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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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スペイン語

 

「これってアレだよな?」

「アレ?」

「遠岳のライブ映像から、歌詞を推測して書き起こしたやつ」

「ああ、確かスペイン語に聴こえるってSNSで話題になって……。これが何だって言うんだ?」


 姉ちゃんが先輩たちの言葉を通訳すると、レイくんがスマホを見ながら話しだす。

 何を言ってるかさっぱり分からないけど、なぜだろう?聞き覚えがあるような……


「あ~、もしかして、ここに書かれてるスペイン語を読み上げたのか?」


 伊与里先輩がレイくんのスマホを睨みつけ、納得したように頷いた。

 このスペイン語が、あの謎の歌の歌詞なのか……。確かにこんな感じだったような、違うような……


「スペイン語まで、出来るんだ?すごいね」

 " My father is Spanish. "

「お父さんがスペイン人だからだそうよ」


 そういえば、アラリコさんはスペイン人だった。父の国の言葉だとしても凄いよな。英語、フランス語、スペイン語。自分は日本語がやっとだ。

 レイくんと目が合う。何か話しかけてきた。


「この歌詞であっているか、洋ちゃんに確認してほしいって」


 姉ちゃんが通訳してくれる。


「確認?…んん~……」


 …………あってるような、あってないような……? どうだろうなぁ。


「レイもジャクリーンも、はっきり言わないくせに、遠岳があの動画の少年だと確信してるように話を進めるよな。どうしてなんだ?」


 伊与里先輩が呆れた目で、レイくんを見つめている。

 言われてみればそうだ。ジャクリーンさんといい。ボクに確認することもなく、当然のことのように、あの歌に絡めてくる。まるで、ボクがあの懸賞金動画の少年だと確信してるかのように。何の躊躇もなく。偽者だって登場してるのに……


「洋ちゃんが歌ってる映像を見て、すぐに分かったって」


 ボクが歌ってる映像……。ライブの時のか。

 あの映像だけで分かる?


「日本人でスペイン語で歌ってるの、洋ちゃんだけだったし、歌い方が似てたって」


 通訳してくれてる姉ちゃんの顔が困惑していく。姉ちゃんにライブ映像のことまで説明してなかった……。あとで説明はしないとだけど、身内に見られるのは、ちょっとなぁ……


「スペイン語は空耳。あの少年の歌声に似てるというなら、他にもいると思うけど?」


 伊与里先輩がニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。偽者のことを言ってるんだろうな。ボクより似てると言えば似てる。


「似てるのは原曲のほうに……だって」


 姉ちゃんの言葉に驚く。


「原曲に似てる?レイくんも、原曲を聴いたことがあるの?」

 " Non. "


 静かに否定の言葉を口にするレイくんは、少し寂しそうだ。


「それはつまり、親父さん、アラリコ・マルチェナの歌い方に似てるってことか?あまり似てないと思うけどな……。遠岳とアラリコとでは」


 伊与里先輩が感情の見えない声で否定する。


「そうだよなぁ。アラリコの歌声は雄々しいって感じで、遠岳はなんというか………。まあ違うよな」

「遠岳が、アラリコの歌を歌った時も、似てるとは思わなかったしなぁ」


 将さんと宮さんも否定的だ。ボクも似ているとは思えない。あの大地まで震わすようなアラリコさんの重く響き渡る歌声を、自分はどうやっても出すことは出来そうもない。


「違う。あの歌を作ったのは、ボクのオジさん……」


 姉ちゃんが困惑顔で通訳した言葉に、訳が分からなくなる。


「オジさん?アラリコじゃないのか?」


 先輩たちが顔を見合わせる。親子で言ってることが違う。どういうことだ?いきなり新たにオジさんという未知の人物を、ここにきて登場させられても困る。

 レイくんがじっとボクの眼を見てくる。


 " Bernardino・Marchena. My uncle's name. "

「ベル…ナル…ディ…ノ……?」


 知らない名前。外国では有名人なのだろうか?

 ボクの顔を凝視していたレイくんが、なぜかしょんぼりしていく。


「聞いたことないな。有名なのか?」


 宮さんも知らないみたいだ。


「……有名ではない。ミュージシャンとして世に出る仕事はしてなかった。でも、音楽を……愛してた……って」


 オジさんは趣味で音楽を作ってたってことなのかな?


「オジさんが曲を作ったって証明できるものはあるのか?ジャクリーンといい、一方的に押し付けてくるだけで、信用できるものは一向に提示してこないんだよな」


 キッシュを食べながら伊与里先輩が呆れたようにレイくんに視線を向ける。

 伊与里先輩の目が厳しくなるのも仕方ない。あのCDの持ち主が、アラリコさんやスペイン人のオジさんというのは無理がある。


「ない。オジさんは、何も残さなかったから」

「残さなかったって、オジさん、もしかして……」


 将さんが少し戸惑ったように問いかける。


「父と同じ、もういない……」


 アラリコさんと同じ……


「あの歌はオジさんが最後に遺した曲。歌詞をどうしても知りたかった……」


 ……そうだったのか。それで、あんな必死に……

 でもオジさんが作った曲ではないと思うけど……


「よく分かんねえな。オジが作ったと言うなら、なんでジャクリーンはアラリコが作ったなんて書いたメモを寄越したんだ?どうにも、親子そろって胡散臭え」


 伊与里先輩の言葉は辛辣だ。それも、仕方ないかもしれない。親子でちぐはぐなこと言ってるし。何をしたいのかも分からない。混乱させられているだけなので、扱いに困るというか……


 " Jacqueline ……selfish person. "


 ジャクリーンさんは自分勝手と言ってるのか。意味があまり分からないな。ジャクリーンさんは嘘つきだと言うなら意味も分かるけど。自分勝手か……



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― 新着の感想 ―
[気になる点] スペイン語の歌い方をどこで習ったのか そもそもCDはどこで入手したのか 謎は深まるばかり
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