67.ミッションコンプリート
初期地点でデスペナの回復を図っていると近くにプレイヤーが現れる。
どうやらドンハールさんのパーティーメンバーのようだ。
俺と同じようにリスポーンしたのだろう。
俺は自分がやられた後について聞いてみた。
あの後、ハルが少し取り乱したようだがパーティーメンバーのおかげですぐに平静を取り戻し、戦線に加わっているらしい。
戦況は悪くないようで、他のダンジョンから来たプレイヤーも合流してガンガン攻めている状態のようだ。
そろそろ俺のデスペナも終わるので館に向かう準備をする。
俺が攻略しているダンジョンが館だけだからだ。
たとえ、情報が拡散して渋滞しているとしていてもそこに向かうのが1番早い。
デスペナも解除され館の方に向かう。
館の前まで来たが思ったより人は来ていないようだ。
まだ、デスペナした人が回復しきっていないからと考えられる。
「あら、偶然ね」
後ろから声をかけられたので振り返るとリーンがいた。
「久しぶり? だなリーン。リスポーンしたわけじゃないよな? まだミッションに参加していなかったのか?」
「ええ。私たちが向かったダンジョンが人気すぎて行列が凄かったの。そんな時にあなたのメールを見て、悩んだ結果ここに来てみたというわけ」
「そういう事か」
「あ、あのう」
俺とリーンが話しているとリーンの後方から声をかけられる。
そちらに目を向けるとまさに魔法使いという風貌の背の低い少年がいた。
前に言っていた親戚の子供だろう。
「ああ、紹介が遅れたわ。この子が前に話していた親戚の子で、ゲーム内の名前はアレキサンダーよ」
「あ、アレキサンダーです。よろしくお願いします」
「ああ。俺はウイングという。リアルでリーンとクラスメイトなんだ。よろしく」
アレキサンダーとの自己紹介を終え、リーンたちとともに館に入ることになった。
クリアしたことがあるパーティーが代表してダンジョンに挑戦すれば、他のパーティーがそのダンジョンを未踏破でもボス戦をスルー出来るらしい。
これも先ほどのハルのメールに書いてあった。おそらくラピスさん情報だろう。
リーンたちを連れ、館に入りボスフロアに行く。
ここに来るまでに館を攻略した経緯を話すとリーンにはあなたらしいと言われ、アレキサンダーにはキラキラした瞳で見られるようになってしまった。
俺は苦笑しながらミッションにもう一度参加するため、扉の中に入っていく。
扉の先ではモンスターとプレイヤーたちの攻防が続いていた。
だいぶプレイヤーが集まってきているようでかなり有利に進められているようだ。
俺たちが戦場を眺めていると、こちらに近づいてくる影があった。
「お兄ちゃん! さっきはごめんなさい! 大丈夫だった?」
「ああ、問題ない。恐怖を感じる間もなく一瞬でやられたからな」
「ふふ。それは自慢にならないわよ?」
「あれこの人達は?」
「ああ、それはな……」
俺はハルとリーンたちとの紹介を簡単に済ませて、早く戦線に加わるべきだと伝える。
それに加えてリーンにある提案をする。
「アレキサンダーは俺と一緒に行動するから、思いっきり戦ってきたらどうだ?」
「えっ。いいの?」
先ほど館を歩いている時にアレキサンダーから聞いていたのだが、合流してすぐのころはかなり戦闘狂の部分が出ていたらしい。
その為、敵を全て倒してしまい、アレキサンダーが不貞腐れたらしい。
それを見たリーンもさすがにまずいと思い、最近は自重しているそうだ。
だからこのレイドボス戦では思いっきり戦ってほしいとのこと。
なので、気兼ねなく戦えるようにアレキサンダーが俺と行動し、リーンに単独行動できるようにしようというわけだ。
「いいの?」
「ああ、アレキサンダーの提案だしな」
「が、頑張ってきてね。お姉ちゃん!」
「・・・わかったわ。アレキサンダーにも気を使わせてしまったわね。その厚意に甘えさせてもらうわね」
そういうとリーンの口角が上がる。ハル含め見ていた奴らがビビる顔になったリーンはそのままボスモンスターに突っ込んでいった。
「お、お兄ちゃんの言っていたことがわかった気がするよ……」
「わかってくれるか、妹よ」
「あ、あははは……」
そうしてハルはパーティーに戻っていき、俺はアレキサンダーとともに後方からの魔法攻撃や支援をしていた。
リーンはと言えば最前線で、攻略組より強いんじゃないかってレベルのすさまじい身のこなしで攻撃を続けていた。
どれほどの時間、戦闘していただろうか?
MPもMP回復アイテムも底をつき、隅っこに移動した俺たちは戦場を眺めていた。
アレキサンダーも長時間の戦闘に疲れたようで、俺と一緒に果物を食べながら休憩している。
ボス戦でこういうことをしていると見咎められそうだが、他のパーティーも魔法職のMPが尽きたのか、何人か戦線を離脱して休憩している奴がいるので問題ないだろう。
リーンは相変わらず最前線ですさまじい攻撃を繰り返している。
先に来ていた攻略組は疲れからか、後退しながら回復を図っているらしい。
何度かリスポーンしているプレイヤーもいるが、すぐに戻ってこれているようだ。
館の情報が役に立っているようで何よりだ。
そんな状況を眺めていると突然、深緑だったボスモンスターの体が赤色に染まる。
「激昂状態に入ったぞ! 動きに気をつけろ!」
「もう少しで倒せるという事だ! 気合を入れていくぞ!」
誰かがそんなことを言っている間にタコから出ている触手が倍の数になりプレイヤーを襲う。
さすがに休憩しているわけにもいかず、アレキサンダーとともに戦線に加わる。
そろそろクライマックスのようだ。
……………………。
辺りに響くすさまじい轟音と共に赤くなったタコはポリゴンに変わっていく。
意外なことにボスに止めを刺したのはドンハールさんだった。
ここまで一度も使わなかった大槌を、タコにたたきつけるとすさまじい爆発が起こった。
爆発の煙が晴れるとタコがポリゴンに変わり始めており、ドンハールさんの大槌は柄の部分だけになっているのが見えた。
どうやら一撃入れると大爆発を起こす、使い捨ての装備のようだ。
いつ補給できるかわからないサバイバルイベントでそんな装備を持ってくるとは。
≪イベントミッション 外世界からの異物討伐 をクリアしました。ミッションエリアにいるプレイヤーをイベントエリアに送還します。≫
こうして3日目のミッションは爆発とともに終了したのだった。




