88.考古学者の家を掃除
俺はエラゼムと協力して、お爺さんの上に倒れている本棚をどかす。
散らばった本を片付けて、お爺さんの様子を見る。
どうやら意識を失っているだけのように見えるが、一応応急手当を使用してみる事にした。
応急手当を施してからしばらくすると、どこからかお腹のなる音が聞こえてくる。
どうやら先ほど助け出したお爺さんから聞こえてくるようだ。
俺は必要になるかと思って果物を取り出す。
果物の匂いに反応したのか、お爺さんがモゾモゾ動き出した。
「うーむ……」
「大丈夫ですか?どこか痛めたところなどあるなら、専門家を呼びましょうか?」
「いや、大丈夫じゃ。それよりもお主が持っているその果物をくれ」
俺は先ほど取り出した果物をお爺さんに渡す。
「本棚が倒れてきたようですが、老朽化でもしていたんですか」
「いや、そんな大したことではない。しばらくの間、ご飯も食べずに研究に没頭していたら、立ち眩みで本棚を引き倒してしまってのう。建付けが悪かったのか、儂が体重をかけるとそのまま倒れてしもうた」
俺が聞いた音はお爺さんが本棚を引き倒した音だったようだ。
お爺さんが俺の渡した果物を食べている間に、自己紹介とここに来た目的を話す事にした。
「俺はウイングと言います。こいつは従魔のエラゼムです。ここには司書ギルドのクエストを受注したので来ました」
「おー。んー? 司書ギルドの依頼?そんなものしたかのー?」
「あれ?ここに住んでいる考古学者の方ですよね?司書ギルドにお手伝いを依頼した」
俺がお爺さんに質問すると、お爺さんは思い出したような顔になる。
「おー、おー。あの依頼か……。いかにも儂が考古学者のエドウィーじゃ」
「エドウィーさんですか……。それでクエストについてお聞きしたいと思うのですが」
「うむ。とりあえず小屋の掃除を頼みたい」
おっと、思っていた手伝いと違うな。
考古学者の手伝いと言っていたから資料の整理や調査がメインかと思っていたが、どうやら生活面でのサポートらしい。
「わかりました。ただ小屋の中にあるものは、ほとんどがゴミになっていると思うのですが」
「あー、どんどん捨ててもらってかまわんよ。金目のもの以外は捨ててくれ」
「了解しました。総合ギルドにゴミ袋をもらってきます」
さすがにお婆さんのお店にあった古本の残骸のように捨てに行くにはあまりにも匂いがきつすぎる。
前に溝掃除で使ったゴミ袋を借りて周りへの被害を避けた方がいい。
俺はエラゼムに待機を指示し、小屋の外に出る。
外に出た俺は、自分自身に掃除スキルのアーツ身だしなみで匂いを取る。
待機していたハーメルたちにそのまま待ってもらうようにいい、総合ギルドに向かう。
総合ギルドでゴミ袋を借りた俺は再び小屋の中に入る。
今日はもう町の中に戻る事はできないだろう。
俺はエラゼムとともに小屋の掃除を始める。
初めて入ったときもそうだが、腐った食べ物の匂いがひどい。
お爺さんの話でもかなりの長い期間放置されていたようで、そこかしこに匂いが染みついている。
まずは匂いの原因を断つために腐敗臭がする食べ物の片づけが最優先だ。
俺は総合ギルドで借りてきたシャベルで腐敗臭のする山を崩していく。
「おーい。ウイングといったかー。飯を用意してくれー」
……気難しいというか、傍若無人なんだろうか。
大体の匂いの元をゴミ袋にしまったところでお爺さんにご飯を要求されたので、
一度、地下に降りる。
「むー。匂いがひどいのー。どうにかできんかー」
「それだけ上の状況がひどいという事ですよ。あまり匂いのついてない従魔に運ばせますから」
先ほどまで外で待機してもらっていたハーメルとヌエに果物の入ったボウルを持たせてお爺さんに届けてもらう。
地下室の前まで近寄って中の様子をうかがう。
どうやら部屋の真ん中にあるテーブルに資料を広げて熱心に調べものをしているようだ。
できればその資料を見てみたいところだが、匂いの付いた状態では近づくことができない。
掃除がひと段落したら一度相談してみよう。
俺は階段を上り再び小屋の掃除に戻る。
ようやくゴミの片づけを終えた俺は、ここで掃除スキルの新たなアーツを使う事にした。
最近、司書ギルドのクエストやお婆さんのお店の掃除などで掃除スキルのレベルが上がった。
その時に、新たなアーツを習得した。
「掃除」LV5 アクティブスキル
アーツ
・LV5 部屋清掃 ・・・部屋の中にあるほこりや汚れを取る。効果範囲はMP50ごとに四方1m。ただし、大きなゴミもしくはゴミの塊には効果が無い。
俺が先に大きなゴミやゴミの山を先に片づけたのはこの為だ。
ゴミを片付ける前にこのスキルを使ってしまうと、大きなゴミが残る。
大きなゴミを片付けた時に床などが汚れるはずなので、2度手間になってしまうからだ。
俺はアーツ部屋清掃を使い小屋の中の細かい汚れを取る。
おかげで、先ほどまで漂っていた匂いもだいぶ無くなった。
後は俺の服に付いた匂いぐらいだろう。
そろそろ強制ログアウトになる時間なのでお爺さんに声をかけて、今日は帰る事にする。
階段を降りて、ハーメルとヌエに声をかけてから、お爺さんに声をかける。
「今日はそろそろ引き上げようかと思います。一応、上の小屋の掃除は終わりました」
「そうか。ご苦労、また頼むぞ」
「……クエスト完了書は?」
「なんじゃ、今日だけだと思っておるのか。まだまだ手伝ってほしい事はいくらでもあるぞ」
どうやら、今日の掃除だけではクエスト完了ではないらしい。
Bランククエストが一筋縄ではいかないとは思ったが、これは時間がかかりそうだな。
俺はお爺さんの家を後にしてログアウトした。




