78.王都図書館の奥で
次の日、ログインした俺はメールが来ていたので確認する。
どうやら、イトスからで依頼した装備品が、今日の午後くらいに渡せるらしい。
俺は了解のメールを返信する。
今日はあの奥の部屋を見てみることにしよう。
しかし、ここで一つ問題が発生した。お婆さんに紹介状を渡された後、そのまま追いだされたために、あの奥についての説明がされなかったのだ。
俺は図書館に行く前に司書ギルドで聞いてみることにした。
「あの部屋の紹介状をもらったのに説明がされなかったって? ちょっとその紹介状を確認させてくれるかい?」
司書ギルドの職員に声をかけると、紹介状の確認を求められた。
当然と言えば当然なので、お婆さんからもらった紹介状を職員に見せる。
紹介状に書いてあった名前を確認した職員は納得したようにうなずき、俺に紹介状を返してきた。
「よくあのお婆ちゃんから紹介状をもらえたね。なかなか気難しい人だし、自分が職員であると言わないから、あの婆ちゃんの紹介状なんて初めて見たよ」
「あのお婆さんは有名なんですか?」
「ああ、私がギルド職員になる前からあそこで破棄されるはずの本を売っていたんだ。ここの司書ギルドに所属している職員の中じゃ最古参だよ」
そんなに長い間、旦那さんの本を探していたのか?
……いや、おそらく見つけた後もいきなりやめるわけにはいかなかったんだろう。
そこまで考えて話がそれていることに気づき、図書館の奥の部屋についての説明を促した。
「そうだった。今回聞きたいのはあの奥の部屋についてだったね。あの奥にはね、いわくつきの本が置かれているんだ」
「いわくつきの本ですか?」
「そう。例えばある人物が恨みつらみを書き綴ったもので読んだものは呪われるとか、誰かがいたずらに魔法をかけて触った瞬間、火だるまになる本とかが置かれているんだよ」
どうやら、読むのに勇気が必要な類の本が置かれた部屋らしい。
確かにこれは簡単には入れてはいけない部屋のようだ。
「それだけでも危険なんだが、そういう本が持つ淀んだ魔力のせいか、時々、部屋にモンスターが発生したりするときもあるんだよ」
「それは大丈夫なんですか?」
「問題ないよ。ダンジョンほど歪んだ空間じゃないからね。発生しても、レベル1から2くらいの低級モンスターだよ。部屋の中は結界が張ってあるからモンスターを見つけたら報告してくれるだけでいいよ。無理に倒さなくてもいいからね」
その後も奥の部屋の説明は続く。
……………………。
「だから、そこにある本は持ち出すことは禁止されているし、そういう本を興味本位で触って大惨事にならないように、司書ギルドの職員が信頼できると判断した人物にのみ、紹介状を渡すシステムになっているんだよ」
「そ、そうなんですか。」
「これで説明は以上だ。あの部屋に入るなら、覚悟はしておいてね」
俺は説明してくれた職員にお礼を言って司書ギルドを出た。
司書ギルドを出て図書館の2階に向かう。
今回は消費アイテム以外は、置いてきている。
その部屋にある本の効果で死んだり、アイテム消失してしまう可能性があるからだ。
最悪、消費アイテムは買い直せるし、回復が必要になる恐れがあるので少し持っていくことにした。
2階の奥の部屋まで来ると、職員の人が扉の近くで待機していた。
俺はお婆さんにもらった紹介状を見せて入室許可をもらう。
入るときに中で起きたことは自己責任であると念押しされた。
俺は頷き、扉を開けて中へ入る。
部屋に入るときに、結界を抜ける感覚があった。
中に本棚は無く10冊に満たない本がそれぞれの机に置かれているようだ。
1冊ずつ確認していくと、どうやら机にその本を読むと起きる事の詳細が書かれていた。
例えば職員さんが言った通り、本を開いただけで読もうとしている人に向かって火が飛んできたり、触っただけで状態異常、呪いにかかる本であると説明された本もある。
その中で、1つ気になる本を見つけた。その本の説明には、「物語がそれぞれの読者で違う本」という説明文が書かれていた。
それ以外に記述はなく、特に危険があるという事は書いてなかった。
俺は恐る恐るその本を手に取り、開いてみる。
本の冒頭を読んでみるが、特に変わった様子はない。
俺は内容を確認するために、さらに読み進めることにした。
“
これは昔々の物語。ある村にアルフという少年がいた。
アルフは貧しい農家の生まれであったが、優しい両親に大事に育てられ、健やかに成長していった。
……しかし、その幸せはある日突然、奪われることとなる。
アルフが15歳になったある日。
彼は日課である両親の手伝いをしていた時の事だった。
村から離れた井戸に水を汲みに行っていた彼は、帰り道を歩いていた。
そして、もうすぐ村が見えてくるという距離まで来た時だった。
村の方から火の手が上がっているのが見えた。
胸騒ぎがした彼は村に急いで戻ることにした。
戻った彼が目にしたものは、燃える村と逃げ惑う人々だった。
彼は水の入った桶を捨て、急いで両親の元へと急ぐ。
しかし、無情にも彼が見つけたものは両親の亡骸だった……。
それから1年後、彼は剣士ギルドに所属し、モンスターを積極的に狩る依頼をこなしていた。
あの騒動の後、生き残った村人とともに近くの町に逃げ延びた彼は、あの日起きたことを村人たちから聞いた。
とはいっても詳しいことはわかるわけもなく。突然近くの森からモンスターがあふれ出してきたという事しかわからなかったのだ。
その後も国の衛兵が調査に乗り出したようだが、結局何もわからなかったという。
どうしても両親が死んだ原因を知りたかった彼は自ら調べるために、剣士ギルドに入り修行の日々を過ごすことにしたのだ。”
掻い摘んで内容を説明するとこんな感じだ。ちょっと重い話のようだ。
この流れだとモンスターを退治する英雄譚ともとれるし、モンスターへの復讐劇ともとれる冒頭だ。
そこまで俺が読んだところで目の前にウインドウが現れる。
≪条件を満たしました。チェーンクエスト あなたの選択は? を受けますか?
YES/NO≫




