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77.お婆さんの過去

 イトスたちに装備を頼んで数日。

 俺はというと王都図書館で読書を楽しみつつ、司書ギルドのクエストと古本屋の整理をしていた。

 おかげで司書のレベルがそこそこレベルアップしている。

 読書ではなくても司書らしい行動をすれば経験値がもらえるのはファーストにある総合ギルドの資料室で経験済みだ。


 そして、夏休みも残すところ後2日となった日の午後、古本屋の整理がついに終わるときが来た。

 昼食後ログインした俺は古本屋に顔を出していた。


「今日でここの本の整理も最後になるかと思います」

「ほんとーによくやるよ。まぁ、好きにしな」


 俺がエラゼム達と整理を始めると、何を思ったのか普段は黙ってみているだけだったお婆さんが声をかけてきた。


「お前さんは本当に几帳面だねー。しっかりジャンル別に仕分けてー。すっかり店の中も広くなったよ」

「あはは……。どうしても気になってしまったもので」

「……お前さんは本が大好きなんだねぇ」


 お婆さんの声が今までと少しトーンが下がった。

 気になった俺はお婆さんの方に振り返る。

 すると、お婆さんが真剣な表情で俺のことを見ていた。


「お前さん、前から不思議に思わんかったか? どうして破棄されるはずの本を引き取り、売る気もないような置き方をしていたか」

「……」


 それは来た時から気になってはいた。お婆さんはどうして古本を引き取っているのか。

 売る努力も見せずに、ただただ本を積み重ねていたのか。


「その顔は思っていたようだねー。今日で最後だ。少し年寄りの昔話に付き合っても罰は当たらんだろう」


 俺達は整理の手をいったん止めてお婆さんの話を聞くことにした。


「それじゃあ、いいかい? まぁ、そこまで長い話でもないよ」


 お婆さんはそう言って昔話を始めた。


「これでも一応、旦那がいたんだ。もうずいぶん前に旅立っていったがね。そんで、私の旦那は物書きをしていたのさ。そしてある程度、売れるようになった時、1冊の本をここの図書館に寄贈した。あのバカは私に読んでほしいと言っていたが、私はそこまで興味が無くてねー。旦那が旅立つその日まで、結局読むことは無かったんだ」


 お婆さんはここで一息入れる。


「しばらくして旦那の私物の整理をしていた時、ふと旦那が言っていた本のことが気になってねー。図書館で探す事にしたんだ。だが、そこで一つ問題があってね。私は旦那が書いた本のタイトルを知らなかったんだよ」


 そう言ってお婆さんは自嘲気味に笑う。


「何とか旦那の署名がある本を探したんだがな。どれも旦那が言っていた本ではなかったんだよ。もしかしたら破棄される本の中にあるのかとも思った。そこで司書ギルドの職員になってまで破棄する本も集めて調べた。なんとか、それらしい本は見つけることができた。しかし、何を伝えたかったかは最後までわからんかった。ここで売っている本はその時、廃棄する本を集めた時の名残さ」


 俺はそこまで話を聞いて、気になったことがあったので質問してみることにした。


「それらしい本を見つけたのに何を伝えたかったかわからなかったんですか?」

「一応、本の中身は読んだんだけどねー。できの良い読み物くらいという事しかわからんかった」

「もしよければ、その本を見せてもらってもよろしいですか?」

「別にかまわないよ。少し待ってな」


 そこまで言うとお婆さんは急に立ち上がり、お店の奥に引っ込む。

 俺はしばらく待っていたが、なかなか出てこないので整理を再開しながら待つことにした。

 そろそろ掃除も終わりそうになってきたころ、ようやくお婆さんが戻ってきた。

 戻ってきたお婆さんの手には本が握られていた。


「ほれ、これがその本だよ」


 お婆さんに渡された本は表面がひどく汚れていた。お婆さんに聞いてみると、見つけた時からこのような状態だったらしい。

 俺は内容を確認してみるが、なかなか純情な恋愛小説のようだ。

 お婆さんの話によると、別にお婆さんたちの馴れ初めを書いたものではないらしい。

 しばらく、調べてみたが特に何かありそうな感じではないように見える。

 せっかくなのでお婆さんにある提案をすることにした。


「俺には本を修復するスキルがあります。この本に使用してもよろしいでしょうか?」

「なんだい? 傷つけるような真似したら承知しないよ!」

「ち、違いますよ。逆に直したいんです!」


 お婆さんに詳しく説明して復元の許可をもらう。

 許可も取れたところで本に対して復元を使用する。

 すると、表面が汚れ切っていたものがきれいになっていく。

 綺麗になった表紙を見たお婆さんが反応する。


「そ、そういう事か! ち、ちょっと、貸しな!」


 俺が持っていた本を持って行ったお婆さんは、再び奥へ引っ込む。

 しばらく残りの片づけをしながら待っていると、すすり泣く声が聞こえてきた。

 すると、お婆さんが先ほどの本と何かの紙切れを持って戻ってきた。

 泣いていたようで、目は赤くなっている。


「よーうやくわかったよ。まったく不器用なバカだよ」


 お婆さんの話では旦那さんは口下手で恥ずかしがりやだったらしい。

 最初のラブレターも暗号のようなもので渡されたらしい。

 最初はその意味が分からず、あとで聞いてラブレターの内容を理解したほどだそうだ。


 どうやらこの本には、その時のラブレターと同じような暗号が使われていたらしい。

 そのことがわかるように、表紙にメッセージが残されていたそうだ。

 手に入れた時点で汚れがひどすぎてわからなかったようだ。


 しかし、本を捨てるときは写本するはずだが?

 どうやら汚れた後に写本したために、メッセージの部分が書き換わっていたらしい。

写本されたものでは内容はしっかり写本されていたが、表紙は変わっていたそうだ。


 ……もしかしたら、お婆さんから詳しく旦那さんについて聞けば復元を使用しなくても、答えにたどり着けたかもしれない。

 まぁ、その場合は旦那さんがお婆さんにだけ伝えようとしたメッセージを、プレイヤーが知ることになってしまうからこれでよかったのかもしれない。

 

「あんたはここの図書館の奥の部屋に行くつもりはあるかい? もし必要ならこれを使うといい」


 俺が一人思案していると、お婆さんは俺に持っていた紙を渡してきた。

 どうやら、件のラブレターではなく、司書ギルドの職員から渡されるという紹介状のようだ。


「私は今でも司書ギルドの職員なのさ。主に本の廃棄を担当しているんだがね。そうして今も少しずつ本を集めているのさ。まぁ、習慣になっちまったんだろうね」


 なるほど、破棄するとはいえ、王都図書館に置いてあった本を個人で手に入れる事ができることを疑問には思っていた。

 司書ギルドの職員の中でも破棄を担当することにより、本を回収していたようだ。

 ……職権乱用じゃないか?


「もちろん、ギルドには許可をとってある。持ち帰ることがダメな本もあるがねー」


 顔に出ていたのか、お婆さんはそんなことを言う。


「さぁ、礼もしたんだ。もう掃除も終わったんだろう?用が済んだなら。出ていきな!」


 お婆さんが俺たちを追い出そうとしてくるので、そのまま店を出ることにした。

 ……俺からしたら、お婆さんもなかなかの不器用だと思う。

 今日はこの辺で、ログアウトするとしよう。


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似た者夫婦やなぁ泣いてまうわぁ
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