79.物語の中(序)
俺はウインドウの選択をする前に、ページを捲ってみることにした。
しかし、なぜかそこからのページは白紙のようだ。どういう事だろうか?
これ以上、情報は無いようなので俺はウインドウのYESを選択する。
すると、持っていた本が光りだし、一瞬視界が真っ暗になる。
次に見えたのは、見覚えのない部屋だった。
しかも、いつもより視界が高いように感じる。
俺は状況を確認するために辺りを確認してみる。
すると自分のそばで寝ている人物がいた。
年齢は自分と同じぐらいの男のようだが、険しい顔をして唸っていた。
それ以外に水差しや机などあり、1人暮らしの部屋という印象を受ける。
そして、俺は地面に足が付いておらず、浮遊しているようだ。
……今の俺はどんな状態なんだ?
俺は自分の手のひらを見てみる。
すると、少し透けていて、先の景色が見えているのだ。
それに気づいた俺は自分の状態を確認する。どうやら、体全体が透けており、色もやや灰色がかった感じになっていた。
「うーん」
俺が自分の状態を確認していると、先ほど近くで寝ていた男が起きたようだ。
男はベッドから起き上がると寝ていた時に着ていた服の上から鎧を着こみ始める。
あたかも俺が見えていないかのように動いていた。
「あの、すいません」
俺が声をかけても反応が無い。
手を伸ばしても透けているからか、触れることもかなわなかった。
どうやら、俺は辺りへの干渉そのものができないらしい。
しばらくすると、男は準備が完了したようで部屋の外に出ていく。
その時、俺の体が男に引っ張られるように移動を始める。
どうやら、この男に憑いている霊のようなポジションらしい。
男は外に出て、大きめの建物に入っていく。
そこまでの町並みは見たことが無いので、俺が行ったことが無い町なのだろうか?
男は中に入ると、カウンターにいた髭面の男性に声をかけた。
「すまない。少しいいか?」
「おう、アルフ。なんのようだ?またモンスター討伐か?」
「……」
そこまで、会話が進んだところで俺の前にウインドウが現れる。
≪彼は何と答える?
1.あの森の調査のためにパーティーを募集したい。
2.あの森のモンスターを駆逐するためにパーティーを募集したい。
3.あの森で起こったスタンピードについて調査依頼をしたい。
4.剣の訓練のために相手を募集したい。
5.俺はもうここへ戻ることは無いだろう。 ≫
どうやら、俺が憑いているこの男が、あの本に出ていたアルフのようだ。
ここで選択肢が出るという事は、俺がここでアルフの次の行動を選択する様だ。
……なるほど、読んだ人物で内容が変わるというのは、読者が話の分岐点を選択するという事か。
とりあえず、この選択肢に時間制限はないようなので、今後の話の展開を考えてみよう。
まず、一つ目の選択肢だが、冒険物としてはありきたりな出だしだろう。
王道の話にしたいならこれが無難か?
次の選択肢は原因の調査ではなく、復讐するために森のモンスターを蹂躙したいだけのように見える。
3,4は目標に向けて慎重に準備する選択肢のようだ。違いとしては自分を磨くか、敵情視察がメインの違いか、かな?
そして最後、ここへ戻ることは無いだ。これは先が読みづらい。
復讐のために森に突入するようにも聞こえるし、さらに強くなるための旅に出るようにも取れる。
俺は悩んだ末、5.ここへ戻ることは無いを選択した。
理由としてはこの先の展開を1番読みづらいという事だ。
他の選択肢はある程度先が読みやすい流れだが、この選択肢だけはその後の展望がわからない。
せっかく自分で話の流れを選択できるなら、よりワクワクする選択肢を選ぶ事にしたのだ。
俺が選択している間、硬直状態だった人物たちが再び動き出した。
「俺はもうここへ戻ることは無いだろう」
「ん?なんでだ。……まさか、あの森に突撃する気じゃないだろうな! 早まった真似すんじゃねーぞ! お前の両親もそんな事のぞんじゃいねー」
「……」
男改めアルフは再び沈黙したかと思えば、再び選択肢が出た。
1.……。
2.森の調査のために仲間を集める旅に出るだけだ。
3.森に入るための修行の旅に出るだけだ。
どうやら、ここに戻らない理由を決定するらしい。
1番目の選択肢は決死の覚悟で目的の森に突撃するルートだろうか?
残りの2つは同じように旅に出る様だが、仲間を集めるのが主目的か、己を磨くのが主目的のようだ。
俺は2の仲間を集める旅に出るを選択した。そして再び物語が動き出す。
「森の調査のために仲間を集める旅に出るだけだ。この町は森に近いというわけではないし、俺もそこそこ強くなった。もう目的のために動き出してもいいかと思っているんだ。戻らないというのは覚悟を決めるための宣言みたいなもんだよ」
「……そうか。早まった選択を選んだわけじゃないんだな。寂しくなるがお前が決めたのなら俺が言うことは無い。達者でな!」
「今までお世話になりました。支部長!」
どうやら、ここはアルフが所属していた剣士ギルドで、この髭面の男はここの支部長のようだ。
アルフはギルドを出ると、一度最初にいた部屋に戻り荷物をまとめる。
まとめた荷物を持って町の出口へ向かっていった。
アルフが町を出たところで、急に視界が暗転する。
どうやら、元の世界に戻ってきたようだ。
俺が自分の状態を確認すると、先ほどクエストを受ける前と変わった様子はない。
そこで、持っている本を確認してみる。
すると、先ほどまで白紙だったページに文字が書かれているのがわかった。
新たに書かれた内容は先ほど俺が選択した通りにシナリオが進んでいるようだ。
最後はアルフが町を出て旅に出るところで終わっていた。
そして、最後のページまで来た時、栞が1枚はさんであるのを見つける。
俺は手に取りしおりを確認してみる。
選択の栞 ある小説の続きを記録するための栞
※チェーンクエストアイテム。他プレイヤー・NPCに譲渡不可
その栞は、真っ白な長方形の紙に “序” と書いてあった。
文字は上の方に書いてあり、字の大きさから、あと2文字入るくらいのスペースがあった。
この栞は本を読み始めるときにはなかったはずだ。
ここから考えるに、この本以外にも続きがあり、それが後2冊あるのではないかと思う。
順当に行けば、最初が序であるなら“破”と“急”が続くはずである。
もしかしたら、栞自体が増える可能性もあるので確定ではないが……。
物語を完結させるためには全てを見つけないといけないのだろう。
この部屋には続きの本が無いので、他の国の図書館にでもあるのだろうか?
栞の件も含めて、司書ギルドの職員に聞いてみるとしようか。
俺は栞をアイテムボックスにしまい、本を片付けた後、部屋を出る事にした。




