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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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隠し事

 

「……ジャクリーンが関係してると、思う」


 レイくんはジャクリーンさんを疑ってるのか。


「ん~、まだ、そうと決まったわけじゃあ……」


 先輩たちが困ったように顔を見合わせている。否定しきれないので、なんともいいようがない。


「どういうこと?」


 ちょっと怒ってる感じのヒヨちゃんが、ボクに詰め寄ってくる。事情が分からずイラついているんだろうけど……、話すわけには……


「彼女たちには話してもいいんじゃねえか」


 伊与里先輩がおかしそうに笑っているけど……


「でも、巻き込むわけには……」


 店に忍び込んでギターを燃やすようなことができる人物だ。危険な相手である可能性が出てきたわけだし……


「はあ?なに言ってんだ?洋太と私たちは家族みたいなもんだろ!家族に隠し事すんなよな!」

「天然な洋ちゃんよりは役に立つよ。話してよ」

「洋ちゃんの面倒を見るのは慣れてるもんね」


 ヒヨちゃん、ナナちゃん、モエちゃんが怖い顔で距離を詰めてくる。心配性でお節介な幼馴染たちは、事情を話したら絶対大人しくしていてくれない。かといって、明かさなければ大人しくしていてくれるかというと……


「他の人には言わないでほしいんだけど……」

「言いふらしたりしないって」


 幼馴染たちに全部話した。懸賞金のことも、脅迫状のことも。

 ……シロさんのことも…



 話を聞き終えた幼馴染たちは頷き合うと、ボクや先輩たちも見て真面目な顔になった。


「そういうことなら、任せろ」

「任せるって、なにを?」


 ヒヨちゃんが胸を叩くが、やれることなんてもうない気が……


「犯人捜し!」

「でも、目撃者はいなかったって」

「なぁに、あきらめてんの。まだ、容疑者のアリバイを聞いて回るっていう手があるでしょ」

「ああ!そういう手もあるね。よく思いつくね。すごいよ、ナナちゃん」

「ミステリードラマ好きなんだぁ」


 幼馴染たちならほとんどの島の住人と知り合いだから、あらゆる情報を集めてこれるだろう。そういう意味では、島で幼馴染たちほど頼りになる協力者はいないよなぁ。




 海岸沿いの道路にパトカーが止まる。

 島の警官を何人も引き連れてやってきたマスターが、店内に入っていく。警官の一人が事情を聞きにボクたちのところにやってきたり、なんか物々しいな。

 しばらくしてマスターが店からでてきた。


「盗まれたものはどうやらなさそうだよ。もともと高価なものは置いてなかったのもあるけど」

「よかった。そうなると、被害は伊与里のギターが燃やされたことだけか……」


 将さんが焼け焦げたギターの残骸に目をやる。警察の一人が黒焦げのギターの写真を撮っている。


「空き巣じゃなさそうだね。悪ふざけで忍び込んでギターを持ち出した可能性が高いかなぁ」

「悪ふざけですか」


 写真を撮っていた警官が、ボクたちに軽く説明してくれた。

 物色した形跡がなく、被害はギターだけだそうで、泥棒の可能性は低いらしい。


「……そういえば、洋太くんを困らせるような嫌がらせのメールが来てたと聞いたけど、関係あるのかな?」

「嫌がらせ?それは本当かい?」


 マスターの言葉に警察官の眼光が鋭くなる。いつものんびりしている小笠原の警察官とはいえ、捜査となると変わるんだな。


「いえ、あれは大丈夫だと思います」


 マスターが心配そうにボクを見てきたけど、咄嗟に否定してしまった。

 警察に言ってしまうと、もし、犯人がレイくんの身内だった場合、困ることになりそうだし……


 一通り調べ終えた警察が帰っていく。幼馴染たちもマスターの車に乗って帰っていった。

 とりあえず、やれることはなさそうなので、ギターを持って、ばあちゃんちに戻ることになった。項垂れているレイくんも強引に連れて行く。

 夕飯をいっしょに食べた後、ばあちゃんは夜勤があるらしく、冷やしたパパイヤにアイスクリームを乗せたデザートを用意してくれて出かけて行った。


 みんなでパパイヤを食べながら、ギターを燃やした犯人を推測していく。


「ギター以外被害がないとなると、嫌がらせと考えるべきか」

「それが妥当だろうな。張り紙を見つけた時に、もっと用心しとけばよかったな。マスターに迷惑かけちまった」


 苦々しげな表情で先輩たちが、犯人の目星をつけていく。

 先輩たちの言う通り、ギターを盗んで燃やしたのは、ボクに脅迫メッセージを送ってきた人物と考えるのが自然だよな。ここまでやるなんて思わなかった。

 レイくんは元気がないままだ。母親を疑うというのは、精神的にきついよなぁ。


「レイ、他にもなにかオレたちに隠してるだろ?」


 寅二郎にアイスを獲られないよう防御しながら伊与里先輩が、レイくんを見ずに尋ねる。レイくんの肩が揺れる。


「まあ、無理に聞き出す気はねえけどな。……はぁ、どうするかな。ギターがないと作曲もできねえしなぁ。大事なギターだったんだけどな……」


 伊与里先輩が寅二郎を抱き寄せ虎毛に顔をうずめる。傷ついているように見えなくもない。


「……話す。凪たちは信用できる」


 責任を感じているのだろう。レイくんの声は掠れている。

 決意した青い目がボクたちを捉える。


「おー、そうか、話す気になったかー」


 先輩、軽いよな。無理に聞き出さないと言ったけど、先輩の言い方は、もはや、脅し……



「ボクは、……ずっと、学校に行ってない」


 話し出したレイくんの言葉は思ってもいなかった話題で、少し戸惑ってしまう。


「そうだよね。レイくん、ここ数か月ずっと日本にいるから」


 はじめて会った時より前から日本にいたみたいだし、数か月は日本にいることになる。学校に通うのは無理だよね。


「違う。その前から」

「……前から?」


 不登校だったってことかな?


「もしかして、人間恐怖症のせいか?」


 案じるように宮さんが視線を落とすと、レイくんが小さくうなずいた。


「恐怖症だったよね。忘れてた」


 レイくん、倒れたことがあることを除けば、至って普通なんで忘れていた。

 もっと気づかったりした方がいいのかな。でも、レイくん、特に体調悪そうでもないし、先輩たちより穏やかだしなぁ。


「ベルナルディノも同じ。……人が苦手だった。いつも独り。父のアラリコ以外とはあまり付き合わなかった」


 レイくんの叔父さんも?叔父さんがシロさんだと言うなら、やっぱり変だ。


「シロさんはそんなことなかったけど……。どちらかというと、人好きと言うか」


 シロさんはいつも笑顔で子供のボクの面倒を見てくれていた。人が苦手とは正反対で……。レイくんの叔父さんとシロさんは、やはり別人な気が……


「驚いた。長いこと行方知れずだったベルナルディノが戻って来て会った。ジャクリーンから聞いていた話とは全く違った」


 人嫌いというのはジャクリーンさんからの情報か。

 シロさんが叔父さんだった場合、ボクと同じ年のレイくんが、シロさんと会うことができたのは、小笠原にいない期間。つまり小学生の間はほとんど会ってなかったってことになるのか……


「ベルナルディノは、戻ってからボクに勉強を教えてくれた。いっしょにいてくれた」


 ……そうか、レイくんが叔父のベルナルディノさんを特別に慕っているのは、そういう経緯が……


「ベルナルディノは色々なこと話してくれたけど、自分自身のことはあまり話してくれなかった。行方知れずだった間、どうしていたのか聞いても、ボクと同じ年の子と友達になったとだけ」

「それが遠岳か」


 全員の眼がボクに集まる。……そうなのか。ボクなのか……


「ボクは知りたかった。ベルナルディノが変わったわけを」


 変わったのかなぁ?はじめて会った時からシロさんはシロさんだったような……


「ベルナルディノが姿を消したのは、ボクの父、アラリコが船の事故で亡くなって、しばらくしてから」

「ああ、確か客船が座礁した時に、子供を助けて亡くなったんだよな。日本でも当時大きく報じられたって聞いた。すごい人だよな。レイの親父さん」


 将さんが告げるアラリコさんの最後は物語の中のヒーローのようだ。ボクも先輩たちも幼すぎて当時のニュースの記憶はない。でも、レイくんにとっては、消えることのない強烈な記憶だろう。


「……アラリコは今でもスペインの英雄と呼ばれている」


 そう話すレイくんの顔は、複雑そうだ。そうだよな。英雄的な行動だけど、息子のレイくんにとっては……


「ジャクリーンは言っていた。ベルナルディノが姿を消したのは、アラリコがいなくなったことに耐えられなくなったからだって。でも、本当にそうなのか……」

「疑うような話でもねえと思うけど……」


 レイくんが何を疑っているのか理解できず先輩たちが困ったような顔になっている。


「……ずっと立ち入り禁止だったアラリコの私室に、ジャクリーンがいない間に入ったことがある。そこで一枚の紙を見つけた」


 レイくんの声がかすれてきた。しゃべり通しだものなぁ。レイくんに麦茶を渡すと、一口二口とゆっくり飲んでいく。


「そこにはアラリコが作った曲が、殴り描きされていた」


 手書きの楽譜ということか。


「おう、そりゃあ、貴重だな」

「手書きの楽譜かぁ。アラリコの曲が素朴な懐かしさのあるのは、手書きだからっていうのもありそうだよなぁ。オレも一度、手書きで曲作ってみるかな」


 伊与里先輩が作曲家らしい関心の仕方をしている。


「一目で分かった。父アラリコが描いたものじゃないと」

「「「「え?!」」」」


 思いがけない言葉に一同固まってしまう。

 ……筆跡が違うということ?でも、それじゃあ、作曲したのは……


「ベルナルディノが戻って来て、いっしょに過ごすようになって気づいた」


 ためらうように何度か口を開けては閉じてを繰り返したレイくんがボクに顔を向けた。


「あの手書きの楽譜は、ベルナルディノが描いたんだと」



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