表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/268

72.王都の古本屋

 馬車が出発した時は真っ暗だった空が白んできた頃、前方から喧騒が聞こえてきた。

 俺は馬車の窓から顔を出して辺りを確認する。

 すると、馬車の前方に大きな壁があった。

 灰色の煉瓦で出来た壁は馬車の前方一面に広がっており、王都の規模が想像を超えることを示していた。

 今までの町や都市より大きいとしても2倍から3倍くらいかと思っていたが、10倍くらいあるかもしれない。


 馬車が近づいていくと壁の一部に大きな門があり、そこに行列ができていた。

 どうやら衛兵の人たちが検問しているようだ。

 俺が乗っている馬車も行列の最後尾に並ぶ。


 しばらくかかるかと思ったがかなりのハイペースで列が消化されていく。

 どうやら門のところに結界のようなものがあるらしく、そこを通過することで良し悪しを判別しているようだ。


 そして、俺が乗っている馬車の順番が来た。

 どうやら乗客が降りる必要はないらしい。

 そのまま、馬車は結界をくぐり、壁の中へと入っていく。

 馬車を降りた俺はログイン時間が限界だったので、一度ログアウトした。


 再びログインした俺は近くで荷卸ししていた住人に声をかけ、図書館の場所を聞いた。

 話によると、かなり奥まったところにあるらしい。

 道中に市場や商店街があるそうなので冷やかしながら向かうことにした。


 市場まで来たが、道の左右に果物や魚介類などをはじめ、様々なものが売られていた。

 武器や防具についてはこの先の区画にあるらしい。

 俺は露店を冷やかしながら図書館に向けて進んでいく。


 市場を抜けると今度は商店街のようなエリアに出てきた。

 こちらは先ほどの市場と違い、露店ではなくしっかり店舗が存在する。

 武器や防具のお店以外にも裁縫や料理等様々なお店が立ち並んでいる。


 何処に何のお店があるのか確認しながら進んでいくと、看板に本が描かれているお店を発見した。

 俺は急いでそのお店の中に入る。すると店の中で本が乱雑に積みあがっているのが目に入ってきた。

 ……なんというか昔の下町にある古本屋といった状態だ。

 本を乱雑に置かれるのは好きではないが、以前の資料室と違い共有スペースのものではない。

 ここは一度、このお店の主に事情を聴いてみよう。

 見渡す限りに人影が見えないので部屋の奥に向かって声をかけた。


「すいませーん! 誰かいませんかー?」

「うるせーわい! そんなに大声出さんでも聞こえとーる!」


 俺の声に負けないくらいの大声でお婆さんらしき人の声が返ってくる。

 しばらく店の入り口付近で待っていると、腰の曲がったお婆さんが出てきた。


「大声を出してすいません。実はここにおいてある本について聞きたかったので声をかけさせていただきました」

「なんだい、この古本に興味があるのかい? ここにおいてあるものはこの商店街の先にある図書館で破棄が決定したものを勝手に引き取って来たものだよ」


 そのあとの詳しい話を聞いてみると、ここにおいてある本はかつては図書館においてあったものだった。しかし、破損や老朽化などの理由で破棄が決定した。

 その廃棄されるはずだった本たちをこのお婆さんが引き取って、ここでたたき売りをしているそうだ。


 確かに形あるものはいずれ壊れて使い物にならなくなる。

 本も例外ではない。使用している紙がボロボロになればページをめくるのも一苦労だ。

 どうやらこのゲームでは、その辺も再現されているらしい。 

 確かに破損などして廃棄されるはずだった本たちだ。丁寧に扱うことを強要はしない。


 しかし、しかしだ。


 それでも、このように乱雑に置かれてしまっては読みたくても読めない。

 まして、下の方にある本は存在すら認知されなくなってしまうし、余計に損傷がひどくなってしまう。

 俺は意を決してお婆さんにある提案をした。

 

「時々、ここに来ますのでここの本を整理させてもらって構いませんか?そのついでに本も買っていきますので」

「どーゆうつもりだい? その行為はどんな利益をあんたにうむっていうんだ!」

「別に利益がほしいわけではありません。なんと言いますか、自分の心の安寧のためです」

「なんでここの整理をすることがあんたの心の安寧につながるんだい?」


 俺の発言にお婆さんはいぶかしげに聞いてくる。


「ここは図書館までの道中にあります。自分は読書が好きなのでしばらくその図書館に通うつもりです。つまり、毎回このお店の前を通ることになります」

「ふむ」

「そして毎回ここのお店を見ることになります。中の様子を知らなければどうとも思わなかったでしょうが、すでに知ってしまいました。とても気になって仕方ありません。もしよろしければ無償で片づけさせてください! その時気に入った本があれば買いたいと思っています!」

「そ、そーかい。別に適当に売れれば構わないと思っていたから、こちらとしては願ったりかなったりだよ」


 そのあと、少し話をして大まかな取り決めをした。


 時々、この店の本を整理しに来ること。

 整理中に面白い本を見つけたら購入してもいいこと。

 修復不能の本については破棄してもいいこと。


 大体このように決まった。

 前2つは最初の予定通りだが、最後の一つは俺から追加させてもらった。

 下の方に埋もれた本を一部確認してみたが、すでに損傷がひどすぎてアーツの復元が使えないものもたくさんあったからだ。

 さすがに本の体をなしてないものはどうしようもないうえ、本の塔が崩落する危険がある。

 これにはお婆さんも同意してくれた。


 話し合いも終わり、お婆さんの店を出た俺は当初の目的通り、図書館に向かう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ