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90.クエストの裏事情

 文字を言語スキルでひも解いてみるが、どういう意味が書いてあるかはわからなかった。

 そもそも文字を列挙しただけかもしれない。

 どちらにしろ、俺の言語スキルが低すぎて断片的にしか読めない。


 俺が熱心に読んでいることに満足したのか、お爺さんが声をかけてきた。


「どうやら、気に入ってくれたようじゃの。なかなか興味深いだろう」

「そうですね。なかなか、面白いことが書かれていますね」

「そうだろう、そうだろう。儂が考古学を志すキッカケになった手記じゃからな」


 かなり、貴重なようだが、1つ気になることがあった。

 これほど貴重な書物だが、王都図書館に手記のような本は無かった。

 つまり、この手記は未報告の書物という可能性が高い。


「1つ聞きたいことができたのですが、この手記を司書ギルドに報告はしなかったのですか?」

「報告はしとらん。この手記は志を同じくする者にのみ、読ませたいと思うとる。今の司書ギルドには共通語以外の言語を否定する者もおる。そういった者に、この手記を読んでもらいたくないのじゃ」


 お爺さんの気持ちもわからなくはない。

 興味が無い者がこの手記を読んでもハイエルフの文献に興味は持っても、ハイエルフの言語については否定するかもしれない。


 おそらく言語スキルを持たないものが、この手記に書いてあるハイエルフの文字を見た場合、ただのラクガキに見えてしまうだろう。

 俺がシークレットクエストで見た時も、最初はただの汚れが付いているのかと思った。


 しかしだ。お爺さんは重要な視点を忘れてしまっている。

 俺はお爺さんにその事を伝える事にした。


「お爺さん。あなたは大事なことを忘れてしまっていると思います」

「ん? 何をじゃ?」

「この手記を書いた考古学者、レービスは最後にメッセージを残しています。知的好奇心で調べるのも良し、この文字を解読し種族のさらなる成長を目指すも良しと」

「うむ。そうじゃな」

「ならば、この手記は沢山の人の目にさらされることをレービスは望んでいたのではないでしょうか? そうすることで、古に存在した文字、言語の事について探求する人が少しでも増えることを望んでいたのではないでしょうか?」


 俺がそういうとお爺さんは雷に打たれたかのような顔になった。


「そうじゃ……、そうじゃの! 確かにそうじゃ。儂はなんてことをしていたんじゃ。この自分の勝手な考えで、この手記を書いた考古学者レービスは確かに未来の同志に託すと言っておった。儂がこの手記を独占してしまってはこのレービスの思いを無下にしてしまうの」


 そう言ったお爺さんは俺から手記をかっさらい、階段の方へ向かう。

 いきなりの行動に俺はその場で唖然としていると、お爺さんが振り返り。


「なんじゃ。小僧も早くこい!」

「あっ。は、はい!」


 俺はハーメルたちを連れてお爺さんを追いかける。

 お爺さんも急いでいるとはいえ、そこまで足は速くないようですぐに追いつくことができた。

 俺達はそのまま階段を上がり、司書ギルドのある方へ向かう。


 司書ギルドに着いたお爺さんはカウンターに向かう。

 ギルドの職員も驚いた顔をしてお爺さんを見る。


「いかがなされましたか?」

「この手記を写本させてやろうと思ってのう。こうして持参してきたというわけだ。さんざん提出を促してきたのはそちらだろう?」


 俺はお爺さんの発言に疑問がわく。

 提出を促してきたとはどういう事だろうか?

 俺が首を傾げていると、ギルド職員の方が話出した。


「本当ですか! 今まで何人もの職員があなたの家に出向き、この手記の写本をさせてもらえないかお願いしても一向に首を縦に振らなかったのに」

「今までの奴らは、この手記をただの読み物の1つだという態度だったからのう。そんな奴らの願いなんぞ聞くつもりはないわい」

「では、なぜ今になって提出をしてくださったのですか?」

「それはそこの小僧に気づかされたからじゃよ」


 急に話の矛先が俺に向いたので、少し驚く。

 俺が驚いている間もギルド職員とお爺さんの話は進んでいく。


「この小僧はしっかり考古学について理解を示し、否定することなく共通語以外の言語について考察しているようじゃった。そういうやつの言葉は心に響くもんじゃ。今まで来たやつのようにただ仕事で本を出せと言うような奴とは違う」


 その言葉にギルド職員は真摯に頭を下げた。


「それは当ギルドの職員が失礼をしてしまったようで、申し訳ありません」

「いや、儂も頭が固くなっていたようじゃ、この手記は同じ志を持つ者のみが読むべきだと思うておった。しかし、そもそも、見てもらわなければ同志の目に留まる事が無いという事を。そして、この手記が新たな同志を生む可能性を、儂自身が潰しておった。それをこの小僧が気づかせてくれたのじゃ」


 ギルド職員はチラリと俺を見た後、お爺さんに向き直り話し出す。


「それでは、誠心誠意を込めて写本させていただきます」

「うむ。くれぐれも丁寧に扱うのじゃぞ。写本がしっかり終われば返してもらうからの」

「心得ております」


 ギルド職員があの手記をお爺さんから受け取り、奥の部屋に入っていった。

 写本が終わるのを待ちながら、お爺さんにあのクエストの経緯を聞いた。

 すると、最初は考古学者のお爺さんが未登録の本を持っていると、司書ギルドが情報を入手。

 ギルド職員が写本させてもらえないかと交渉をするが、お爺さんが突っぱねる。


 何度かの交渉の末、お爺さんを手伝い満足させられれば写本を許可することになったらしい。

 クエストの依頼者が司書ギルドになっていたのはこの為らしい。

 その後、職員が何度か手伝いに行ったが、お爺さんが敵意をむき出しにしていた影響で満足するどころか、手伝いにきた職員と口論することも多く、徐々に職員が来る頻度も、減っていった。


 そこに俺が来て、お爺さんの考えを変える事に成功したといった感じらしい。

 お爺さんから事の経緯を聞き終わったところで、ギルド職員が戻ってきた。


「この度は、ご協力ありがとうございました。そして、当ギルドの職員の失礼をもう一度、おわびさせてください」

「よいよい。もう気にしておらん」


 そう言いながらお爺さんは手記を受け取り踵を返す。


「小僧もこれでクエスト完了じゃろう。まぁ、たまには遊びに来るといい。その時は歓迎しよう」


 お爺さんはそう言ってきた道を戻っていった。

 司書ギルドに残された俺はギルド職員に声をかけられた。


「この度は司書ギルドの問題に対応していただきありがとうございました」

「いえ、クエストを選んだのは俺なので気にしないでください」

「クエストの完了は確認が取れていますので、これから報酬の話に移りたいと思います」


 そういえば今回のクエスト報酬は要相談と書いてあった。

 はてさて、どんな報酬になるのだろうか。


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