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ザッシュゴッタ  作者: みの狸
第二章

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旭山と天文台

 

 少し先で車道のガードレールが途切れている。途切れた先には森が広がっている。

 ここが旭山への登山口……だったはず。道らしきものが見当たらず鬱蒼とした森しか見えないけど、多分そうだろう。


「こっちの森を行くと旭山で、車道をこのまま進んでいくと天文台がありますけど、どっちに行きますか?」


 どちらに先に行くか尋ねると、伊与里先輩がなぜか疑わし気にボクを見てきた。


「これが道なのか?森しかねえぞ。薄暗い森の中にオレたちを引きずり込もうとしてるだけじゃないだろうな」

「なんでボクがそんなことする必要があるんですか。登山道なので、これでも整備されてる方なんです」


 伊与里先輩はボクを何だと思ってるんだろう?


「よく見たら、下りの階段がある。面白そうだし、こっちの道、行こうぜ」


 将さんが軽い足取りで森の中に入っていく。寅二郎が後に続く。


「楽しそう」


 レイくんも薄暗い山道へと足を踏み入れる。宮さんも躊躇なく階段を降りていく。


「仕方ねえな。おら、遠岳、先に行け」

「何を疑ってるんですか?」

「念のためだよ」


 何が念のためなんだろう……


「お前らー、置いてくぞー!」


 すでに姿が見えなくなった将さんが、森の奥から呼んでいる。

 慌てて追いかけると、呆れたような顔をした3人と寅二郎が階段終わりで待っていてくれた。


 暗い山道を一列になって歩いて行く。


「涼しいな」


 森の中は日差しが遮られていることもあって車道より涼しいが暗い。木漏れ日を頼りに土の道を登っていく。

 寅二郎が道の真ん中で横たわっている。土の感触が気持ちいいんだろうな。


「寅二郎、置いてっちゃうぞ」


 声をかけると、これ見よがしに仰向けになり尻尾をふりだした。かまってもらおうとしてるな。寅二郎を持ち上げようとすると、がばりと起き上がり先頭まで走って行ってしまった……。何がしたいんだろう?




 森を抜けると島を一望できる場所に到着した。


「ここが旭山の頂上か」

「前に登った見晴らし台より、島がよく見える」


 先輩たちが景色を楽しむようにその場でぐるりと回りだした。前よりも島の中心に近くて高い場所にあるから、島全体が見渡せる。絶景ポイントの一つだ。そうは言っても、近くの小さな無人島以外は海しかないけど。

 こうしてみると、ほんと小さな島なんだよなぁ。


「レイ、あのアプリ立ち上げて見ろ」


 将さんがレイくんの背を叩いて催促する。

 レイくんが白いスマホを取り出し、白いウミガメのアイコンを押すと、画面に父島の地図が映し出された。


「なんか奇妙な印がでてるな」

「前はなかった」

「旭山の場所ですね。印があるのは」

「おお!なんだ、なんだ?」


 レイくんが印に触れると、曲が流れ出した。

 陽気なリズム。よく知ってる曲だ。


「……この曲は」

「『兎のダンス』だな」


 子供の時によく聴いた童謡だけど、何か意味があるのだろうか……



 旭山の頂上で繰り返し流れる『兎のダンス』。意味があるようには思えないけど。


「この曲に秘密が隠されてるってことだよな?なんだ?見当もつかねえな」

「まあ、どういうアプリか分かったし、曲を集めて行けば、そのうち分かるだろ」


 伊与里先輩が眉を寄せる横で、宮さんがのんびりとペットボトルのスポーツドリンクを飲んでいる。


「どういうアプリなんですか?」


 宮さんはこのアプリがどういうものか分かったみたいだけど、自分にはいまいち理解できない。


「歌詞に出てくる場所に行くと、音楽が流れる仕組みなんだろう。GPSだかで位置情報を取得して」


 そういうことか。ゲームっぽいな。


「つまり、島中巡って、曲集めしろってことか」

「だろうな。曲じゃないこともあるかもしれねえけど」

「なんだよ。そんな面白そうなことだったのか」


 伊与里先輩と将さんの目が輝きだす。こういうの好きそうだものな。先輩たち。


「曲集め」


 レイくんも分かりやすいほどの笑顔になってるから、好きなんだろうな。こういったゲームっぽいの。


 シロさんもこういうの好きだったな。画面の中のゲームじゃなく、実際に色々と動き回るような遊びが。子供のボクに合わせて遊んでくれてるのかと思ってたけど、途中からシロさんのほうが楽しんでる感じだった。



「どうかしたか?」

「いえ、なんでもないです」

「んじゃあ、次の場所に向かうか」


 ボーっとしてたら伊与里先輩に不審がられてしまった。

 先輩たちが来た道を戻っていく。レイくんがなぜか心配そうにボクを見ていた。




 車道をまた進んでいく。木々しか見えない道をひたすら歩いて行くと、木の葉に半分隠れた国立天文台と書かれた看板が見えてきた。視線を少し上げると、青空を背に白い電波望遠鏡が木々の上から姿を現していた。


「ここだな」


 山の中にポツンと存在している天文台に人気はない。バスが出てないので観光客もあまり来ることはなく、観光地のわりに静かだ。


「電波望遠鏡の形って、なんかワクワクするよな」

「ロマンの塊だからな」


 先輩たちだけでなく、レイくんも熱心に電波望遠鏡を見上げている。

 確かにロマンを感じる姿だ。最初に見た時、この電波望遠鏡で遠くの星が見えるんだと思ったのに、そうじゃないと知ってがっかりしたけど……


「写真撮ろうぜ」

「その前にやることあるだろ」


 スマホを構える将さんを制して、伊与里先輩がレイくんに声をかける。

 レイくんが頷くと、スマホを取り出しアプリを開いた。

 強風で木々がざわめいていて流れてくる曲をかき消してしまいそうだ。近づいて音楽に耳を傾ける。


「この曲……、なんでしたっけ?」


 知っている曲だけど、題名が思い出せない。


「『この道』だな」


 宮さんが題名を教えてくれた。

『この道』か。小学校の授業参観で、そう言えば歌ったな。ばあちゃんが仕事で来られなくて、シロさんが代わりに来てくれて。照れ臭かった覚えがある。

 大げさなくらいシロさんがボクの歌を褒めてくれて……


「これで、2曲か。曲を全部集めると、どうなるんだろうな?」


 将さんの疑問に誰も答えることはできない。

 レイくんの言っていた秘密が明かされるのだろうか?シロさんの秘密?秘密ってなんだろうな。



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