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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第一章

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謎のCD

 

「……まあ、遠岳の家なら、そんなこともありそうだな」

「そうだな。ありそうだな」

「遠岳の家族だしな」


 先輩たちが意味不明な納得をしはじめる。


「……そのCDは、どんなだった?レーベル面になんか書いてあったりしなかったのか?」

「真っ白で何も書いてないCDでした」

「ということは、販売されたものじゃあないわけだ。デモ用か保存用として作成したってことだよな。そんな私的なCDなら持ち主がすぐに見つかりそうなもんだけどな……」


 そうだよなぁ。伊与里先輩に言われて気づいたけど、自分の作った曲の入ったCDがなくなって捜さない人はいないよな。持ち主が現れそうなものなのに、どうして現れないんだろう?


「音楽をやってる身内や知り合いはいないのか?」

「そういえば、おじさんがギタリストなんだっけか?おじさんが作ったって可能性は?」


 叔父さんの情報に誤解があるような……


「叔父さんはギターを持っていても弾けないくらいの一般人なので、作曲なんて無理ですよ。それに叔父さんは母方で、CDのあった家で暮らしてるばあちゃんは父方なので、叔父さんは一度もばあちゃんちには行ったことないと思います。身内にも知り合いにも音楽関係者はいないです」


 いたら、家族の誰かが教えてくれるだろう。隠す必要もないわけだし。


「そうなると、アラリコが作曲者というのもあり得そうにないな。音楽業界の関係者が身内にいれば、アラリコのデモCDを手に入れることもあったかもしれないけどな」

「アラリコかその関係者が遠岳のばあちゃんちを訪ねて、デモCDを忘れるという状況もないだろうしな」

「……そうですね。どう考えてもないですね」


 世界的有名人がばあちゃんちを訪ねることはないだろう。ばあちゃんちは不便な場所にあるから、外国人が偶然立ち寄るようなことはないし。

 でも、どうして、そんなすぐバレる嘘をジャクリーンさんはついたんだ?

 あのCDは何なんだろう?これだけ、世間で騒がれて知られるようになっても、分かってきたことが何もない。謎が深まるだけなんて……


「話はここまでにしとくか。アカフジの最終審査に向けて練習しねえとな」

「そうだな。ライブ審査までは、それほど時間ないからな」


 伸びをした先輩たちが部屋に戻りはじめる。


「ライブ審査はいつやるんですか?」

「夏休みに入って、すぐだな」

「……あまり時間ないですね」


 受かるとは思ってなかったから、審査ライブのことなんて、これっぽっちも意識してなかった。マズいよ。ボクだけ練習不足だ。


「アカフジの最終審査ライブは盛り上がるって話だし、楽しみだな」

「盛り上がるっていうか、燃え上がるだな」


 宮さんの言葉を将さんが訂正する。


「どう違うんですか?」

「それは会場に行ってみりゃあ分かるよ」


 ……将さんが、にんまりと笑うが、あまりいい感じの笑顔じゃない。なんだろう?不安になってきた。練習、がんばろう。


 ✼


 昼休みに部室に行くと、杉崎部長とヨッシー副部長が笑顔で迎え入れてくれた。


「見て、見てー、ヤマアジサイ綺麗でしょ」


 ヨッシー副部長が部屋の片隅に飾られている生け花を指し示すように手を広げる。


「これ、アジサイなんですか。知ってるアジサイと違いますけど」


 真ん中部分がもじゃもじゃしていて花が咲いてない。線香花火みたいな花だ。


「アジサイって、もとはこんな姿なんだよ。品種改良でゴージャスになったけど」

「よく見かけるこんもりしたアジサイもいいけど、落ち着いた感じのヤマアジサイもいいよね~」

「そうですね。いいですね~」


 どっちのアジサイもきれいだよな。華やかなアジサイは、見た目のわりに派手なイメージがない。梅雨の時期に咲くからだろうか。


「紫陽花寺に行ってみたいけど、遠いんだよね~」


 杉崎部長が残念そうにつぶやく。

 紫陽花寺か。そういえば、伊与里先輩のところの寺でもアジサイが咲いていたな。紫陽花寺というほどたくさんではないけど。


「志穂ちゃん、夏休みになったら、どっか行こうか」

「うん、今年は少し遠出したいね」


 部長たちって仲いいよなぁ。夏休みに友達と遠出か……。したことないなぁ。夏休みは毎年ばあちゃんちに行ってたし。


「遠岳くんは夏休みはどうするの?バンド?バイト?時間があるなら、一緒に出掛けたいね」


 杉崎部長がボクも誘ってくれる。嬉しいけど、バンドのほうの予定が決まらないと……


「まだ、予定は……、あ!でも、ライブに出ます」

「え?ライブやるの?」

「ほんと?!絶対、行くね」


 身を乗り出して喜んでくれる部長たちの誤解を解かなければ。


「いえ、ライブといっても、フェスに出るための審査ライブで」

「フェス?」

「審査ライブ?」


 首を傾げてしまった部長たちに、簡単にアカフジのオーディションのことを説明する。サマフェスに出るためのオーディションがあるなんて、フェスに興味なければ知ることのない情報だものな。ボクが知ったのも、先輩たちが応募すると言い出したからだし。


「そういうオーディションがあるんだね」

「そのライブ審査に合格すれば、サマフェスにでられるんだよね?すごいね。サマフェス行ったことないから楽しみ!」

「優勝か準優勝したらで、ボクたちはたぶん無理です」


 フェスに行く気になってるヨッシー副部長に、現実を分かってもらう。一次審査を通ったのさえ珍しい事らしいのに、優勝してアカフジ出演は、さすがに無理だよ。


「う~ん、そんなことないと思うけど……」

「そのライブ審査は観に行けないんだよね?遠岳くんが歌うところ観たかったんだけどな」


 残念そうに肩を落とす二人に申し訳ない気持ちになる。でも、アカフジ出演はどうにもならない。


「審査ライブなら誰でも観ることできますけど……」

「ほんと!じゃあ、応援しに行くね!」

「ライブ行くの初めてだから、楽しみだなぁ」


 部長たち、最終審査ライブを観に来てくれるみたいだ。しかも、はじめてのライブ……

 ……下手なところ見せられないよなぁ。練習しないと。



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