表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/268

89.考古学者の話

 次の日、ログインした俺は再び、お爺さんの家の前にいた。

 すでに、匂いの元は除去しているので安心して小屋の中に入ることができる。

 小屋に入り、地下への階段を降りる。

 降りた先では相変わらず、お爺さんが資料を広げて熱心に調べものをしていた。


「すいません。3日前に来たウイングというものですが」

「うん?おー、おー。あんときの小僧か。何日も顔を見せんかったからもう来ないかと思っとたわ」

「申し訳ないんですが、自分の都合的にこのペースでしか来ることができません」

「ほー、そうか。なら、今日も食べ物を用意してもらいたい」

「わかりました」


 ボウルに果物とパンを入れてお爺さんのそばに置こうとする。

 すると、急にお爺さんが怒鳴りだす。


「ちょっと待たんか!資料のそばにそんなもの置くな!その辺に置いておけ!」


 一応資料の隙間辺りに置こうとしたのだが、お気に召さなかったようだ。

 とりあえず、資料の無い机に置いておくことにした。


「もう、上の部屋の掃除は終わっているのですが、他に何かすることはありますか?」

「うーん。今は用が無いから、必要になったら声をかけるわい」


 そう言われて放置されてしまったので、資料に慎重に近づいて内容を見てみる。

 先ほど怒られたところを見るに、一見乱雑に置かれている資料も、本人の中ではある程度こだわりがあるようなので触らないようにしておく。


 少し離れた場所で資料の内容を見てみると、どうやらエルフ関係の資料が多いようだ。

 他にもドワーフや巨人の資料もあった。・・・この種族にはある共通点がある。

 確か、今あげた種族は比較的長寿種という事だ。

 以前、ファーストの総合ギルドで読んだ資料に書いてあった。

 俺が遠目に資料を眺めていると、お爺さんが声をかけてきた。


「なんじゃ? 考古学に興味でもあるのか?」

「いえ、考古学というよりはお爺さんが掲げているテーマに興味があります」


 すると、お爺さんは少し上機嫌になって話し出した。


「ほーほー。つまり共通語が広まる以前に、他の言語があったという儂の学説について聞きたいんじゃな!」

「聞きたいと言いますか。その資料を見てみたいと言いますか……」

「おーおー。そうか、そうか。そんなに聞きたいかー。仕方ないのう」


 その後、お爺さんは先ほどの無関心が嘘のように話し出した。

 そもそも創造神インフが共通語を授けたと言っているが、それは種族間の交流が目的と言っている。

 つまり、共通語が広まる前はそれぞれの種族ごとに話をするための言語があったはずだと。


 人族や獣人等の種族では代替わりが激しく、言語の記録が消失されてしまっている。

 なので、それなりの長寿な種族の資料を集めれば、糸口を掴めるのではないかと考えたそうだ。

 しかし、ここで一つ問題が発生した。共通語を授けられた影響からか、他の言語が認識できないらしい。

 

 そう言った話をしていた間は良かったのだが、他にも司書ギルドの愚痴や周りからの不理解の愚痴などを聞かされた。

 例えば、司書ギルドの職員でさえ、共通語以外の言語への認識が無かったり、貴重な資料かもしれないものをあっさり破棄しようとしたりなどなど。

 それはもう、いろいろな話をしていた。


 ようやく終わったころには、ログイン時間をかなり消費していた。

 話が終わったお爺さんと一緒にお茶を飲んでのどを潤す。

 今回の話で多少、心を許してくれたようで、資料を触って見ていいと言われた。


 早速とばかりに、テーブルに置かれている資料に目を通す。

 先ほど見ていた資料と違い、具体的な歴史に関する資料のようだ。

 種族の起源や他の種族との交流する前の記録について書かれていた。


 なかなか面白いことが書いてある。しかし、仮定の話が多い。

 どうやら、種族の起源についてはそれぞれの種族が治める国が秘匿しているらしく、お爺さんも手に入れる事ができない資料が多いらしい。

 いくつか資料を見てみるが、面白い内容だけど、言語スキルは反応しない。

 一応、言語スキルについての情報は得られたので、良しとしておくか。

 俺が少し落胆したのがわかったのか、お爺さんはとっておきがあると言って奥の本棚に向かった。


 しばらくすると、1冊の古ぼけた本を持って、お爺さんが戻ってきた。


「これは儂が考古学を志すことになったキッカケの資料じゃ」

「読んでもいいんですか?」

「うむ。よいぞ。確かに、ここにある資料は種族ごとの歴史資料じゃ。しかし、これを読めば儂がそういった資料を集めた理由がわかるはずじゃ」


 俺はお爺さんに促されて、渡された本を読んでみる事にした。

 内容としてはそこまで長いものではない。

 どうやら、ある考古学者の手記のようなものらしい。


 どうやら、これを書いた人物は人族で、エルフの国でのことが書かれている。

 この考古学者は皇族に気に入られて、皇室の資料室に入る事を許されたようだ。

 そして次のページを捲った時、唐突に言語スキルが反応した。


『 私はエルフの皇族に許可を取り、いくつかの記録をこの手記に残すことにした。

 この最後のぺージには皇族の中でも選ばれたものしか読むことのできない文字を書き記してみる。


 この文字は、エルフの祖たる種族、ハイエルフが使用していたとされる文字だ。

 これがつまり、共通語以外の言語が存在した紛れもない証拠だ。

 ハイエルフが使っていたこの文字以外にも他の種族の祖となる種族が使用していた言語が残っているかもしれない。


これを読んで、少しでも興味を持ってくれた人がいたらぜひ調べてほしいと思う。

 知的好奇心を刺激してくれることだろう。

 それにハイエルフの文献を読んで、1つ興味深い事が書いてあった。


 古の種族は今の種族より能力的には高かったようだ。

 どうやら、特別な訓練などで種族的な進化を促す術があったらしい。

 もしその方法がわかったら、人々の助けになるかもしれない。

 私は年齢的にもこの辺りが限界のようだ。後は、未来の同じ志を持つ同志に託すことにする。

 考古学者  レービス』


 この話の後に、件のハイエルフの言語と思しき文字が書いてあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ