63.地下階段へ
俺たちは書斎を出てキルナの部屋に向かう。
ただ、書斎から本を持ってくることができなかった。
アイテムボックスに入れる事も出来なかったので、ダンジョンの一部という事だろう。
残念ではあるが仕方ない。
また時間ができた時に読みに行くとしよう。
キルナの部屋に着いた俺たちは先ほどの資料の見取り図をもとに階段のフロアの真上になる位置を探す。
俺がアーツ転写でコピーできているので迷わず進んでいける。
どうやら扉から入ってすぐ右に曲がった先にあるクローゼット辺りが階段の真上のようだ。
俺たちはクローゼットを開けて中を確認する。
女の子用の服がいくつか入っている以外は特におかしなところは無いようだ。
素直に1階に戻って階段の壁を調べた方がいいだろうか?
俺は他のメンバーに提案しようと振り返ろうとして、顔を上げた。
その時、あるものが視界に入る。
それは布が敷いてある籠だった。おそらくペットであるウサギの寝床だったのだろう。
……確か日誌では最初に変調をきたしていたのはペットだったはずだ。
俺は籠の方に向かい辺りを確認してみる。
籠をズラして下に敷いてあったカーペットを剥がす。
すると籠辺りの床に床下収納のような扉が付いていた。
ビンゴだ。ペットは地下の異変を最も受けやすい位置にいたから真っ先に体調不良に陥ったのだろう。
俺たちは床の扉を囲い誰が開けるか相談する。
「ウイングさんですね!」
「ウイングだろ!」
「お兄ちゃんでしょ!」
満場一致で俺になってしまった。
ここは第一発見者であり、謎を解くのに貢献した俺が行くべきだという。
それに、いまだペンダントに変化が無いので、この先で必要になる可能性がある。
これらの事から扉は俺が開けることになった。
扉を開けた先には木の梯子がかけてあり、下の階層に降りられるようになっているようだ。
どうやら何かあったときに地下へ避難するための非常口だったようだ。
娘の部屋に作ったのはそれだけ娘が大切だったのだろう。
俺は一度顔を上げ、皆に見たままを伝える。
話し合いの結果俺を先頭に順番に降りることになった。
しかし、ここで困った事態に直面してしまった。
エラゼムが梯子を下りられるかという問題だ。
斧は不要な時は背中に背負えるから問題ないが、自重で梯子を壊しかねない。
とりあえず、エラゼム以外のメンバーが下の階に降りることにした。
俺が先頭で降り、次に光魔法を覚えているメンバーが降り、辺りを照らしてもらう。
すると周りを壁に囲まれた空間が照らし出される。
何とかメンバー全員が入れそうなスペースはありそうだ。
そして図面通り、クローゼットの真下辺りに階段があった。
特に罠は無さそうなので他のメンバーも降りてきてもらう。
ヌエはそのまま飛び込んでもらい、俺が受け止める。
しかし、エラゼムを受け止めるのは誰がやってもリスクが生じてしまう。
「……」
俺たちが悩んでいると不意に上にいるエラゼムが何かジェスチャーで伝えてくる。
どうやら扉の下にスペースを開けてほしいそうだ。
俺たちは階段にズレて扉の真下にスペースを作る。
次の瞬間、エラゼムはそのまま梯子を使うことなく飛び込んできた。
辺りにすさまじい轟音を響かせながらエラゼムは着地した。
「お、おい。大丈夫か?」
「……」
エラゼムは頷くが、一応ステータスを確認する。
少しダメージを受けているがそれ以外は特に問題なさそうだ。
……石床はひび割れていて無事と言えない状態だが、プレイヤーがダンジョンを出ると元に戻るので気にしないことにする。
何とか全員無事? に降りる事が出来たので階段を下りていくことにした。
俺を先頭に薄暗い階段を慎重に降りていく。
1階、2階と打って変わって罠の類は今のところ無い。
ラピスさんが言うにはここを隠すためにトラップだらけなフロアを用意した可能性が高いので、ここから先は普通のダンジョンではないかという話だ。
もしかしたらそのままボス戦の可能性もあるので注意してくださいと言われた。
それなら俺が先頭はまずいんじゃないか?
しかし、ペンダントの件があるのでそのまま先頭で進むしかない。
しばらく階段を降りていくと大きな広間のようなところに出た。
そして視界の先に、木の杖を持ち、ボロボロのローブを着た骸骨がいた。
おそらくリッチというモンスターだろう。
たしかレイス系のDランクダンジョンの中ボスで出てくるモンスターのはずだ。
先ほどラピスさんが言っていた通りいきなりボス戦に突入する様だ。
とりあえず俺と生産職パーティーは後方に下がる。
リッチはペンダントを見ても特に反応を示さなかったので、俺は戦力外になった。
戦闘は本業の人たちに任せて自分たちの身を守ることに集中しよう。
俺たちが戦闘態勢に入ったのを確認してリッチは杖をふるう。
すると広間一面に小さな魔法陣が沢山出現する。
魔法陣の中から様々な生き物のスケルトンが現れる。
どうやらリッチは下僕となるモンスターを召喚したようだ。
俺の視線はそのうちの一体にくぎ付けになった。
そのスケルトンはウサギ型で、耳の辺りにボロボロの青い花の飾りが付いていた。




