」


 伊与里先輩の顔がなぜか歪む。一旦停止したかと思ったら、先輩がボクの背後に回った。


「見た目に寄らず、人懐っこいな。こいつ」

「うああんああぁあううああぁん」

「先輩!何してるんですか?!ちょっ、寅二郎、暴れないで」


 伊与里先輩が寅二郎をかまっているらしく、キャリーリュックの中で大暴れしだした。


「行き詰ってるのか、新曲のこと口に出すと、凪の奴、奇行に走るようになってるからな。気をつけろよ」

「全く、困ったもんだ」

「困ってないで、伊与里先輩をどうにかしてください!」


 のんびり見守っている宮さんと将さんに助けを求めるが、やれやれとか言いながら動こうとしない。


「はははは、やんちゃだな」

「先輩!」


 寅二郎が暴れるので踏ん張らないと倒れそうだし、先輩の魔の手から逃げられない。ひどいよ。



 手続きをして間もなく、乗船開始放送が流れだした。

 乗船するため桟橋に出ると、目の前におがさわら丸が現れた。



 おがさわら丸

 小笠原諸島には、今の所、この船でしか行けない。この船が唯一の交通手段だ。



「オレ、こういうデカい船に乗るの初めてなんだよなー」

「俺もないなー。遠足で遊覧船に乗ったことがあるくらいか」

「船で移動ってないもんな。長距離なら飛行機か新幹線に乗るし」


 先輩たちが物珍し気に船を見上げている。船より格安航空を使った方が安かったりするから、移動で大型客船に乗ることは先ずないよな。



 制服を着た船員さんにチケットを見せて船の中へ。


「おお!結構きれいだな!」

「ああ、船の中って、もっと殺風景だと思ってた。違うんだな」


 先輩たちはカラフルな船内が気に入ったようだ。

 寅二郎をペットルームに預け、割り当てられた船室に向かう。


「2デッキってことは、一番、底だな」


 ボクたちが乗るのは、一番料金が安い2等和室。大部屋で雑魚寝するところなので、いっしょの部屋になった人たちによって快適さが全く違ってくるというギャンブル要素がある。


 割り当てられた部屋に行くとすでに人がいた。落ち着いた感じの男女混合社会人グループといった感じだ。


「お?同室かな?よろしく」

「はい、よろしくお願いします」


 よかった。感じのよさそうな人たちだ。


「時間はたっぷりあるし、船内でも見てくるか」


 伊与里先輩が部屋を出ようとしたところで、喧騒が聞こえてきた。ドカドカと大きな足音を立て団体客がなだれ込んでくる。


「おお、ここだ、ここ」

「げえぇ、マジか~。ここで寝るのかよ」

「やべえ、狭くね?寝返りを打ったら、隣りの奴にぶつかるだろ」

「だから寝台にしようって言っただろぉ」


 向かいの部屋は賑やかな大学生グループか。




「レストランはまだやってないのか」

「値段は高くないんだな」

「船内だと高くなるものだと思ってた」


 うろうろと船内を歩いていると、銅鑼の音が鳴りだした。

 もうすぐ出港かな?


「出港か?展望デッキに行こうぜ」


 将さんがウキウキと階段を昇っていく。

 外につながる扉を開くとむっとした空気が押し寄せてきた。デッキには人があふれている。みんな考えることは同じらしい。

 アナウンスが流れ、いよいよ出港だ。汽笛が鳴り響く。

 おがさわら丸が離岸していくと、桟橋やターミナルの屋上にいる人たちが手を振ってくれる。


「なんか青い着ぐるみが手ぇ振ってるな」

「サメか?」

「怪獣だろ」


 知名度ないよな。小笠原のゆるキャラ。


「この暑いのに、必死に回ったり手を振ってるな」

「なんか気の毒になってきた。手ぇ振り返してやろうぜ」


 全員で手を振り返すと、青い顔のゆるキャラがジャンプしだした。大丈夫だろうか?中の人。ああ、でも、手を振り返すと、旅に出るんだなって気分になる。


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