92.和風クラン
次の日、学校が休みなので朝食を終えてすぐに日用品や食品を買い出しに行く。
買い出しを終えて家に帰ると、春花も起きてリビングで朝食を食べていた。
買ったものを片付け、春花に声をかける。
「おはよう。眠そうだな」
「おはよーう。お兄ちゃん……」
「なんだか眠そうだな」
「うーん。今日が休みだったから昨日遅くまでゲームやってた」
そう言えばクランにはいつ入る事になるのだろうか?
気になった俺は春花に聞いてみる事にした。
「そういえば、俺はいつ春花達のクランに入る事になるんだ?」
「ん? いつでもいいよ。今はラビンスにいるから、ゲーム内で落ち合えばすぐだから都合がいい時に連絡を頂戴」
「わかった。今日ラビンスに戻るから、そのとき連絡するよ」
「はーい」
俺は春花との話し合いを終え、自室でログインした。
王都図書館で、空間魔法の教本と小説の写本を受け取る。
クエスト報酬を受け取った俺は、ラビンスに戻るため馬車に乗った。
先ほどもらった空間魔法の教本を読みながら馬車がラビンスに到着するのを待つ。
到着したところで、一度ログアウトして休憩をはさんでから再びログイン。
馬車の発停所から総合ギルドに向かって歩いていく。
道すがら、ハルにラビンスに着いたことを連絡する。
これでハルの都合が付けば、合流できるな。
俺はハルからの連絡があるまで、読書するために総合ギルドの転移の扉に向かう。
総合ギルドに入り、転移の扉に向かう。
「ちょっとそこのテイマーの人! 待ってくれないか!」
俺が転移の扉でマイルームに飛ぼうとしたところで声が聞こえてくる。
後ろを振り返ると、こちらに小走りで向かってくる人たちがいた。
なんというか、着物や忍者のような服装の人たちの集団だ。
俺の近くに他のテイマーらしきプレイヤーもいたので、俺を呼んだわけじゃなさそうだ。
俺は再び転移の扉に向き直り、マイルームに入ろうとする。
すると、また集団の先頭にいるプレイヤーが声を上げる。
「ち、ちょっと待ってくれ! そこの黒い服を着て、本を持っているプレイヤーの人!」
そこまで特徴が合致しているテイマーはさすがに俺しかいないだろう。
俺はマイルームに行くのをやめて転移の扉から離れる。
先ほどの一団も俺が止まったことにほっとしたようで、ゆっくりこちらに近づいてきた。
「あの。俺に何の用でしょうか? おそらくですが、初対面ですよね?」
「ああ、そうだね。ちょっと君に聞きたいことがあってね。ずっと探していたんだ」
一団のリーダーと思しきプレイヤーが代表して話しかけてきた。
「俺を探していたんですか?」
「そうだ。っと、その前にこちらの自己紹介からだね。僕はクラン『武士道』のクランマスターであるノブナガだ。よろしく」
「俺はテイマーのウイングです。今はクランには入っていませんが、これから知り合いの紹介でクランに入るところです」
俺がそういうと、ノブナガさんは少し残念そうな顔をした。
「一足遅かったか。実は私たちのクランは和風の物が好きな人たちで作ったクランなんだが、君を勧誘しようと思ったんだ」
「俺をですか?それはなぜです?」
俺が聞くと、ノブナガさんは俺の後ろにいる従魔たちに目を向ける。
「それは君の従魔を見たからだよ。以前から君の従魔は掲示板でそこそこ話題に上がっていたんだよ。君がテイムしているモンスターは珍しい種類が多かったからね。ネズミに鶴にリビングアーマーも他のテイマーが避ける斧タイプだったしね」
確かに俺の従魔は、他のテイマーがテイムしている従魔とはズレている自覚はあった。
ただ、掲示板で話題に上がっているとは思っていなかった。
それに話には出なかったが、インテリジェンスブックであるグリモも珍しいモンスターだろう。
「我々もそれだけなら君を勧誘しようとは思わなかった。しかし先々週ある目撃情報が入って来たんだ!」
そう言ってノブナガさんはエラゼムの方に近づいていく。
「君が日本の甲冑を模したモンスターを連れているとね。さすがに、この話を聞いてしまったら和風ギルドとして話を聞きたいと思ってしまってね。あわよくばクランに誘うつもりだったんだ」
ノブナガさんはエラゼムを指さし、そういってきた。
確かに俺の従魔のうち、ヌエとエラゼムの見た目は和風と言っていいだろう。
意図せず、和風っぽいモンスターが揃っていたわけだ。
「クランへの勧誘は無理強いはしないよ。話してわかったけど、別に意図してこのモンスターたちを集めたわけでは無いようだしね。すでに先約があるのなら仕方ない」
「そうですね。今回は縁がなかったという事で」
ノブナガさんはクランへの勧誘はあきらめたようで、次の話題を切り出した。
「クランへの勧誘はあきらめるとして、他にも話があるんだ」
「何ですか?」
「できればでいいんだが、君の従魔を手に入れた経緯を教えてくれないだろうか? もちろん、ただでとは言わない。見返りを払うよ。そこにいる鶴と日本甲冑のモンスターだけでも駄目だろうか?」
そこまで聞いて、どうするか考える。
情報を教えるのは別にかまわないのだが、見返りに何を求めるかだ。
別に見返りが無くてもいいんだが、せっかくくれるというならもらっておきたい。
俺は一つ思いついたことがあったので、ノブナガさんに質問する。
「あなたたちのクランって刀鍛冶の情報は持っていますか?」
「ああ。集めてはいるが、いまだスキルを覚えられたメンバーがいないんだ。最初に入手した人と伝手を作る事はできたが、入ってもらう事は出来なかったからね」
そこまで聞いた俺はノブナガさんに提案をする。
「それなら、刀の入手ができるようになったら俺にも融通してくれませんか? もちろん刀の代金は払います」
「それくらいなら構わない。それなら連絡を取るためにフレンド登録をしよう」
俺はノブナガさんとフレンド登録をした後、ヌエとエラゼムについて教える。
ノブナガさんたちは、ヌエがアップデートの時に補償で手に入れた卵から孵ったと聞いて少し落胆していた。
しかし、エラゼムの情報を聞いて早速、クラン所属のテイマーにリビングアーマーの確保を指示していた。
ノブナガさんたちと別れた後、マイルームに戻り読書を始める。
しばらくしてハルから連絡が来る。
内容を確認すると、ラビンスの総合ギルドで待つとの事だった。
俺は本を片付けてマイルームを出るのだった。




