64.ペンダントの行方
あのスケルトンはキルナの部屋にあった絵のウサギに特徴が似ている。
というか骨だけになっている以外はまんまだ。
……可能性は考えてはいたが、やはりペットは亡くなっていたようだ。
あの小屋の崩落具合から、たとえ異変を生き延びていたとしても生きてはいないだろうと思っていた。
「すいません! そこのウサギ型スケルトンには攻撃しないでください!」
俺はメンバー全員に聞こえるような声で叫ぶ。
他のメンバーは俺の声でウサギのスケルトンに気づいた。
ペットの特徴は事前に伝えてある。
ウサギの耳飾りを見て、事情を理解してくれたようで全員から了承を得る。
俺はウサギ型のスケルトンに近づく。
「……!」
スケルトンゆえか、声は発さないが警戒態勢を取るウサギ型スケルトン。
俺はスケルトンに対してペンダントを掲げる。
「これに見覚えは無いか? お前のご主人様に託されたペンダントだ」
「……!」
「チュウーーー!」
俺が声をかけたと同時にスケルトンは俺に向かって突っ込んでくる。
ハーメルが事前に警告してくれたので何とかかわす。
どうやらペンダントを見ても反応を示さないようだ。
違うウサギだったのか?
いや、あの耳飾りは間違いなく、あの絵に描かれていたウサギの物で間違いないはずだ。
なら、ボスが操っていることで反応できない可能性がある。
俺は全体の戦況を確認する。
どうやら取り巻きはそこまで強いものがいないようで、皆一撃で屠っている。
ただ、倒してもしばらくして再生するようだ。
おそらくボスを倒すまで再生を続けることだろう。
俺はウサギ型スケルトンを倒さないように足止めしながら、リッチに魔法を放っているラピスさんに声をかけた。
「取り巻きなら俺も問題なく戦えるから加勢したいんだが」
「いえ、その必要はないですよ。このリッチはDランクダンジョンにいる中ボスとほぼ同じ強さです。普通は1パーティーで挑むボスにレイドで挑んでいるので、それほど時間はかからないでしょう。そちらの状況はどうですか?」
「芳しくない。ウサギにペンダントを見せてもそのまま襲ってきた。おそらくボスを倒さないとダメなんじゃないかと思う」
「わかりました。それではちゃっちゃと倒してしまいましょう」
ラピスさんの言う通りそれほど強いボスではないらしく、ラピスさんとハルのパーティーだけでリッチとその手下であるスケルトンたちを追い詰めていく。そして……。
「――――――……」
リッチはハルたちの猛攻を受けついに力尽きたようで、スーッと消えるようにポリゴンに変わっていった。
すると、取り巻きのスケルトンたちも動くのをやめゆっくり消え始める。
俺はハーメルたちが足止めしていたウサギ型スケルトンに近づく。
スケルトンの前でしゃがんでペンダントを差し出す。
スケルトンはゆっくりした動きで差し出されたペンダントを咥える。
「……」
顔も骨になっているので表情をうかがい知ることはできない。
だが、なんとなくうれしそうな雰囲気は伝わってくる。
スケルトンは咥えたペンダントとともにポリゴンとなって消えていった。
すると、スケルトンが消えた後に小さな宝箱が残る。
ボス戦の後に宝箱が残るのは初心者ダンジョンで経験済みだ。
しかし、リッチ戦の宝箱は今、ラピスさんたちが物色している。
つまりこの宝箱はあのスケルトンの物という事か?
疑問に思いながらも宝箱を手に取る。
≪シークレットクエスト 託された絆 をクリアしました。報酬をお受け取りください。≫
どうやら舟守の日誌からこのボス戦でウサギ型のスケルトンにペンダントを渡すまでが一連のクエストだったらしい。
この宝箱はクエストクリアの報酬という事か。
俺は宝箱を開けてみる。
中に入っていたのは、ウサギが付けていた花の耳飾りと同じデザインにカットされた、青い宝石がはめ込まれたペンダントだった。
絆のペンダント
耐久値 ∞
重量 2
装備時、従魔をパーティーに加えるときパーティー枠+1
※他プレイヤーに譲渡不可及び破棄不可
何となくあのウサギのお礼なんじゃないかと思う。
俺は宝箱からペンダントを取り出し首にかけた。
今は意味のない効果だが、せっかく託されたのだから装備しておこうと思う。
俺は立ち上がり、宝箱を囲っているラピスさん達の方に合流した。
「そちらの宝箱はどんなものが入っていたんだ?」
「あっ。遅いよ! お兄ちゃん!ウサギさんはどうなったの?」
「おう。ウイング! 先に宝箱の中身を確認させてもらってるぜ!」
「待っていました。ウイングさん」
俺はあのペンダントをウサギに届ける事がシークレットクエストだったことを伝える。
そして、リッチの宝箱に入っている物は辞退する旨を伝えた。
俺自身はボス戦でまったく活躍していない。それに当初の目的であったペンダントを届けることはできた。
これ以上はもらいすぎだと言って断ろうとしたのだが。
「ダメだよ! お兄ちゃん!」
「そうですよ。ウイングさん」
他のメンバーから猛反発を受けた。
ボス戦で活躍できなかったとはいえ、ここにたどり着けたのは俺のおかげだと。
それに宝箱の中身が4パーティーで分けやすい数になっていること。
「お前がもらわないと、ついてきただけの俺たちはもっともらいづらくなっちまうだろう」
最後にドンハールさんのこのセリフが決め手となり、宝箱の中身を受け取ることとなった。
今回のダンジョンで使用した消耗品の作成を受け持っているドンハールさんたちが、ついてきただけというのは違うと思う。
だが、俺が受け取らないことでもらいづらくなってしまうのは本意ではない。
宝箱の中身を分配し終えたので地上に帰ることにした。
宝箱の奥の壁に扉があり、その隣に帰還用の魔法陣が出現している。
ラピスさんと話し合い、ここのダンジョンの攻略法は秘匿することになった。
このダンジョンが扉までの距離が最短だそうだ。
種さえわかれば最速で扉の前まで行けるらしい。
せっかく一番乗りで行けるダンジョンの情報を手に入れたのに、その情報が広まってしまうと行列ができてしまう。それは避けたいとのことだ。
俺たちは休憩を終えた後、順番に魔法陣のうえに乗り地上に帰還するのだった。




